心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて (50-4:心不全に必要な腎臓の知識、糸球体ろ過量を規定する因子)

腎機能の最も重要な機能の一つである糸球体ろ過を規定しているものを整理したいと思います。

 
1) 腎血流量
2) 糸球体内圧
3) 糸球体ろ過にかかわる糸球体を構成する毛細血管やその周囲の細胞機能
  (これが正味の腎機能であると思われる)
 
糸球体ろ過の量は、腎臓に流れ込む血流量に依存します。
すべての臓器でいえることですが、血流量はその臓器の血管抵抗により決まります。その臓器全体の血管の抵抗値(主に終末細動脈)によりどれだけの血液が振り分けられるかが決まります。
そのため、輸入、輸出細動脈やそれ以降の血管の抵抗値の総和に従って全体の血流の中の腎臓の血流の割合が決まります。
 
 
次に、糸球体の内圧の低下は、糸球体ろ過量の低下の重要な原因となります。
糸球体の毛細血管の内圧は、その前後にある輸入細動脈と輸出細動脈の間の圧較差になります。
輸入細動脈が収縮し、輸出細動脈が拡張すると、糸球体内圧は下がりますし、逆に輸入細動脈が拡張し、輸出細動脈が収縮すると、糸球体内圧は上がります。
糸球体ろ過を増やすことだけを考えると、糸球体内圧を上げるほうがいいので、輸入細動脈を拡張させ、輸出細動脈を収縮させる方針となりますが、長期の糸球体内圧の上昇は糸球体の硬化といって、糸球体の機能不全の原因となりますので、長期的には、症状や検査所見に異常がでない範囲で糸球体内圧を低く維持する方針となります。
 
ちなみに、全身の収縮期血圧が90-180mmHgの 間では,輸入細動脈と輸出細動脈の調節により糸球体内の毛細血管の内圧は60mmHgに維持されています。
 
 糸球体のろ過圧は、糸球体内圧60mmHgから血漿膠質浸透圧32mmHgとボーマン囊内圧18mmHgを引いたもので 10mmHgとなります。
 
これについて、補足説明します。
ボーマン嚢内圧とは、糸球体が入っている袋の中の圧ですので、糸球体から原尿がボーマン嚢へと流出するときに、ボーマン嚢の内圧は、糸球体から原尿をろ過するときの抵抗となりたす。そのため、まずは、糸球体内圧から、ボーマン嚢内圧を引いた圧、42mmHgが駆動力になります。
 
次にもう一つ駆動力というか、血管の中に血液(の血漿=水)を引き留めようつする力があります。これは膠質浸透圧というもので、血管内と血管外(ここではボーマン嚢内)の膠漆(≒アルブミン)の濃度差により水の移動が起こるという現象の駆動力となるものです。たいてい、血管の中のほうが膠漆の濃度が高いので、膠質浸透圧は、血管の外から中へとかかる力になりますので、つまり、血管の中に水を引き付ける力といえます。
膠質浸透圧は、血管の中から外に水が移動する(原尿がろ過される)のに対抗する抵抗となります。
 
腎臓の糸球体内とボーマン嚢の膠質浸透圧の差は32mmHgとのことですので、最終的に10mmHgが血管からボーマン嚢へと水を押し出して減少を作る原動力となります。
 
この駆動力によって、血管の中から血漿がボーマン嚢内へ移動し、原尿となります。
 
この圧力のほかに原尿の量を決める(糸球体ろ過慮を決める)ものは、糸球体のすべての毛細血管の表面積と血管の透過性です。
 
別項目で説明しますが、これはFickの法則と呼ばれるもので、Fickの法則は、この血管内外の圧較差と膠質浸透圧を駆動力として、毛細血管の表面積と、毛細血管自体の透過性(脳は透過性が低く、肝臓脾臓は透過性が高い)により移動する水の量が決定するという法則です。
 
ただし、収縮期圧が80前後でも非常に健康な人はいくらでもいます。この値は理論値であり、おそらく通常はほかのいろいろな調整系が作用して、80程度でも、糸球体ろ過は正常に行われると思われます。
 
 
最後に糸球体やその周囲の支持組織の機能も糸球体ろ過に影響を与えます。
まず糸球体の毛細血管が少なくなれば、当然ろ過される表面積が少なくなりますので、糸球体ろ過量は減少します。
糸球体は、もともとすべての毛細血管を使ってろ過しているわけではないとのことです。しかし、毛細血管に障害が起こると徐々に使っていなかった後半部分の毛細血管を使用したりして、ろ過を維持しようとしますが、それすらできなくなると糸球体ろ過量が低下していきます。
このような疾患は、いわゆる糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの疾患でみられます。
私は、個人的に糸球体の機能は、この機能障害に限定されるのではないかと考えています。
循環血液量や糸球体内圧は、基本的には腎臓外の要因ですし、十分な循環血液量と適正な糸球体内圧が与えられたときにどれだけ糸球体はろ過できるかということを意識しないといけないと思います。