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セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

AS(1): 大動脈弁狭窄症の原因

大動脈弁狭窄症(AS, Aortic valve stenosis)に関してですが、大動脈弁狭窄症は、この10年でもっとも劇的に治療が変化した疾患です。
 
 
大動脈弁狭窄症は、左室と大動脈の間にある大動脈弁が何らかの理由で開放が制限されるようになっている疾患です。
 
大動脈弁狭窄症の原因として多いのは、加齢性変化といわれるもので、高齢者によくみられる弁の石灰化と変性による大動脈弁の開放制限です。
また、若年者から高齢者の広い年齢層に見られるのが、先天性の二尖弁です。二尖弁には、さまざまな程度というか、形態があり、ちらっと見た感じでは三尖弁かと思う程度の二尖弁から、開口の口が完全に三日月になるような二尖弁までさまざまな程度があります。
印象ですが、若年者にみられるのは、三日月のような二尖弁で、逆流を伴うことが多いように思います(極少数例の印象です)。
 
また、日本では最近著明に減少していますが、リウマチ性変化もあります。リウマチ性変化の場合には、僧帽弁にも何らかの異常がみられることが特徴です。今後、外国で生育した若者が増えると、また、再燃してくれるかもしれません。
 
少し意識していてたらいいかなと思うのは、大動脈炎症候群などに伴う大動脈弁疾患です。この場合には、大動脈のかなり広範囲に炎症が及びます。大動脈基部の異常から弁閉鎖不全が起こることが多いですが、弁にも炎症性変化が及んで、狭窄が生じることもあります。
 
 
さて、大動脈弁狭窄症の心不全となる原因は、左室の圧負荷です。
左室が出口が絞られ、そこで圧・エネルギーが消耗しますので、余分に圧を加えて血液を駆出しなければならなくまります。
そのために、左室が高い圧をかけて、血液を駆出し続けることによって左室は肥大し、内腔は狭小化していきます(ラプラスの法則によります)。
 
大動脈弁の治療後には、この圧負荷から解放されて、徐々に左室の肥大が軽減し、内腔の狭小化も改善してくることがありますが、左室の機能低下が起こってしまっている場合には、左室の機能低下が改善するか、そのまま低下したままかは、弁の治療をしてみないとわからない部分があります。
(心臓力学的に、後負荷が増加すれば左室の収縮末期径は増加しますが、慢性的な圧負荷は組織学的に左室の内腔の狭小化をもたらします#1)
 
これは、どのような理由で心筋が肥大しているかということもあります。
特に、加齢性変化の場合には、心筋に加齢性のアミロイドーシスによる変化が一定数起こっていると報告されており、アミロイドーシスによる心機能低下自体は改善しません。
ただ、低心機能に、高い後負荷は致命的ですので、心機能の改善がなくても、より大動脈弁狭窄症の治療は必要ということになります。
 
大動脈弁狭窄症に対する一般的な考え方は、大動脈弁の狭窄の程度は進行性で、何らかの症状が出るとそこから一気にいろんなことがおこるということです。
そのため、早期発見と適切な時期での治療介入が必要です。
 
 
#1 左室の収縮末期径は、後負荷と収縮性によってきまりますので、後負荷が改善されれば収縮末期径は小さくなりますが、肥大している場合には、これの収縮末期径の後負荷変化当たりの変化は小さくなります。(肥大していると収縮性が同じでも後負荷当たりの変化率が小さくなるため)
このために、弁膜症治療後、負荷が取れた割に、左室収縮末期径に変化がみられないということになります。

