健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。主に、一般的な病気について記していこうと思います。

心不全のすべて (22:胸水と肺うっ血)

肺うっ血と胸水は、胸に水がたまるという意味では共通していますが、肺うっ血および肺水腫は左心不全症状で、胸水は右心不全症状です。
 
左心不全症状は、左室拡張末期圧および左房圧の上昇による症状で、右心不全症状は、右室拡張末期圧および右房圧の上昇による症状です。
 
肺うっ血は、左房圧の上昇により肺循環がうっ血している状態で、また、肺循環の静水圧の上昇により起こる肺水腫もまた左心不全症状です。
肺には、肺循環とは別に、肺自体を栄養している気管支動脈があります。気管支動脈自体は、大動脈から分岐して、肺動脈と違って酸素が十分にあるいわゆる動脈血です。(肺動脈は肺胞の前にあるので、酸素濃度は低い血液です)
 
気管支動脈は、肺全体を栄養します。気管支の太い中枢に近い部分と胸膜などを流れる気管支動脈は気管支静脈となって、右心房に直接流れ込みます。
胸膜は、肺という臓器を直接覆っている臓側胸膜と、胸郭側についている壁側胸膜という2重膜になっています。2重膜の間は、水のやり取りが行われていて、もともと、肺間質、臓側胸膜から胸腔内を経て壁側胸膜をさらに通ってリンパ管から回収されるという水の流れがあります。
この水の流れが、右房圧上昇による気管支静脈のうっ血により増加し、リンパ管による回収が追いつかなくなり、二つの膜の間の胸腔に生理的な(≒正常)量を超えて水が溜まってってしまいます。この水のことを胸水といいます。
 
もちろん、これは心不全による胸水の機序で、例えば肺炎でも胸水は出ますが、機序は違います。
肺炎の時には水の流れが増える機序は、胸膜の水を通す通しやすさ(透過性)が、肺炎の炎症により高まることで、それにより胸腔へ流れる水の量が増えることで胸水が増えます。そのため、特に胸水に対して何か治療をしなくても、肺炎が治っていくにしたがって、自然に胸膜の透過性が正常化していくに伴い胸水は減少していきます。
 
気管支動脈は肺胞に近い末梢の気管支や肺胞周囲の間質なども栄養します。肺の先のほうまで流れていきます。
肺の末梢のほうまで行ってしまうと気管支静脈には戻れず、肺静脈に流れ込んで回収されます。
つまり、気管支動脈は分岐した後に、潅流する部位の違いで、右房と左房の両方に流れ込む特異な循環をしていることになります。
気管支動脈の末梢を循環している部位に関しては、肺静脈から左房へ流れ込むため、左房圧が上がると、気管支動脈から流れてきた肺の末梢や肺胞間質がうっ血し、さらに、溢水するため、肺水腫となりますし、気管支の細い部分も肺静脈から左房へと流れる循環になっているため、末梢の気管支の浮腫も左房圧の上昇で見られます。
心不全の症状として、喘息のような気管支の狭窄音が聴かれ、これを心臓喘息ということがありますが、これは左房圧上昇による左心不全症状というわけです。
 
ちなみにいわゆる右心不全症状を中心とした慢性心不全の急性増悪などの時に、一番最後まで余分なスペースに水がたまのが、胸腔です。つまり、胸水がなくなれば、多くの場合慢性心不全の増悪は、いったん小康状態となり、水分のバランスが取れている状態、代償状態といわれる状態となることが多いです。

心不全のすべて(21:左心不全症状と右心不全症状は、機能不全とは必ずしも一致しない)

 心不全のうっ血及び溢水による症状は、左心の拡張末期圧と右心の拡張末期圧の上昇によるものに分けられます。

 それぞれのうっ血、溢水の症状を左心不全症状、右心不全症状と言うことがあります。

 ちなみに心拍出量の低下は、左室・右室のどちらに起因するものであっても、結局両心室からの拍出量は同じになりますので、どちらということはなく、低灌流所見といいます。

  

実は、左心不全症状と右心不全症状は、そのまま左心機能不全症状、右心機能不全症状とは一致しません。

  

 

まず、左心不全症状から見ていきます。

 繰り返しますが、左心不全症状は左室拡張末期圧の上昇に伴う所見です。 

肺うっ血や肺水腫が主な左心不全症状です。

 

