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セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

心不全のすべて(50-9:心不全に必要な腎臓の知識、利尿薬によるクレアチニンの上昇)

 

心不全でみられる腎機能障害で利尿薬によっておこるものにも注意が必要かもしれません。

 
利尿薬によって、糸球体ろ過量の低下がみられることがあります。
一般的には、利尿薬により循環血流量が低下し、そのため腎血流が低下することによって、糸球体ろ過量が低下するといわれています。
 
これが本当かどうかはわかりません。機序的には理屈が通っていますし、一部はこのような現象が起きていることは確かだと思います。
 
ただ、個人的な印象によると全身の循環血流量が低下しているということは少数ではないかと考えています。
この現象は心不全のうっ血の治療が終わった直後、つまり急性心不全の治療を行い、胸水などがなくなった後くらいにおこります。その時期に、ループ利尿薬を中心とした利尿薬を、急性期の治療を行っているそのままの量で投与し続けていると、患者さんによっては血清クレアチニンが上昇してくることがあります。
このような場合には、利尿薬過量と判断して、利尿薬を半分の量などに減量して数日経過をみます。すると、多くの場合はクレアチニンが減少し、糸球体ろ過量が改善してきたことを示唆します。
 
そして、この場合に、適度な利尿薬の減量であれば、大概の場合において、再度胸水が出てきたりといったうっ血の所見の再燃はありません。
それだけでなく、大概の場合に、個人の体内の水分量の変化を見るのに有用な体重の変化も起きないことが多いです。つまり、利尿薬を減らしたことで体内の水分そのものが増加したというわけではなさそうなのです。
さらに、血液検査でそのような変化が出た時でも、一般的に医者は脱水といいますが、いわゆる脱水などの症状を訴える人をみたことはありません。
 
(もちろん、いきなりそれなりの量の利尿薬を急に中止したりすると心不全の、特にうっ血所見が悪化していることは時折みられますが)
 
心不全のうっ血治療直後終了直後のクレアチニンの上昇は、利尿薬を減量ないし中止して、体内の水分量が変化した(体重の変化)というよりは、体内の水分のバランスが変化している印象強いです。
特に、実際の現場で治療をしていた印象では、腎臓だけの血流の変化か、利尿薬がなんらかの機序によって、結果的に腎臓に循環血流量が少ない時と同じような反応を示しているかのように感じていました。
 
 
以前より、ループ利尿薬のフロセミドには、血管拡張作用が報告されています。
フロセミドの血管拡張作用は、NSAIDS(イブプロフェン;つまり市販のイブ)により消失することから、プロスタグランジンの作用によると考えられています。
急性心不全に対して、フロセミドを投与すると、血管拡張作用により、静脈が拡張し、右房圧が低下することで、多少急性心不全の呼吸困難が改善するともいわれています。
 
 
心不全でうっ血が改善した後のクレアチニンの上昇は、利尿が適度からやや行き過ぎた程度ではあるが、ループ利尿薬の持つ血管拡張作用によって、水分が静脈にプールされた結果起こる変化である可能性はあります。
ただし、この場合には、有効循環血流量が低下していることには違いはないので、腎臓のみ起こっているという仮説は立証できていません。
 
ループ利尿薬では、腎臓の髄質の酸素需要を減少させるとの報告もあります。多少なりとも、需要を減少させると腎血流は減少する可能性はあります。(もちろん腎血流は糸球体ろ過のため、需給ギャップでは決まっていませんが。。)
 
また、ループ利尿薬の中でもフロセミドは、持続時間が6時間程度と短く、フロセミドのみで治療している場合には、フロセミドが効いていない時間のほうが長くなります。この辺りも関係しているのかもしれません。
 
極端な話、実は糸球体ろ過量に変化はなく、尿細管の分泌と再吸収能だけが更新しているのかもしれません。そうするとクレアチニンの分泌の低下と、BUNの再吸収の亢進が起こっているのなら、脱水のような血液検査の所見がみられることもあります。
 
もっと、腎臓だけに作用して、まるで全身の有効循環血液量の不足によって糸球体ろ過量の低下(腎前性腎不全といいますが)が生じているような変化が起こっている機序があるように思っていますが、現時点の私では残念ながらわかりません。
 
いずれ、「うっ血解除後の腎機能悪化の原因と機序」というタイトルで結論を出したいと思っています。
 
ちなみに、心不全の増悪や治療初期に腎機能が悪化することは、心不全の予後が悪くなる指標の一つであるとお話ししましたが、この心不全の治療の後に一過性にクレアチニンが上がること自体は、予後に関係ないといわれています。
そのため、病態そのもののが悪くなったり、全身の有効循環血流量が低下しているわけではなく、利尿薬などの可逆的な変化であると考えられます。

心不全のすべて(50-8:心不全に必要な腎臓の知識、心不全に伴うアルブミン尿)