僧帽弁閉鎖不全症を手術(クリップ術含む)でなくしたときに、拡張末期圧が上がり、心拍出量が減る可能性はある。

一次性僧帽弁閉鎖不全症の場合には、よほど手遅れで左室障害が高度に障害されていない限り、心拍出量が減少することも、左室の拡張末期圧が上昇することもありません。
繰り返しますが、50%の逆流率の僧帽弁閉鎖不全症の場合には、大動脈方向と左房方向の後負荷(左室の収縮に対する外的な抵抗)は同じです。左室だけをみれば、左室の収縮に対する外的な抵抗値としては、半分になっている状態(孔の面積が倍なので)です。左室は、半分の抵抗に対して、倍の血流を送っているというような状態になっています。(収縮には心臓そのものが持っている収縮に対抗する抵抗がありますので、純粋に全体の抵抗が倍になったり、半分になるわけではありません)
 
一般的な左室駆出血流は60mlですので50%の僧帽弁閉鎖不全の場合には、120mlになります。心機能が保たれているときの、左室の収縮末期容積は、大きくても50ml程度です。
もともと左室の収縮性がいい時には、後負荷の増加に対する左室の収縮末期径の増加は軽減されています。
一次性僧帽弁閉鎖不全の時には、多少収縮末期径がふえても、逆流が減ることで減少する拡張末期容積のほうが大きくなるため、拡張末期容積は減少し、すくなくとも拡張末期圧は低下します。

心拍出量だけを考えると、大動脈方向に駆出する血流に関しては、後負荷などの変化はないため、収縮性に変化がなければ、心拍出量が低下することはないと考えられます。そのため、大動脈方向への駆出する血流量は変化はありません。
 
 
低左心機能の場合にも、基本的に同じ概念で、僧帽弁閉鎖不全があろうがなかろうが、大動脈方向への後負荷は変化がないため、僧帽弁閉鎖不全を治したときに、術前後で収縮性の低下がなければ、心拍出量が低下する理由はないとひとまずは考えられます。
 
しかし、収縮性の低下が高度で、心拍出量が心機能によって上限が決められているような低心機能の場合には、後負荷の上昇に対する左室の拡張末期容積の拡大は顕著になり、さらに、もともと50%の逆流といえども心拍出量が少なく、逆流の絶対値が少ないため、逆流をなくすことで減少する左室拡張末期容積も少なくなります。
つまり、僧帽弁閉鎖不全をなくすことで拡大する左室収縮末期容積の増加分が、減少する左室拡張末期容積の減少分より大きくなる可能性があります。この時には、僧帽弁閉鎖不全を改善させることで、おそらく心拍出量は保たれるが、拡張末期圧が上昇する可能性はあります。また、拡張末期容積が増加したときに、右左相互作用により心拍出量が減少する可能性がないとは言えません。
 
このように、理論的には、重症の低左心機能に合併した僧帽弁逆流症をなくしたときには、場合によっては左室拡張末期圧が上がり、また、さらにひどい場合には、心拍出量が低下することもあります。
 
このような患者を予測できるかといわれると、正直わかりません。
左室拡大がひどくて、逆流量が50%前後であれば、よくならない可能性があります。拡大がひどければひどいほど、逆流が少なければ少ないほど、このような現象が起こる可能性は高くなります。
 
カテーテル治療は、合併症も少なくて、短中期的にはすぐれた治療だと思われます。
低左心機能でも、NYHA機能分類 II-III程度であれば、非常に有効だと思いますが、安定させてもNYHAIV程度の時には、上記のような現象が起こるような可能性もあるかもしれません。
 
術前に、どれだけ収縮末期径が大きくなるのか、拡張末期径はそれに応じてどうなるのか、拡張末期圧はどうなるのか、後負荷不均衡(後負荷の増加によって、心拍出量外減る現象)は起きないのかどうかをイメージする必要があります。

僧帽弁閉鎖不全の手術を決定するには

僧帽弁閉鎖不全症の心機能の評価の時に、ガイドラインなどで収縮末期径or容積が重要視されているのは、心臓の収縮性と後負荷によって収縮末期径がきまるためです。
また、他に、拡張末期圧の時間積分と容量負荷の結果であると考えられる左房容積。心筋の拡張機能としての、最大運動負荷が重要です。
この3つで僧帽弁閉鎖不全時の心機能は評価できるのではないかと考えています。
 