左心不全症状には、右心機能が重要な要素になってきます。

左室の拡張末期圧がある程度あがるために、右心機能や肺高血圧の程度が非常に重要なのです。

 つまり、右心機能がある程度よくて、肺循環の血管抵抗がある程度低くて、肺循環からある程度はどんどんと左房へ血液が送り込まれることが重要です。

 右心に余力があって、体が求める循環血液量を出す必要がある時に、少なくとも右室はある程度右房圧を上げさえすれば、その心拍出量を出せるという状態です。

 

右心は必要な心拍出量を出すことができるため、左室に血液を送り込みます。そうすると、左室の拡張末期容積が増加し、圧上昇が起こって、左心不全症状が起こります。右心が拍出量を出せなければ、左室拡張末期圧を上げることができず、左心不全症状は起きません。

 

左心機能が低下している心不全なのに、左心不全症状が起こらないというのは、右心機能不全や肺高血圧の時に見られます。つまり、右心の機能が不全となっているため、体が要求する心拍出量が増加しても、右心機能が悪く、右心から拍出される血流量が増えず、このために、左室の拡張末期容積が増加しないという現象です。

 

ただ、このような状態はそれなりに特殊な心不全といえますので、おおかたの心不全ではこのような特殊な現象は見られませんが、特殊な重症の心不全ほど、レントゲンで肺うっ血や肺水腫所見がみられないということは覚えておいてもいいかもしれません。

  

 

次に、右心不全症状ですが、主な症状は臓器のうっ血や四肢の浮腫です。

基本的に右心不全症状が見られない心不全は、まれで、急性というよりも急激に発祥した電撃性肺水腫という状態以外にはないかもしれません。

 

 電撃性肺水腫は、ごく簡単に言うと、突然何らかの理由で、体の血液をプールしている静脈(主に脾臓や肝臓)や、動脈の抵抗血管が収縮を起こして、心臓に帰る血液が増えて、抵抗血管が収縮することで心臓の駆出に対する負荷(後負荷)が突然増えるというダブルパンチで激烈に左心に大きな負荷がかかる病態です。こうなると、急激に左室拡張末期圧が上昇して、肺水腫をおこしてしまいます。

 

電撃性肺水腫がおこる前に、心不全の前段階(症状がない範囲で体の水が2kg程度増える)がある状態の方が多いですが、前段階がない状態でも、起こりえます。このようなに前段階がない状態のときには、ほぼ肺水腫とそれに伴う症状が中心で右心不全症状が余りでないことがあります。 

 

 右心不全症状というのは、あくまで右室の拡張末期圧の上昇による体循環のうっ血・溢水症状のことで、右心機能不全が、そんなに悪くなくてもおこります。

 

 左心だけが限定的に悪くなることはあまりないと思いますが、左心が限定的に悪くなったとしても、右心不全症状は出現します。

 右心は、圧負荷に弱いとされます。そのために、左心の拡張末期圧があがると、左房圧があがり、平均の肺動脈圧があがります。

 すると、特に左房圧は、右室にとっては駆出に対する負荷(後負荷)となるため、右室が収縮性を上げてそれに対抗しようとしますが、左室に比べてその対応力は弱いため、後負荷に対して、収縮力を上げきれずに、左室に比べて容易に右室拡張末期圧は上昇してしまいます。

 

そのため、右室機能自体に大した問題がなくても、左心不全症状が出ずに、右室拡張末期圧上昇による右心不全である四肢の浮腫や胸水がみられるということになります。

心不全のすべて(20:左室の駆出率の保たれた心不全とは。 Heart failure with Preserved Ejection Fraction)

左室の駆出率の保たれた心不全という疾患群があります。

 
かなり前、患者さんは心不全なのに、心エコーで左室が良く動いていて、弁膜症もないということに疑問が呈されていたようです。なぜ、心臓が良く動いているのに、心不全になるのかということです。
 
左室が動いているようにみえても、実際には心不全の典型的な症状がみられ、レントゲンでもうっ血や肺水腫がみられる、また、血液検査で心臓の負荷の状態を見ることのできるBNPという血液検査項目の上昇もみられるというようなことはよくみられ、このような疾患群を左室の駆出率の保たれた心不全というような少し長い名前でいいます。(英語でのHFpEFのほうが一般的です、Heart Failure with preserved Ejection Fractionの略です。)
 
(#BNP自体は心臓保護的なホルモンですが、心臓に負荷がかかると高くなるため、BNP高値は心不全の指標となります。)
 
