心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

急性心不全の退院直前のクレアチニン上昇は、ループ利尿薬に騙された腎臓の悲哀

心不全の治療の最後の方で、血中の尿素窒素とクレアチニンが上昇するということは、よくあります。

 

これに関して、脱水による変化、つまり腎前性腎不全であると説明されます。

 

本当でしょうか。私は以前から違うなと思っています。

心不全で溢水の治療として利尿薬を使いますが、溢水が解除されれば、多くの患者は、経口摂取の水分量と尿量はバランスします(in - out balanceの均衡)。

そのin - out balance均衡状態で、利尿薬を、その人の、その状態において過量に飲んでいると、腎前性腎不全、つまり、循環血流量が減少するのかというと、私は否定的です。

理由は単純で、循環不全の時の所見がないからです。特に本人が基本的にはすこぶる元気で、いつでも退院大丈夫という状態のことがほとんどだからです。ほかの血液検査が異常所見を伴うこともないですし、爪でみる毛細血管再充満時間の遅延、爪の色の白色化など何の所見の悪化もないことがほとんどです。

そのような状態で、本当に腎前性腎不全が起きるほどに循環血流量が低下しているかというとそれはないように思っています。

 

ただ、一つ循環血流量の低下の最も重要な所見である(と私が主張している)尿中電解質は、低灌流所見を示します。つまり、尿中Na,Cl値が低下し、K値が上昇します。

 

www.kenkohlive.com

 

 

この変化をどうとらえればいいかというと、利尿薬、特にループ利尿薬が腎臓に低灌流を起こしているとシグナルを送っているのだと思っています。おそらく、ループ利尿薬は、マクラデンサのCl濃度センサーもブロックしますので、腎臓全体が低灌流の時の反応を見せるだと思っています。つまり、腎血流の低下、再吸収が行われやすい傍髄質に分布する糸球体への血流変化などです。

つまり、全身が循環血流量の低下となっているのではなく、腎臓が低灌流だと勘違いして、腎臓にだけ低灌流の変化がみられるのではないかと考えています。

 

入院直後と違って、退院直前にクレアチニンが上がっても予後には関与しないという報告が散見されますが、このような機序で説明できるのではないかと考えています。

 

ちなみに、心と腎の関係は心腎連関といわれますが、急性心不全の治療開始直後(48時間以内くらい)に腎機能が悪化するのは、予後が良くないとわかっています。

これは、心不全の急性増悪は、心筋炎でもない限り、入院時が最悪の状態で、適切に評価し適切な治療をすれば、速やかに循環自体はよくなり、利尿薬が投与されれば尿量として反応が見られます。クレアチニンが、よくなるのは腎循環が良くなって、1日程度はかかるとしても、48時間後には少なくとも腎循環が良くなった結果として、クレアチニンの不変ないし低下がみられると思います。しかし、入院3日目くらいに腎機能が、入院時より悪化しているというのは、初期治療に反応していないことを示します。つまり、病態の悪さが、治療の効果を上回っていることを示しますので、これは予後悪化の指標になります。