肺高血圧や心房細動の発症は左房負荷ととらえられますので、これらも心機能障害を示唆する所見となります。
さらに、弁膜症性の心不全といわれる状態で、内服でコントロールが可能な状態でも心不全になっている、例えば利尿薬が必要な時点で心筋障害ありですので、手術考慮が必要です。知らないうちに、内服が増えて後手後手に回ってしまうことは避けなければなりません。
 
 
これらを評価して、弁膜症が心機能に悪化を与えている。これは、直接の影響かどうかまでを調べる方法はありませんが、すくなくとも一次性僧帽弁閉鎖不全症の時には、エコーなどの評価で高度の弁膜症があり、心機能がなんらかの障害を受けていれば、弁膜症による心機能障害と判断せざるを得ないです。
偶然、緩徐進行性の拡張型心筋症などを合併していないかといわれればわかりませんが、それでも心機能が何らかの障害があり、高度な弁膜症があれば、心機能悪化に影響を与えていると考えて、悪影響を与える因子として手術する方向でいいと思います。
 
弁膜症の時の、心筋への影響は基本的に進行性です。弁膜症で出た心筋障害が、まってよくなることはありません。出始めたら、進行性に悪化させていきます。
また、心筋障害の可逆性という点も重要です。僧帽弁閉鎖不全ではそこまででもないですが、大動脈弁閉鎖不全ではこの概念が非常に重要です。遅れた手術は心筋障害を止められません。時機を逸した弁膜症の治療は、弁を治した後でも心筋障害は進行してしまいます。特に大動脈弁閉鎖不全は、容量負荷から弁置換後は多少なりとも圧負荷に変化するため、この変化に対応できずにかなり難しい事態が起こりえます。
僧帽弁閉鎖不全の場合には、まだ、ましですが、ただ、時機を逸した治療では、心筋障害、心不全を改善させることはできなくなります。
 
では、何らかの心筋障害が疑われたら、すぐに手術かというと、手術のリスクがゼロで、術後の問題も全くないのであれば、すぐに手術でいいと思います。
 
ただし、もちろんカテーテルでも手術は手術ですので、リスクがゼロではありません。
また、弁置換術となった場合には、生体弁であれば、置換した段階から10年前後でやってくる弁機能不全を覚悟しなければなりませんし、機械弁の場合には、ワーファリンが必要です。特に、若年で機械弁を入れて、その後年齢を重ねて、なんらかの出血を伴う手術が必要な状態になることがあるなどそれもまた治療を困難にします。
 
つまり、心機能障害は進行性のため、僧帽弁逆流の治療は早ければ早いほうがいいが、手術にかかわる合併症や弁置換後のリスクを総合的に考慮して手術の時期を決定していくことになります。
 
比較的判断が簡単なのは、ほぼ100%弁形成術が可能な若年の合併症のない人です。
このような人では、手術のリスクは1%程度となります。弁置換も行わないので、手術の直後さえ乗り切れば、その後の生活に制約は出ません。
心筋障害が出てきたら、比較的早期に手術の判断が下せると思います。さすがに、冠動脈バイパス術などと違って、心臓そのものを停止させたり、人工心肺を使ったりする手術で(一部心臓止めずにする施設もありますが)あり、リスク0%ではないので、まったく心機能障害がない段階では手術は、尚早かと思います
(心臓の手術といっても、心筋を切るかどうかで非常にリスクは変わります。単独の冠動脈バイパス術であれば、心筋を切らないのでリスクはかなり低いです。治療が必要な慢性閉塞性病変で下手に数時間かけてカテーテル治療するよりも安全で早く終わります。特に左主幹部遠位の分岐部のカテーテル治療はちょいちょい何か起きますが、冠動脈バイパス術では病変の位置と手術リスクは関係ないので、バイパス術をを勧めします。日本の循環器内科医は、カテーテル治療の合併症を低く見積もり、バイパス術の合併症を高く見積もる傾向にあるように思います)
 