 
駆出率の保たれた心不全というように、決して収縮機能がいいとは言っていないことが重要です。あくまで、エコーなどの検査での駆出率(弁膜症がなければ、心拍出量÷左室拡張末期容積)が保たれてはいる心不全という表現にしています。
それは、かならずしも、左室の駆出率がいいからといって、収縮機能がいいとは限らないという考えからです。
私も個人的には、左室の拡張末期圧が心不全症状が出るまで上がるときは、多少なりとも左室の収縮性が悪くなってはいるだろうと考えています。
 
ある程度左室が動いていて、それほど大きくはないようにみえる左室で、拡張末期圧が上がるということは、収縮機能低下よりも何らかの拡張機能低下がより強く起こってはいるということは間違いないと思います。
収縮機能が落ちていないようにみえるときには、拡張機能がどんどん悪くなってきて、収縮機能がより代償(代わりにがんばる)しても、補えないぐらい拡張機能が悪くなっているんだろうと思います。
 
拡張機能がどんどん悪くなると、拡張末期容積を増やそうと思っても拡張したときの圧が高くなりすぎてしまい、肺循環から左房へ血液を送るときには、それ以上の圧で血液を送らないといけませんから、その圧を何らかの理由で出せないときに、十分な量の血液を肺静脈から血液を左房に押し込めない状態となります。(この拡張するときの圧が高くなりすぎて、拡張容積を増やせずに、1回拍出量が減少する現象を、Afterload mismatchといいます)
 
肺循環から左房へ血液を送って、左室の拡張容積を増やすということが、拡張末期の圧が高くなるためにできなくなると、心臓は1回拍出量を保つために、収縮機能をよりよくして、少しでも、収縮末期容積を小さくして、1回拍出量をかせぐ必要があります。また、心拍数をあげて、回数を稼ぐことでも、対応しようとします。
この収縮末期容積を小さくすること(駆出率を高くしすぎること)、脈を速くすることは短期的にどうしても有効循環血液量を稼ぐうえで起こらなければならない変化ではありますが、慢性的には、心臓にとって負荷がかかる変化でもあります。
(駆出率60%程度、半分弱残す程度で収縮するのが一番エネルギー効率のいい収縮なので、それ以上でも、以下でもエネルギー効率は悪くなります)
 
おそらくですが、このような変化が続けば、拡張機能はより悪化し、収縮機能も悪化してしまうものと考えられます。
 
実際の現場では、このような変化は、高血圧の高齢女性によく見られます。
心不全を発症した高齢女性では、もともと心臓はエコーなどでは一見動いてはみえるものの、実は心拍出量はぎりぎりで、収縮末期の容積を小さくしたりして何とか対応している状態であると考えています。
そのような状態で、体に何らかの負荷がかかった時(感染や過労、不整脈)には、本来であれば拡張末期容積を大きくして、心拍出量をふやすところが、すこしでも容積が増えると過剰に圧が上がってしまい、拡張末期の圧が上昇すると、容易に左室のうっ血を引き起こし、それが右室の拡張末期圧の上昇となり、全身の浮腫となるという現象をよく経験します。
これももともと、拡張末期容積を安静時の心不全症状が出ないぎりぎりのところでコントロールしているためだと思われます。
 
 
なぜ、高齢の高血圧の女性で起こりやすいのかというと、高血圧は、心臓にとっては血液を送り出すための負荷となります。慢性的な経過で心臓は、高血圧という負荷に対して、その負荷自体を緩和させるように形態を変化させます。
それが、ラプラスの法則という物理法則にのっとった変化です。
 
心臓の内側の圧が高くなると、その圧に対して、心臓は、心筋に対する単位容積当たりの圧の負荷を軽減するために、心臓内側の容積を小さく、心筋を分厚くするように変化します。この変化が、拡張機能を悪化させ、拡張機能が悪化したときの収縮末期容積を小さくするという代償機構を弱めてしまいます。
 
また、もともと、血液を血管に送り出した時に、血液の実際の移動よりも、エネルギーが血液事態を、まさに海の波のように伝わり、押しては返す波のようにエネルギーは心臓のほうへ反射して戻ってきますが、体が小さいほうがその反射が速いので、身長が高い人よりもより、小さい人のほうが一層強い反射波の影響を受けてしまいます。
 