 
 
 
糸球体ろ過量の低下だけではなく、アルブミン尿やたんぱく尿といった所見も心不全患者において、重要な指標になります。


たんぱく尿とは、アルブミンとそれよりも大きなグロブリンが尿中に出ていることになります。たんぱく尿となっているということは、毛細血管すなわち内皮細胞だけの問題ではなく、周囲の細胞を含めた糸球体自体に障害が出ているということになります。
これは、心不全に伴うというよりも腎不全としてとらえたほうが良いかと思われます。

 


アルブミン尿は、アルブミンだけが尿中に漏れ出てていて、他のたんぱくは尿中にはでていないという状態です。(性格は尿細管での分泌があるので、正常レベル以上にはでていないという意味ですが)


 
もともと、アルブミンは、腎臓の毛細血管を構成する内皮細胞の間を抜けることができる大きさです。
しかし、アルブミン自体が電気的に陰性になっているのと、毛細血管に陰性に荷電している構造物があるため、アルブミンと内皮細胞が電気的に反発しあって、ろ過されないような構造になっています。


ただし、正常でも尿細管などにアルブミンを運搬する機構があるため、正常で多少は尿中にアルブミンを認めますが、これが一定の量より多いと、この内皮細胞の電気的なバリアが障害を受けていることが示唆されるということになります。

 

畜尿をして計測されたアルブミンの量を基準にしてはいますが、畜尿自体が困難なため、一回分の尿検査のアルブミン濃度を同じ尿中のクレアチニン濃度で割った値で評価します。

ちなみにクレアチニン濃度で割る理由はクレアチニンの尿中排泄量が1日あたり約1グラムであることによります。

 

 

心不全の原因の一つである、虚血性心疾患は主に心臓の冠動脈の動脈硬化を原因とする疾患です。動脈硬化は、かならず血管の内皮細胞の機能障害を伴います。
また、以前心不全は慢性炎症性疾患であり、それが癌と関係あるのではないかとお話しました。その炎症は内皮機能障害の重要な原因の一つとなります。


つまり、尿中アルブミンは、腎臓の障害というよりも全身の血管の動脈硬化や炎症の存在を表しているバイオマーカーということが言えます。
そのために糸球体ろ過量のように血行動態によって変動することはありませんが、心不全の急性期のような全身の炎症が強くなっているような状態においては、一過性のアルブミン尿がみられたることがありますし、慢性的にみられるようなアルブミン尿は、慢性的な動脈硬化や心不全による炎症の存在を示唆し、アルブミン尿がみられない心不全よりも、病勢が強いことが示唆されます。
今までの研究でも、心不全の患者さんでアルブミン尿がある人は、ない人に比べて、予後などに関して悪いことが報告されています。

 

アルブミン尿は、糸球体ろ過量の変化とはことなり、炎症などによる糸球体の内皮細胞の障害を示しているといえます。
 

心不全のすべて(50-7:心不全に必要な腎臓の知識、急性心不全にともなうクレアチニンの上昇)

 
急性心不全時の糸球体ろ過量の低下は、うっ血か低潅流により起こります。
今回は、急性心不全時に治療に対するクレアチニンの変化が、心不全自体の重症度を示唆するということをお話しします。

  

慢性心不全で安定している状態(代償期)から、何らかのきっかけや自然の経過の中で不安定な状態(非代償期)になってしまう急性増悪といれわれるものを含むさまざまな急性心不全の時にクレアチニンの上昇はよくみられます。
(急性増悪や急性心不全に関しては別項目で述べます)


この時のクレアチニンの上昇に、尿細管からの分泌量が関係ないとしたら、糸球体からのろ過が低下しているということになります。


急性心不全の本質は、心機能の何らかの低下を基礎にして、全身の酸素の需要に対して供給を調整する過程での、拡張末期圧の上昇と、心拍出量が保持できるかどうかということです。

特に右室拡張末期圧は必ず上昇しますので、体静脈圧は上昇し、腎静脈圧も増加します。


おそらくですが、動脈圧の変動に関しては、収縮期血圧は周知のようにある一定の変動の範囲(90-180mmHg)であれば、糸球体内圧は60mmHg程度にコントロールされます。
しかし、静脈圧の上昇に関しては、そのような調整系はないのかもしれません。
理屈的には、静脈圧が上がった時には、輸出細動脈が拡張すれば、糸球体内圧を保つことはできますが、そのような調整系があるかどうかはわかりません。
そのような調整系がなければ、静脈圧の上昇は、そのまま糸球体内圧の出口圧の上昇につながり、糸球体内圧は低下します。


心不全の時の、腎障害は、海外の腎臓関連の学会などが出している急性腎障害の定義を参考に、安定している状態から、クレアチニン 0.3mg/dlの上昇、または、50%以上の増加と定義されることが多いです。
(初回の心不全などは安定している状態がわからないことがほとんどですが)