難しいのは高齢者ですが、やはり健康寿命というものとの相談だと思います。
また、心臓は手術でよくなりますが、ほかの臓器はよくなりません。腎血流がよくなるとかという以前に、手術の侵襲が多臓器にかかります。
また、呼吸機能が悪いと、手術の影響をもろに受けます。手術の後で、困るのは、創部感染、腎不全、それと肺炎です。特に、繰り返す肺炎は、誤嚥などが関与していますとかなり繰り返します。また、ここがすっと立ち上がらないとそのあと後手後手になります。また、若年者より、筋骨格系の虚弱は術後の歩行開始だけでなく、この肺炎などの感染にも強く関係します。
 
それらを考慮に入れても、心臓を治す必要があれば手術ですが、腎臓、感染、特に肺炎の覚悟はいります。
術前元気でも、ひとつくずれるだけでぎりぎりで保たれていたバランスが一気に崩れて弱ってしまうこともあります。
 

僧帽弁に対する手術を検討する要素(心機能をどう見るか)

僧帽弁閉鎖不全症の評価ができて、原因も判明したら、手術が必要かどうかの判断となります。

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弁膜症一般でいえることですが、まず、その弁膜症が心臓に対して悪い影響があるのかどうか、治療(≒手術)する際の合併症はどの程度と見積もれるか、また、弁形成が可能な率はどの程度かどうかという点が重要だと思います。​
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治療に関しては、最新のガイドラインに沿っていただければと思いますが、私見をふまえてお話していきたいと思います。​
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今回は、一次性僧帽弁閉鎖不全時の左室機能の障害をみるにはどうすればいいかをお話したいと思います。​
一次性僧帽弁閉鎖不全症の場合には、心機能が保たれていて、労作時を含めて呼吸困難などの症状がなければ、手術の必要はその段階ではないと判断されます。​
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この時の心機能が保たれているというのは、心房の大きさも正常であると考えていただいてよいと思います。(心房大きいからすぐ手術というわけではありません、あくまで正常というのは心房のサイズも含めて正常であるはずだということです)​
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具体的に心機能をどれでみればいいかというと、左室収縮末期径(and 容積)、左房容積、労作時の自覚症状です。​
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左室収縮末期径は、左室の収縮性と左室の収縮に対する後負荷で決定されます。収縮性が低下すると収縮末期径が大きくなります。
後負荷に関しては、50%の逆流率の僧帽弁閉鎖不全では、大動脈方向と僧帽弁の逆流方向の後負荷は同じです。つまり、後負荷は、同じ抵抗の出口が2つになるので、全体的には低下します。ただし、心臓には、内部抵抗といって、収縮に対する心筋そのものの抵抗(内的抵抗)があるので、単純に同じ抵抗の孔がもう一つ増えたからといって、全体の抵抗が半分になることはありません。50%以上の逆流量であれば、僧帽弁逆流方向の後負荷のほうが低いということになります。簡単に、50%の逆流の時には、逆流時の抵抗=(外部抵抗)÷2+(内部抵抗)となりますので、どちらにしろ抵抗は下がり、左室収縮末期径は小さくなります。​
ただ、心機能が良ければ、エコーでとらえられるほどの差はないと思います。大きな数で集めれば、1-3mm程度の変化は起こるかもしれませんが。
(この辺は収縮性にもよるので、一概には言えませんが。収縮機能がよければよいほど、後負荷の変化に対する収縮末期径の変化は少なくなります)​
 