さらに、心臓に対する高血圧などの刺激は、年月とともに積み重なっていきますので、高齢になればなるほど、このような変化が現れやすくなります。
 
これらのことから、この収縮自体は一見よく見えるが、実は拡張機能が悪くなっていて心不全が発症してしまうというのが、高齢の高血圧をもった女性に多くみられるといわれています。
 
さらに、この変化自体を根本的に改善させることは困難であることが、心不全の予後を悪くしている要因であります。
一度、悪くなった拡張機能はよくはならないということです。
 
糖尿病など多因子ではありますが、これらの疾患はいずれ述べますが、循環器疾患の原因としての糖尿病の治療は非常に困難だったりしますので、すくなことも、女性の高血圧で、拡張機能不全になる人をピックアップできるようになるまでは、高血圧の治療を厳格にするしかないということです。
 
また、他にアミロイドの沈着などで起こるHFpEFもありますし、肥大型心筋症の一部でもこのようになります。それはまた別に解説しようと思います。
 

心不全のすべて(19:右室拡張末期圧上昇による臓器のうっ血)

左室拡張末期圧の上昇は、肺うっ血、肺水腫を起こします。また、慢性的な経過で、肺胞の構造変化や、肺血管の構造変化により、酸素交換能の低下や肺高血圧を引き起こします。

 

右室拡張末期圧の上昇は、平均右房圧の上昇を引き起こします。全身の臓器を潅流した血液は、ほぼすべて右房に帰ってきます。

(気管支動脈の一部は、肺静脈に合流し、左房に返ります)

そのため、右房圧が上昇すると、全身を潅流した後の静脈の圧はかならず、右房よりも高い圧でないと右房へは帰れません。右房よりも高く、さらに、臓器から右房までの静脈による抵抗が起こす圧の低下を加味した圧だけ高くないと右房へ帰れないのです。

 

そのため、右房圧の上昇は、全身の静脈圧の上昇となり、また、全身の臓器の毛細血管圧の上昇ということになります。

毛細血管の内圧(水が作るので圧なので、静水圧といいます)は、毛細血管と組織間質との水の出入りの重要な要素ですので、この圧が高くなるとそれに応じて毛細血管から組織間質への水の移動が増えます。

水が増えると、まず間質には吸湿性の線維があります(おむつの線維みたいに)ので、多少水が増えたとしても、この吸湿性の線維に水が吸着されて間質の水自体は増えても、すぐに水浸しにはなりませんし、間質の静水圧も上昇はしません。また、リンパ機能も水の増加により、機能が亢進して、間質からの水の排泄を促します。つまり、この間質の吸湿性繊維とリンパ機能によって、間質の水のバッファー効果と処理が行われています。

さらにいうと、二つの機能が低下すると、同じ静水圧でも間質が水浸しになる、つまり臓器の浮腫がおこりやすくなります。

高齢者がむくみやすいのは、加齢とともにこの機能が低下するため、加齢すればするほど浮腫が起こりやすくなります。

 

臓器の浮腫には、浮腫を起こす臓器によってそれぞれ肝うっ血や腎うっ血というような言葉で表現されます。

ここで注意が必要なのは、臓器の毛細血管の圧が上がって、うっ血がおこっているだけなのか、それとも臓器の間質に水が移動して臓器の浮腫が起こっているのかは問題としていないところにあります。同じ言葉を、状況に応じて、意味の理解を分けている感じになります。

 

さて、筋肉が第2の心臓という言い方をされることがあります。

なぜかというと、心臓はポンプ機能で血液を全身に送り出しますが、ふくらはぎなどの筋肉も、意図的に筋肉を動かすことで静脈の血流を早くする効果があります。

何かの理由で右房圧が上がった時に、臓器の静脈圧は上がらなければ右房に血液を返せません。心臓以外の臓器に圧を作る能力はありませんので、静脈圧の上昇はそのままその臓器の毛細血管圧の上昇となります。

しかし、筋肉が静脈の血流を加速させる(エネルギーを与える)ことができれば、その手前にある臓器の毛細血管圧は右房圧より低くても、筋肉が途中でポンプになって血流にエネルギーを与えてくれるため、毛細血管圧を低く維持でき、組織間質を適正な水の量に維持できるのです。

そのため、四肢の筋肉がしっかりとあり、動かせていると、右房圧が高くても、筋肉で一段加速させられるため、組織の毛細血管の圧は低く抑えることができ、臓器浮腫が起こりにくくなります。

