心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(50-5:心不全に必要な腎臓の知識、心不全の時に血清クレアチニンが上がる理由)

腎機能の最も重要な機能の一つである糸球体ろ過を規定しているものは以下のものです。

 
1) 腎血流量
2) 糸球体内圧
3) 糸球体ろ過にかかわる糸球体を構成する毛細血管やその周囲の細胞機能
  (これが正味の腎機能であると思われる)
 
 
心不全になった時に、腎臓へはどのような影響があるでしょうか。
また、心不全患者の腎機能を見ることで、心不全のどのような状態が評価できるのでしょうか。
 
 
重症心不全になると腎血流量は減少し、糸球体内圧も低下します。そのため、糸球体ろ過量は低下します。
腎臓そのものの構造や機能が正常であっても、糸球体ろ過量は、腎臓以外の要因によって減少します。
 
 
まず、糸球体内圧に関しては、腎臓自体に、心臓や筋肉のように圧を発生させる機構はないため、糸球体内圧のとりうる最大の値は、収縮期血圧と中心静脈圧の差になります。
重症の心不全でも、安定している代償期という状態であれば、通常中心静脈圧(≒平均右房圧)は、一桁の前半(<5mmhg)程度にはコントロールされていることが多いので、基本的には糸球体内圧は動脈圧に依存します。
 
しかし、血行動態的に不安定化している非代償性心不全という状態になると、中心静脈圧は容易に10mmHg以上となります。特に、右心機能不全があるような患者や、心膜による影響で右室の拡大で左室の拡大が制限されるような場合には、中心静脈圧が、15-25mmHg程度に上昇することはよくあります。
このような時には、収縮期血圧が100mmHg程度あっても、最大でも糸球体内圧は、75-85mmHg程度となります。
もちろんこれは最大値ですので、腎臓内での圧の減退や、糸球体の圧の制御がもともと動脈の圧の変動に対して調整するように働くため、静脈圧の上昇は、直接的に糸球体の出口圧の上昇となる可能性があり、心不全による静脈圧上昇時には、糸球体内圧は動脈圧が低下したとき以上に低下する可能性があります。
 
また、心不全の時には、低循環状態になったり、そうでなくても全身が低循環であると誤って(または過剰に)判断してしまうことがあります。
このような状態になると、重要な臓器に優先的に血流が分配されます。優先される臓器は、心臓と脳です。そのため、腎臓は、筋肉程血流は低下しませんが、心臓や脳よりは容易に血流の低下が起こります。
 
つまり、心不全の場合には、糸球体ろ過量の低下は、低循環による腎血流の低下(心拍出量の低下および血流の臓器分布の調整による低下)でも起こりますし、腎臓のうっ血による腎うっ血という状態でも起こります。
さらに、低潅流を伴う心不全の急性増悪時には、必ずうっ血症状を伴いますので、低潅流と腎うっ血の両方による糸球体ろ過量の低下が生じています。
(安定期や代償期の治療の途中であれば、うっ血を伴わない低潅流状態は存在しますが、急性増悪時には基本的にはうっ血を伴います)
 
糸球体ろ過量のバイオマーカーは、一般的には血液の血清(血漿)クレアチニン値です。(保険診療の関係で、シスタチンCは頻回に測定できませんので)
クレアチニンの血中濃度の変化は糸球体ろ過量の変化を示唆します。
そのために、心不全の急性増悪にクレアチニンがある程度上昇しているときには、この腎臓の潅流低下か、腎うっ血を示唆します。
(たまに薬剤などによる間質性腎炎や腎障害が生じている可能性もありますが)
 
逆に、心不全が増悪していても、クレアチニンに変化がなければ、糸球体ろ過量に変化はないことが示唆されます。
 
ただ、ここで注意が必要なのは、たとえば、状態が急激に悪化したときには、血液検査のクレアチニンの上昇には半日程度はかかりますので、急変したときに、血液検査を行っても血清クレアチニンに変化はありません。
しかし、この時に、尿中クレアチニンをはじめとした尿中生化学検査は劇的な変化をみせています。この尿中の生化学変化は、また、もう少し先のお話です。