なぜ、慢性的な僧帽弁閉鎖不全症があると収縮性が低下するかというと、僧帽弁閉鎖不全は高拍出性心不全と左房の容量負荷が同時に起きているのと同じ状態です。つまり、本来必要な循環血液量を上回る血液量を駆出し続けて、かつ左房には常に過大な容量がかかっています。​
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エネルギー的な観点から見ると、心臓は、血液を出さなくても、大動脈弁と僧帽弁を閉じても、収縮と弛緩するだけでエネルギーが必要になります。これを内的エネルギーといいます。これに対して、心臓が抵抗(後負荷)に対して、血液を駆出することに対してのエネルギーを外的エネルギーといいます。心臓は1回の心周期に、内的エネルギーと外的エネルギーの和のエネルギーを消費します。このエネルギーが過剰であると、酸素需要が増大したり、活性酸素が増えたり、それによって線維化が起こったり、収縮弛緩に関する蛋白やカルシウムに対する反応性が異常を起こしたりすることで、心機能が低下します。
高拍出性心不全の場合には、外に対する収縮のエネルギーが単純にその分増えるので、心臓のエネルギー需要の高度な上昇をもたらします。つまり、左室は無駄に過剰な動きを繰り返しているために、徐々に不全となるのです。
少し話はそれましたが、左室収縮末期の容積、ないし径は心機能収縮機能を表します。
収縮末期容積は、収縮性と後負荷できまります。それは、僧帽弁閉鎖不全でも、同じで、収縮性と二つの穴ができることで左室全体の後負荷の低下がおこりますが、心機能がよければそれほど収縮末期径の減少は大きくはないと考えていただければと思います。
また、左室駆出率に関しては、僧帽弁閉鎖不全の時には過剰となります。50%の逆流率であれば、逆流がないときと比べて、後負荷はへり、心拍出量は2倍になります。収縮能がいい、大きくない左室であれば、減少する収縮末期径よりも、拡張末期容積の増加のほうが大きいので、左室の駆出率はかならず大きな値になります。​
(例(収縮末期径は容積が80%減するとする):ないときの左室収縮末期径 50ml、心拍出量 50mlなら、左室駆出率は 50%(50÷(50+50))。これに、50%の逆流が起こると、左室駆出率は 71%(100÷(40+50+50))になります。しかし、心機能が低下して、左室収縮末期径60mlとなると、左室駆出率は63%となります。(100÷(60+50+50)))​
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また、左房の容積は、基本的には、左室拡張末期圧から受ける圧負荷を積分したものとなります。拘束性心筋症は持続的に拡張末期圧が高いので、心房は高度に拡大しますし、僧帽弁狭窄は、左房にとって高度な圧負荷状態となりますので、左房は高度に拡大します。もちろん、容量負荷による拡大もあり、それほど圧が高くなくても、僧帽弁閉鎖不全でも左房容積は拡大します。ただ、単独の一次性僧帽弁閉鎖不全の時の左房容積は、僧帽弁狭窄や、左室の拘束性心筋症などの時に比べると小さくはなりますので、圧負荷のほうが左房容積を拡大させるのは確かだと思います。​
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また、弛緩機能、拡張性をどのようにみるかというと、現時点では症状が一番いいと思います。安静時に、心臓カテーテル検査などで左室の拡張末期圧(≒肺動脈楔入圧)が上がっている人は、もちろん弛緩機能低下としてもいいですが、特に一次性僧帽弁閉鎖不全の人は安静時には左室拡張末期圧は正常という人のほうが多いと思います。このような方には、もちろん右心カテーテルをしたり、心エコーをしながら運動負荷で、それぞれ肺動脈楔入圧や、肺高血圧などを観察してもいいですが、より簡単なのは純粋な運動負荷の呼吸困難と最大運動量です。これが障害されていなければ、特に弛緩機能は保たれていると考えられます。

僧帽弁閉鎖不全症に、心臓カテーテル検査は時に必要

いままで、心臓カテーテル検査については、まったくお話ししていません。
全般的なカテーテル検査の概要は別項目でお話しするとして、僧帽弁閉鎖不全症に対して心臓カテーテル検査は必要かどうかと僧帽弁閉鎖不全の時のカテーテル検査についてお話しします。
基本的に、僧帽弁閉鎖不全の時に心臓カテーテル検査は、心エコーできっちりと評価できるものに関しては、不要だと思います。
術前であっても、冠動脈CTで冠動脈と心臓の動きを評価することができますので、よほど冠動脈に石灰化が強く評価できない部分があるとき以外は、絶対に必要というわけではありません。
各施設の心臓外科の先生とご相談で決めていくということになります。
 