もちろん、肝臓や腎臓と心臓の間に筋肉はないので、この作用はあくまで四肢の浮腫に限定される効果ではありますが。

心不全のすべて(18:左室拡張末期圧の上昇は、急性には肺水腫を起こし、慢性的には肺高血圧、酸素拡散能の低下を起こす)

心不全の症状は、低灌流による症状とうっ血による症状に分けられます。

低灌流による症状はある程度重症度の高い心不全にみられるのに対して、うっ血の症状はすべての心不全にみられます。

有症候性心不全というのは、うっ血の症状があることが前提です。重症ながら、安定している心不全であれば、うっ血の症状はなく、低灌流所見だけということもありえます。しかし、そのような場合でも、少しのバランスの乱れで容易にうっ血による症状が出ますし、そもそも、低灌流になるほど心拍出量を低く保たないとうっ血が出てしまう状態ですので、潜在的にうっ血症状があるといえます。

 

 

左室拡張末期圧の上昇は肺循環をうっ血させて、肺うっ血おぼび肺水腫を起します。また、慢性的な肺循環に対するうっ血や圧の上昇は、肺の血管自体の構造を変化させて、肺高血圧という状況を引き起こします。また、肺胞自体にも変化を起こさせて、肺と毛細血管の酸素拡散を低下させるような肺胞の間質の肥厚などを引き起こします。

つまり、左室拡張末期圧の上昇は、肺うっ血を起こし、急性に変化すると肺水腫を引き起こして、それが慢性的に繰り返されると肺高血圧や肺毛細血管の酸素拡散能の低下を引き起こします。

 

また、肺水腫は病態によって、2つに分けられると考えられます。

肺水腫を急性に起こすときに、ただ圧が上がって一時的に水が漏れだすだけの肺水腫と、強い炎症を伴ってサイトカインの上昇を伴う肺水腫があると考えられています。

現在、肺水腫になるとある種のサイトカインが上昇することまでは確かめられていますが、すべてでそうかどうかはわかりません。

直接患者さんを治療していると、肺水腫を起こしても、陽圧換気という特殊な呼吸器と少しの血管拡張薬と利尿薬で、ほんの数時間でレントゲンがあっという間にきれいになり症状が取れる人と、同じような治療をしていも、症状はそれなりに良くなるし、血行動態的には肺うっ血は改善しているが、肺水腫像が2-3日持続して、酸素化の改善がいまいち人がいます。おそらく、これらの違いはサイトカインなのかもしれません。サイトカインが上昇すると、肺の間質への水の移動が、低い圧でもしやすくなるので、血行動態を良くしても、この透過性の亢進が是正されるのをしばらく待たなくてはならないのかもしれません。また、サイトカインは間質の線維化を起こしますので、こういった患者さんでは、慢性期に肺の酸素拡散能が低下して、呼吸機能検査のDLCOという値の低下が起こるのかもしれません。

 

 

繰り返しますが、左室の拡張機能(心内・心外の影響すべてを含んだ拡張機能)が良ければ、心臓がより血液を出そうとすると、左室拡張末期容積は増えます。心臓が血液を増やすときに増やしたいのは圧ではなく、容積です。

しかし、左室の容積が増えれば増えるだけ、内圧は上昇します。この時に、拡張機能が良ければ、いくら大きくなっても拡張末期圧は上がらないため、左房圧もあがらず、肺うっ血もおこりませんので、心不全の症状は出ないことになります。

何らかの理由で拡張機能が悪くなるか、心臓が大きくなりすぎて、心膜の影響などを強く受けるようになれば、少しのきっかけで心不全症状が出現します。

この心不全症状が出だすと、明らかな原因がなければないほど、また、心臓がさほど大きくない状態であれば、それだけ拡張機能が悪いということになりますので、急性の症状は取れるとしても、心不全が起きやすい基礎(拡張機能)を治療することはできないわけですから、何らかのきっかけで心不全はすぐに急性増悪を起こしますし、拡張機能は基本的に経年的に悪化しますので、より心不全の急性増悪を起こしやすくなります。

 

現在、心臓の拡張機能を改善させる薬はありません。そのため、心不全は不治の病となっています。

内服での治療は、うっ血をさせないように必要な量の利尿薬を投与することと、少しでも収縮機能を上げることで、小さく効率的に動いて、低下した拡張機能に余力を持たせるために、経口強心薬を投与する程度の、対症療法的な治療しかありません。

 

