心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

サムスカという薬

サムスカという利尿薬があります。発売が2010年12月14日とのことですので、すでに8年と少し経っていることになります。
新しい機序の薬というのは、治療の新たな一手となるだけではなく、特に臨床医に病態を考え直すきっかけを与えたり、改めて今までにもあったバイオマーカーに改めて気付かせてくれたりします。またそれだけではなく、病態理解を深めることで、包括的な治療をより有効にする方法を教えてくれるものでもあると思いました。
 
 
サムスカは、一般名トルバプタンです。腎臓で水を回収(再吸収)するのを制御するバソプレシンの作用をブロックします。
腎臓に関しては、以前にお話しさせていただいていますが、ざっくりというと、腎臓の糸球体という毛細血管の塊となっている部位で、血液から血漿成分が血管外へ濾し出されます。基本的には、アルブミンと同程度以下の大きさの蛋白や中小の分子が濾し出されます。アルブミンは、大きさ的には濾し出されますが、毛細血管の内側と同じ電荷のため、電気的に反発するので、濾し出されるのは、一部になります。この一部も尿細管で再吸収されるために、正常の腎臓では、尿中にアルブミンは極々少量しか出てきません。そのため、尿中アルブミンの出現は腎障害、特に糸球体の透過性異常のマーカーとなります。
 
さて、糸球体という毛細血管から濾し出されたタンパクや水などの分子は、そのままでは、行き場なく浸み出してしまうだけなので、糸球体自体がボーマン嚢という浸み出した血漿(原尿)を回収できる袋の中にあります。袋には、尿細管という管がついていて、血管の外に浸み出し、袋の中に出てきた成分が順々に尿細管の方へと流れだしていきます。
尿細管は一本道で、最終的に集合管に名前が変わって、それぞれの糸球体、ボーマン嚢を起源にする無数の集合管が集まって、最終的に腎盂となり、腎盂にある液体成分が尿ということになります。
濾し出された直後の原尿が、尿細管や集合管での調整を受けて、尿となる過程に、様々な因子がかかわります。その主だったものが、3つ。交感神経、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系、そして、バソプレシンになります。
ここもざっくりと、3つの役割を説明します。交感神経は、圧とレニン分泌を調整し、原尿の量や塩の再吸収にかかわります。レニンは、塩の調整を、バソプレシンは、水の再吸収を調整し、尿の濃さを調整します。
生物が、海の中の生活、そして、水を離れる進化の過程で、体の浸透圧の調整と塩の保持という重要な機能を得たといえます。
 
この腎臓の集合管の水の吸収を調整しているのが、バソプレシン2受容体です。バソプレシン1受容体は主に血管平滑筋にあって、血圧を制御しています。
サムスカが働くのは、バソプレシン2受容体に対してだけですので、基本的にはバソプレシン1受容体は関係ありません。ただ、サムスカを投与すると若干ながらバソプレシンの濃度が増加し、バソプレシン1受容体への作用亢進があるようですが、臨床的に血行動態として血圧を上げたりするような濃度ではなく、特に血行動態的にはこのバソプレシンの上昇は無視してもよさそうです。
 
 
さて、バソプレシンが作用すると、集合管で水の透過性を高めるアクアポリンというたんぱくが移動して、集合管からその周りの間質への水の移動を亢進させることで、最終的な尿に含まれる水の量を減らして濃い尿とします。
バソプレシンが作用して、水が移動するには、周囲の間質の浸透圧が高いということが必要になります。この浸透圧は、Na,Cl,UNによって作られていますので、尿細管からしっかりと塩類が再吸収されていること、皮質側の糸球体で尿素がしっかりと再吸収されていることが必要になります。これらの機構がしっかりと働いていないと、バソプレシンは集合管で水を再吸収はできません。
つまり、濃い尿を作れるというのは、腎機能が正常であるという裏返しでもあり、バソプレシンが適切に働いて水を再吸収できていない状態であれば、腎臓でサムスカは効かないということになります。
 
心不全などで尿量が少ないときに、腎臓、特に集合管機能が保たれていなければサムスカは効かないことになります。
さまざまな指標で、サムスカが効くかどうかの予測をしようとしていますが、私はこのような指標は不要だと思っており、このような指標を出そうとしたことはありません。
サムスカも利尿薬なので、服用させて2時間程度みれば答えは出ます。
反応性であれば、尿量が増えるか、または、尿中の電解質の濃度がほぼ同じまま、クレアチニンの濃度が下がります。尿量か、2時間後の尿生化学をみればいいだけなので、あえて、100%ではない予測をする必要はないと思っています。