心エコーで、評価が分かれる、決めきれない。というときには、左室造影は有効です。
例えば、心エコーで心房の壁に沿って吹いていてカラーで評価できない、他の弁膜症があり連続の式が適応できない、複数の吸い込み口があるためPISAが評価し切れないなどといったことが少しずつ合わさっているような場合には、腎機能と相談して左室造影をしてください。
左室造影には、30ml程度の造影剤は必要です。ここで、5mlとか10mlを節約しようとすると、中途半端な造影で結局十分な評価ができなかったということになりかねないため、しっかりと造影剤は使ってください。目安としては、8-10ml/sの速度で、30-35ml程度(2.5-3秒程度)がいいかと思います。
(もちろん、造影剤を常に節約しようとすることは重要です。そのために、造影後のカテーテル内の造影剤は吸い出すとか検査に不要な造影剤は積極的に減らしてください。しかし、左室造影をすると決まった時には、相応の事情があるはずで、手術かどうかの決定をするような状況だと思います。ここは5,10mlを減らすよりも、少し多くなってしまってもしっかり評価できる結果を残すことが重要です。)
 
また、左室の拡張末期圧が高値の時(20mmHg程度の時)には、注意が必要です。造影剤により血液の粘性が上がるため、逆流により肺動脈札入圧が一過性に上がり、肺水腫を起こす可能性もあります(粘性が上がると拡張末期圧が上がります)。このような時には、ニトロールなどの血管拡張薬を使ってみて、15mmHg程度に低下することを確認してから、行いましょう。たぶん18mmHg以下なら大丈夫な気がします。
 
左室造影の分類には、Sellers分類という分類があります。左室に造影剤を投与して、その造影剤がどれだけ逆流して左房が造影されるかを検討します。I度からIV度にわけられ、IV度が最重症です。
基本的には、いわゆる第一斜位、第二斜位を同時に取ります。ただ、心室と心房の関係で、特に第二斜位で心房が心室に重なって見えにくい時があります。このようなことが予想される時には、5ml程度の造影剤を打ってみて、しっかりつ心房が分離される位置にしてください。特に、第二斜位より深めにして、少し頭側に振ると分離されることがあります。
左室に造影剤を使って、左房が左室と同じくらい(Sellers III)か左室より濃く造影される(Sellers IV)とエコーでいうと重症になりますので、手術検討となります。
また、エコーと合わせると、左房が少し造影されるがすぐ消える(Sellers I)は軽度、左房全体が造影されるが左室よりは薄くしか造影されない(Sellers II)の場合には、中等度程度となります。
 
また、右心カテーテル検査も併せて行うこともあります。v波など語ると長くなりますので、別項目でまとめますが、v波は、心房の硬さ(stiffness)と心房の逆流による容積変化により決まります。すごく逆流があっても心房が柔らかければ、全然目立ちませんし、少しでも心房がかなり硬ければ目立ちます。さらに、v波は基本的にあまり平均左房圧を上げません。時間積分するとそれほどの値にはならないことがほとんどです(時間が短いので最高店のわりには面積は狭い)。
 