心不全のすべて(17:肺うっ血と肺水腫は左室拡張末期圧の上昇が原因)

心不全では、静脈系の血流のうっ滞によっていろいろな症状が出ます。

 

心不全による症状は、基本的に心臓の拡張機能不全が原因です。拡張機能不全とは、拡張末期の左室が最大容積の時の心臓の内圧が過剰に上昇している状態と定義されると考えています。

ここで、難しいのは、安静時に何mmHg以上とか、どの程度の負荷がかかったときに容積の増加量当たり何mmHg以上上がったらとかいう明確な定義ができない点です。

例えば、安静時の拡張末期の圧がXmmHg以下であれば、正常と決めたとしても、運動とか、何らかの負荷でどれだけ上がるか、その上がったときの値がどれだけかが重要なので、安静時にある程度高ければ心不全だろうとは思いますが、なかなか具体的な値は決めれないというのが実情です。

ただ、おおざっぱな値はあります。左室であれば、左室の拡張末期の心内圧(=左室拡張末期圧)で、18mmhg以上とか、22mmHg以上とかという値がそうです。安静時に左室拡張末期圧が20mmHgというのは正常の心臓ではない値だと思いますので、この辺りは一つの基準にはなると思います。ただ、心不全で安定している時であれば、左室拡張末期圧が7mmHgとか10mmHg程度の正常の中でも低めの値をとることがありますので、低いから大丈夫とは言えません。

右室の場合は、おおよそ2,4mmHgとかいう値ですが、4mmhgは少し高いかなと思いますので、正常と言い切るには、平均で2mmHg程度までがいいのではないかと思います。

 

また、左室拡張末期圧が高いからといってすぐに症状が出るわけでもありません。ゆっくりと心不全が進行する場合には、各臓器が圧の上昇に対して適応できるからです。

特に肺では、左室拡張末期圧が、急に正常の10mmHgから、25mmHg程度にあがると、肺うっ血・肺水腫という状況になると思いますが、緩徐に進んでいる場合は、肺の肺胞と毛細血管の間の水のやり取りをするような機構や、リンパなどが適応して、25mmHg程度でも肺うっ血は慢性的に起こっていても、それによる症状はあまりなかったり、肺水腫は全く起こっていなかったりします。

 

肺うっ血、肺水腫と書きましたが、肺うっ血は、右心室から出た血液が肺動脈、肺胞の毛細血管、肺静脈、左心房という肺循環を還流している循環に圧上昇によるうっ滞が起こっている状態です。左室拡張末期の圧は、僧帽弁に異常がなければ、平均の左房圧とほぼ同じです。左室拡張末期圧の上昇が、左房圧を上げて、肺循環をうっ血させます。

そして、心不全の中でも、特に急性心不全でみられて治療優先順位が同率1番の病態が肺水腫です。

肺胞は、気管支がどんどん細くなっていって、最終的に行きつく球状の薄い膜です。背嚢の中には、空気がはいっていて、肺胞の外側には毛細血管が走っています。薄い皮を通して、毛細血管の中に、酸素を押し込み、二酸化炭素を吸収するようになっています。

この膜は水を通さないのですし、肺胞の外には間質という、正常であれば、ほとんど何もない、毛細血管と線維性成分しかない空間がある程度ですので、基本的にはドライな状態です。

一般的な毛細血管は意図的に組織に水を出すような機構になっていますが、肺はこの機構を低下させて、水自体のやり取りは肺胞ではあまり起きません。リンパ管はありますので、まったくないわけではもちろんありません。

そのような状態で、左房の圧があがると、肺の毛細血管の圧もあがります。すると毛細血管内の圧は、毛細血管から組織に水を送る重要な駆動力ですから、組織に流れる水が増えます。

これに対して、リンパ機能をフル回転させて、漏れてきた水をすべて回収したり、水を透過させるチャンネルをコントロールして、空気のある肺胞の内側には水が行かないようにします。

この過程で、肺の間質に水が増えている状態が、肺間質浮腫ですが、このような厳密な言葉は誰も使いません。一般的には、この肺間質浮腫を肺うっ血といっているような気がします。肺うっ血に続く状態なので間違ってはいませんが。

