心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

HFpEFには心リハだと思う理由

左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF, Heart Failure with preserved ejection fraction)は、一見心エコーやMRIなどでみると左室駆出率(LVEF)が、少なくとも50%以上あって悪くはないのに心不全を行いている症候群です。原因はひとまず問われず、心不全患者のLVEFだけをみて、大きく2つ(ないし3-4つ)にわけることになります。

原因としては、アミロイドーシスや心ファブリーなどの何かが心筋組織に蓄積するようなある程度特殊なもの以外に、比較的良く見るのが高齢女性という集団になります。もちろん高齢男性にもみられることはありますが、統計的には高齢の女性に多くみられます。

なぜか。また、現状何故有効な薬剤治療がないのか。今回はそのあたりを私の完全な私見でお話していきます。

 

すべては後負荷が原因であると思っています。後負荷というのは、別で述べていますが、血管そのものと血管内の血液によって作られる、心臓の収縮に対して邪魔するように働く負荷になります。また、心臓はこの後負荷に対して、仕事をして循環を維持するというものになります。

心臓は、収縮して血液を駆出するこことで、すでに血管の中にある血液を動かします。動かされた血液は、さらに前方にある血液を押しながら進む成分と、血管を拡張させて拡張期に流れるために一時的にプールされる血液にわかれます。この連続によって血液は血圧を作り、かつ、末梢へ血液を進めます。

また、末梢組織では、終末細動脈が抵抗血管となって圧をそぎ取って、末梢組織内の毛細血管に過度な負荷がかからないように調整しています。末梢血管抵抗を下げると血圧が下がるといわれますが、末梢血管抵抗は末梢組織を保護していますので、低下させるには限りがあります(本当に末梢血管抵抗の低下が血圧を下げているのかどうかも検討する必要があります)。毛細血管内は通常では浮腫が起きない(血管から組織への水の移動量がリンパからの汲み取り可能量以下)程度の圧で、かつ、定常流で、少し赤血球は変形しながら流れます。毛細血管内をある一定の状態に保たなければなりませんので、最終の目的である毛細血管の状態はあまり変化させないような範囲でしか手前の循環的な要素を変化させることはできないのです。

 

この制約の中でもっとも後負荷を規定する要素は、大血管のコンプライアンスと末梢血管の数です。大血管、つまり、大動脈のコンプライアンスは、急心不全の原因となることが推測されており、急性にコンプライアンスが増加して、心臓に強い後負荷の変化を与え、さらに左室拡張末期圧を上昇させると推測されています。しかし、急性の変化に対するニトロスプレーのような治療はあっても慢性期により大血管を弛緩させるような治療はなく、また、このようなタイプの心不全の急性増悪を予防することが難しいことも、また、実臨床の中で経験されている事実でもあります。

 

次に、末梢血管の数もまた、後負荷に強く影響します。末梢血管が増えれば、血管の総面積が増えますので、総面積ないし、総容積の増加は、並列回路の発想と同じで総抵抗を減少させます。

この2つの要素が最も出やすいのが高齢の女性ということになるのではないかと考えています。血管は、否応なく加齢に伴いコンプライアンスが低下します。また、高齢の女性は、高齢男性や若年者と比較して、筋肉量が少ない傾向にあります。それは、もともとの運動習慣であったり、体格そのものが小さいということが関係すると思います。筋肉量が少ないということは、すなわち可変の末梢血管の数の減少という結果となり、後負荷の上昇につながります。

つまり、大血管が固くなってしまい、末梢の動脈が少ないということが、高齢女性というグループをいわゆるHFpEFにしている大きな要素ではないかと考えています。

 

ここから、HFpEFの治療において、薬剤がなかなか有効ではないという理由もみえてきますし、最も重要な治療が、運動であるということに帰結するように思っています。

1次予防としてのジムや運動教室、2次予防としての心臓リハビリが非常に重要な治療になってくると考えられます。

 

以上が、私が、心臓リハビリこそがHFpEFの治療の最も有効な治療であると考える理論的な背景となります。理論循環器学と私が勝手に呼んでいる学問内での妄想ですので、本当かどうかはわかりませんが、今わかっていることから、矛盾なく、一つ一つ解き明かそうとするとこのような結果となるような気がします。