以上、少し長くなりましたが、僧帽弁閉鎖不全でエコーで評価が難しい時には、しっかりと正しい造影をして、評価を試みてください。

僧帽弁閉鎖不全:一次性と二次性の違い

二次性僧帽弁閉鎖不全症に関しては、以前にお話しさせていただいており、参考にしてください。
 
要は、心筋自体に異常があり、左室の拡張末期から収縮期にかけての期間に、僧帽弁と乳頭筋の距離が離れていることが原因です。この距離が離れることで収縮期にかけて僧帽弁の前尖と後尖の接合部に孔がみられます。
本来僧帽弁を占める力は、左室の圧の上昇で、これにより僧帽弁が左房側へ移動していき弁は閉鎖します。また、収縮自体は長軸方向にも起こるために、収縮期に乳頭筋と僧帽弁の距離は近くなります。
また、おそらく僧帽弁逆流があるときには、ベンチュリ―効果(速い流速の流体は周りより圧が低くなる)が働くので、これによっても弁が閉鎖するのを助けると考えることもできます。
とにかく、それらの力をもってしても、僧帽弁の本来の閉鎖位置まで持って行けず、左室側で何とか閉じるか閉じないかという状況で、少しだけ閉じれていないのが二次性(機能性)僧帽弁閉鎖不全です。孔は、本来少しだけです(重症でも0.4cm2)。
 
 
さて、心エコーのおける一次性と二次性の僧帽弁閉鎖不全の評価におけるもっとも大きな差は、僧帽弁の収縮期の開口の形です。
1次性の場合には、逸脱の場合には、比較的円に近い開口になりますので、PISAやカラーがそこまで実感と異なることはないと思います。
しかし、機能性僧帽弁閉鎖不全の場合には、弁が「ニィっ」と笑ったときみたいな長い楕円というかほぼ棒状になるので、観察する断面によってかなり印象が異なります。もちろん、PISAもどの断面でとるかによって全然違ってくるので、本来PISAで機能性僧帽弁閉鎖不全は評価してはいけません。(ただ、これは重症というときの参考にはなります)
 
また、一次性の心室機能は正常で、二次性の場合には異常ということがあります。もちろん一次性でも弁不全が続けば、あるタイミングで心室機能は低下します。そして、これが手術の時期に大きな影響を与えます。心筋の機能不全の原因が弁機能不全ですので、これを改善させれば心機能の低下はとまるか、改善するはずです。
また、低心機能に合併した一次性僧帽弁閉鎖不全症もあります。これは手術が必要です。低心機能だからすべて二次性ではありません。弁の閉鎖不全の原因が何かを注意深く観察しましょう。弁の異常でできている弁逆流は改善させると、心機能の低下が止まったり、長期的に良くなってきたりすることが多々あります。
(手術は自体は、弁逆流が心機能に与える影響と、術合併症と弁置換の可能性、弁の寿命などを考慮に入れて決定されます。極端な話、手術自体が安くて、手術リスクがゼロで、すべて弁形成でいけるか、置換する弁が一生異常なく持つのなら、すべて手術すればいいということになります。)
 
これに対して、二次性は、全体の機能はともかく心筋に異常があることが前提です。もちろん、局所的な心筋の不全で機能性僧帽弁閉鎖不全が重度に起こっているが全体の心機能はそれほど悪くないということもありますが、そういうときでも全体的にやはり異常なことが多いです。
また、心機能の低下の根本の原因が僧帽弁機能不全ではないということです。そのため、心機能が僧帽弁の逆流を治しても、それが根本的な原因ではないため、結局心機能低下を起こしている根本が、進行性であった場合には、僧帽弁逆流をなくしても心機能低下は進行し、結局は心不全を繰り返すということになります。
 
一次性と二次性の大きな違いは、この弁機能不全とそれによる開口の形の違い、そして左心機能に与える影響です。
これらを理解したうえで、心エコーでの評価を行い、評価する必要があります。
少し述べたように、低心機能だからすべて二次性ではありません。弁の状態やジェットの吹き方などを十分に評価する必要があります。
 
二次性の心エコーでのカラージェットの特徴は、後尖のほうが閉鎖が悪く(弁輪に対して立っていること(垂直に近い)が多い)、前尖が後尖に比べて閉鎖しているために、まるで前尖の逸脱のようなジェットになることが多いです。後尖の動きの制限などは十分に注意しましょう。
 

