糸球体からろ過をされた原尿は、まずは尿細管の中でも近い部分の近位尿細管という部分でほぼすべての糖や尿酸の一部など重要な分子をさまざまな機構をつかって、尿細管から尿細管上皮細胞内に引き込みます。そして、尿細管上皮の逆側にある血管内にそれらを流し込むことで、一度原尿へとろ過された重要な分子の血管内への再吸収が行われます。
また、この近位尿細管では、pHの調整も行われ、代謝性アシドーシスやアルカローシスに関係します。特に代謝性アルカローシスは、ひどい嘔吐か、循環器の臨床の現場では利尿薬の投与の時以外にはみかけません。利尿薬を使っていないのに代謝性アルカローシスは基本的には起こらないと思っていいと思います。
この近位尿細管で、心不全として重要なのは、尿酸が近位尿細管で吸収されるということと、全身、もしくは腎臓で乳酸が増えると、乳酸を優先的に尿中に排出するために、尿酸の再吸収が増えるということです。
乳酸が増えるような状態は、細胞の酸素が枯渇しているような非常に重篤な状態が多く、ショック状態か、心不全で言えば低還流の時にみられます。つまり、血液の乳酸が増えていない程度でも、腎臓での乳酸が多少でも増えた段階で、腎臓で乳酸を排出するかわりに、尿酸の再吸収が更新し、尿中の尿酸の排出量が減少するという現象がみられます。この尿検査における尿酸の排出量の低下は、入院中の腎機能の悪化の予測因子となるという報告もあります。
また、この近位尿細管では、糖の吸収が行われますが、今までは心不全とは全く関係ありませんでしたが、最近使用されている糖尿病の治療薬でSGLT2阻害薬という薬があります。近位尿細管のSGLT2では、糖を再吸収するとともに、原尿中のナトリウムも一緒に吸収します。このSGLT2をブロックすると、糖とナトリウムの再吸収が抑制されます。すると、主に糖が浸透圧を作るためにいわゆる浸透圧利尿という利尿作用によって、服用初期には体重減少などがみられます。このあたりは、また、心不全の治療薬でお話ししたいと思います。
近位尿細管以降の部分に関しては、主に水と電解質の調整の問題になります。
地球のように腎臓の中心部(髄質)は非常に高圧になっていて、髄質を中心に向かうにつれて徐々に高圧になるようになっています。
つまり、このヘンレを通過することによって水が腎臓の髄質に引き抜かれ、その周囲の静脈に回収されることで、水が確保されます。
そして、この髄質の高圧状態を作っているのが、ナトリウムやクロールによる浸透圧です。
ヘンレの下行脚は、水のみを通し、ヘンレの上行脚は塩化ナトリウムだけを通過させるとされています。
つまり、まずは下りていく過程で尿細管内の原尿の水がどんどんと髄質に引き抜かれ、周囲の浸透圧に合わせて尿細管内はかなりの高浸透圧の尿になっています。
次に、高浸透圧の状態から、どんどん上がっていくにしたがって、塩化ナトリウムが引き抜かれます。そのため、今度は逆に浸透圧は下がっていきます。このような仕組みを対向流といいます。
遠位尿細管などの皮質に近い部分では、血液とほぼ同じ浸透圧になるようです。
この過程で、ほぼ必要なすべての糖などは再吸収され、さらに、水や塩化ナトリウム、カリウム、ほかのマグネシウムなどの電解質も再吸収され、血管内に戻っていきます。
最後に遠位尿細管で最後のナトリウム、クロール、カリウムの調整が行われ、集合管で水の調整が行われて、血管内の状態を一定のいい状態に保つような調整がなされます。
そして、尿細管を通った原尿は、さまざまな機序を経て尿として、腎盂に集まり、それが膀胱から尿道を通って、おしっことして元気よく出されます。
尿というのは、血液の状態を一定に保つために、かなりダイナミックに変化します。
このため、血液検査の変化よりも尿検査の変化のほうが先に、大きく動きます。心不全の治療に尿検査の生化学が非常に有用な理由です。