さらに、間質の水が、肺胞の薄膜を超えて肺胞の中(肺は、この肺胞の中の空気のある部分を実質といいます)の肺実質に水が流れ込む状態を肺水腫といいます。

肺水腫が起こると、安静時でもかなり強い呼吸困難と低酸素血症が生じます。

肺水腫はほかの疾患でも起こりますが、心不全の肺うっ血による肺水腫の場合は、寝ていると症状が強く出て、座ったり、前かがみになると症状が楽になるのが特徴です。

これは、重力で心臓に帰る血液を多少なりとも減らすのと、肺自体にも重力をかけると、水は下に、空気は上に行きますので、このギャップで、肺の上のほうでは水が少なく空気が多いという状況が生まれますので、この上のほうで、毛細血管が酸素化されることで症状が軽減されるのです。

 

急激に発症した強い呼吸困難と低酸素を訴える患者さんを救急搬送するときに、救急隊員が心不全だと判断したときには、患者さんを救急隊員が座らせて病院まで運ぶのはこのためです。

 

心不全のすべて(16:一般的な急性心不全では血圧は低下しない、むしろ上昇する )

 心臓には、右心系と左心系があり、さらにそれぞれ心房と心室にわけられます。心臓は左右・上下で4つの部屋に分けられます。


心不全の症状は、大きく3つに分けられます。

左室の拡張末期圧上昇による症状、右室の拡張末期圧の上昇による症状、そして、心拍出量減少に伴う症状です。

 

心不全の時に、どのような症状が出るかは、心臓のどの部分がどう悪いかと、心不全の発症が急性か、慢性かによっても異なってきます。

 

まずは、心不全の時に血圧はどうなるかをお話しします。

 

心臓が悪いと血圧が低くなるイメージがあると思いますが、これは、急性心筋梗塞や心筋炎など、急に心臓の機能が低下して、全身がその変化に対応できないときに生じます。

 

心筋炎、心筋梗塞の場合には、心臓の筋肉が突然死滅してしまい、収縮機能が悪くなります。この時、もともと静脈には血液が余分にプールされている(主に脾臓や肝臓)ので、それを交感神経の刺激で、静脈を収縮させることで、血液のプールを心臓に返してます。返ってきた血液の一部が心拍出量の増加となるので、循環血液量を増やす働きとなります。(ただし、心機能が悪いと、この効率は著しく低下する)。

また、普段プールされている部分の血液がなくなるので、より少ない循環血液量(血流量ではなく血液量)でも循環を回せることになります(これは出血性ショックに有効な仕組みです)。

 

心臓の機能低下時には、血圧を維持しようと交感神経が働きます。
心臓の機能低下が起こると、交感神経が活性化しますので、体の血圧を作っている動脈のの末梢の抵抗血管に対して働き、交感神経の刺激で抵抗血管が収縮状態となり、血圧を維持しようとします。しかし、それ以上に循環血流量が低下していると血圧を維持できずに、血圧は低下します。

また、心筋梗塞や心筋炎などの時には、多臓器の不全も同時に起きることがよくあります。このような時には、炎症に伴ってサイトカインというホルモンのグループが増えます。サイトカインにはいろいろありますが、このような時には抵抗血管を拡張させるような働きをもったものが増えます。

多臓器の障害に伴い、交感神経の抵抗血管を収縮させようとする作用を、心機能の低下とこのサイトカインによる抵抗血管の拡張作用が上回り、血圧は低下することが多いです。

 


一般的なかなり長い期間で、徐々に心機能が低下してきてたり、または、もともと心機能が良くない状態などで、普段以上の過度な負荷がかかって発症するような慢性心不全の急性増悪といわれるような急性心不全のタイプでは、血圧は上昇していることが多いです。

心機能自体は、悪くなっていないので、急に体に負担がかかって、それにより体が必要な有効循環血液量の増加を求める場合には、特殊な状況以外(別に説明します)では、心機能自体はほとんど変わっていないので、心拍出量は低下せずに、心臓の容積の増加による心内圧の上昇が起こります。

また、このような心不全の急性増悪といわれる状態では、感染がきっかけとなることも多い(特に呼吸器感染)ですが、風邪やちょっとした肺炎程度では血圧が下がるほどのサイトカインは出ませんので、交感神経の刺激による血圧の上昇によって、普段より血圧が上昇していることのほうが多いのです。

 


つまり、ほとんどの急性心不全では、心拍出量の低下は起こってないか、起こっていても血圧を低下させるほどの低下ではなく、また、同時に交感神経刺激による抵抗血管の収縮がおこるので、血圧は低下しない、というよりも上昇することのほうが多いのです。