心エコーでの僧帽弁逸脱部位の同定

僧帽弁の逸脱は、一次性僧帽弁閉鎖不全症の原因として、しばしばみかけます。
 
僧帽弁逸脱は、僧帽弁の閉鎖位置である、弁輪の少し心室側のラインより、僧帽弁の一部が心房側へ過剰に移動してしまうことです。弁の付け根や弁腹などは異常がなく、弁の先が異常な時に逸脱といいます。
弁腹から完全に本来の閉鎖ラインを超えて心房側に落ちてしまっているのは、フレイルといいます。
時折、弁腹は落ちているのに、弁尖は閉鎖ラインに残っていたり、両方ともいい感じで心房側に落ちていて、心房側でうまいこと接合して、逆流がなかったりすることもあります。
 
僧帽弁逸脱は、多くは弁自体には異常はなく、何らかの理由で弁の心房方向への過剰な移動を制限するように引っ張っている腱索が断裂することでおこります。
断裂の原因は様々で、心筋梗塞のように腱索の付着部である乳頭筋自体が傷んでしまうことや感染性心内膜炎によって弁の障害とともに腱索にも波及し切れることもあります。ただ、多くは原因が不明なことが多いように思います。もともと、偶然その腱索が弱くて、血流とで削られて切れたのかもしれません、わかりません。
 
腱索の断裂は、どのレベルで起きるかによって逸脱の範囲が変わり、大きな逸脱は重症の僧帽弁閉鎖不全の原因となります。
 
経胸壁心エコーのカラードプラーの逆流の血流の方向でどの弁が逸脱しているかの診断が可能です。さらに、3D心エコーでは、特に経食道での3Dエコーでは、どの部分が逸脱しているのか、3D画像で明瞭に観察することが可能です。
 
弁の構造は、僧帽弁は2枚の弁で構成されていて、前尖は一枚のべローンとした大きな弁で、後尖は3つの部分に分かれた横長の弁です。イメージとしては、きりっと口角の上がった上唇の腫れた口でしょうか。また、前尖と後尖の間、口角の両端には交連部という小さい構造もあります。
 
まず、経胸壁心エコーでみるときには、傍胸骨長軸像で、逆流波形が、前(画面の上)に向かって吹いているのか、後ろ(画面の下)に向かって吹いているのかを確認します。
前に向かって吹いているときには、後尖のどこかが逸脱しています。逆に後ろに向かって吹いているときには前尖が逸脱しています。
この状態で、大きく前後にプロープを振ります。イメージとしては前交連から後交連にいたるまで弁の全体をプローブを動かしながら観察します。吸い込み血流がどこで大きくなるのかしっかり観察します。弁が見えなくなるぎりぎりでもに、カラーの吸い込みがみえる時には、交連部単独の逸脱の可能性もあります。
 
次に、短軸の観察です。前尖か後尖かはすでにあたりをつけていますので、次は、側壁側(A1 or P1)か中隔側(A3 or P3)か、もしくは真ん中か(A2 or P2)かを診断します。
前尖の逸脱の場合には、下の方向にまっすぐカラードプラーが見えます。ただ、前尖自体は、後尖のように別れてはいないので、対応する後尖の位置に対応して、A1からA3までのどこが逸脱しているのか診断します。
後尖の逸脱の場合には、前尖ほど単純ではありませんが、それほど難しくもありません。P2の場合には、まっすぐ上向きに吹きます。P1の場合には、中隔側に向かって横向きに吹きます。逆にP3の場合には側壁側に向かって真っすぐに吹きます。ただ、それだけです。
ここで注意が必要なのが、P1やP3で本当に弁の真下を這うように逆流することがあります。心尖部からの像では、弁の下にカラーの線が見えるだけということがありますので、注意が必要です。また、この弁の真下を這うときには、カラーエリアは全く参考になりませんので、しっかりといろんな断面でPISA玉を出すことと、連続の式で重症度の評価を行ってください。
また、交連部の逸脱がまじると、斜め向きの逆流ジェットが生じます。心尖部からの左室2腔像や短軸などで、斜めに走るジェットがないかどうかをしっかりと観察してください。
もちろん、いくつかの逸脱が合わさることもあります。その時はカラージェットの足し算になりますので、しっかり観察してください。