また、心不全で入院してから48時間以内に、クレアチニンが上昇するかどうかによって、心不全の治療反応性を評価することがあります。

入院してから48時間の時点でクレアチニンが0.3mg/dl以上か50%以上増加することをWorsening renal function(WRF)といいます。日本語では、腎機能悪化となるのかもしれませんが、これはそのまま英語で言うことがほとんどだと思います。


入院してから、腎機能が悪化する例は予後などが悪いと報告されています。
これは、腎機能はクレアチニンで評価されていますが、この時の糸球体ろ過量の低下の原因がうっ血にあるか、低潅流所見にあるかの違いや、入院後の初期治療によるうっ血あ容易に解除されるかどうかが、入院後の48時間の変化に出るのだろうと思います。


通常のうっ血での糸球体ろ過量の低下の場合には、利尿薬などに反応して比較的容易に静脈圧が低下し、糸球体ろ過量の改善がみられ、クレアチニンが下がると想定されます。
しかし、低潅流によって糸球体ろ過量が低下している場合には、低潅流による治療が行われていても、すみやかには血行動態が改善することはなく、48時間でのクレアチニンの改善が見られないと思われます。

また、初期の治療だけではうっ血がとれず、静脈圧も低下しない場合にはクレアチニンは改善しないということになります。


つまり、心不全での入院後の48時間時点でクレアチニンが改善していないといいうことは、低潅流を伴っているか、簡単には下げれな静脈圧となっているかということになりますので、どちらにしても難治性の心不全ということになります。
 
 

心不全のすべて(50-6:心不全に必要な腎臓の知識、安定してても重症心不全では糸球体ろ過量が低下する)

心不全の時には、糸球体ろ過量は、変わらないか、うっ血や腎血流の低下に伴い低下します。

 
血清クレアチニン濃度をみているとその変化をみることができます。
 
 
ここで、心不全が慢性的に安定している状態のときと、血行動態的に不安定化する急性増悪という状況になる非代償状態の時とに分けて考えていきたいと思います。
 
まず、重症といわれるような心不全でない限り、心不全が安定時に心不全によって腎機能が障害されることはあまりないと思います。
 
何を重症というかということですが、心不全の症状による分類であるNYHA分類II相当までの、まぁまぁ普通に症状なく日常生活を送れる程度であれば、心不全による腎機能低下はあまりないと思います。
特に、右房圧(≒中心静脈圧≒腎静脈圧)が一桁前半程度で、心拍出係数が2.5L/min/m2を超えていれば、血行動態的にも循環の異常による糸球体ろ過の低下はないと考えていいと思います。
 
ただ、重症といわれるNYHA III相当以上の、通常の日常生活でも呼吸困難が出るとか、安静時でも呼吸困難がでるような心不全では、循環不全による糸球体ろ過量の低下がみられている可能性があります。
また、右心機能不全中心の重症心不全であれば、慢性的な腎うっ血による糸球体ろ過量の低下がみられることもあります。
 
重症心不全では糸球体構造などに不可逆的な異常は起きていないと思います。病理学的にも糸球体の萎縮はあるものの、尿中のアルブミンがあまりみられないことと、左室補助循環装置や心臓移植後に、糸球体ろ過量が改善することがほとんどであるからです。
病理学検査での糸球体の萎縮は、まったく原因はわかりませんが、相対的にボーマン嚢内の圧が上昇し、糸球体を伸しているのではないかと思っています。が、もちろん、わかりません。
 
ただ、現在日本では、左室補助循環を受けている人の多くは心臓移植を前提としています。そのため、少なくとも、心臓移植の登録基準をクリアしていることが前提ですので、注意が必要です。
現在心臓移植の登録には、クレアチニンクリアランスで30ml/min/1.73m2を超えていることが必要とされます。(移植申請時には、標準の体系当たりの数値が必要になりますので、身長体重で補正した単位になります。標準体表面積1.73m2=170cm*63kg)
糸球体ろ過量低下時には、クレアチニンクリアランスは、イヌリンクリアランスよりも30%程度高くなる(尿細管からの分泌が増える)ために、実質の糸球体ろ過量は20ml/min/1.73m2程度と考えられますが、糸球体ろ過量はそれ以上の患者さんしか母集団に入っていないことは注意が必要です。
 
もし、糸球体ろ過量5ml/min/1.73m2程度まで落ちている人であればどうなるかはわかりません。
数年間、クレアチニンクリアランス 20ml/min程度(実質の糸球体ろ過量は15ml/min程度)で経過していた人が、状態が悪化して、左室補助循環をつけ、しばらくは状態の悪化そのものの影響や手術の影響、術後の感染などの影響で、血液透析を必要としましたが、最終的には腎機能は正常レベルにまで回復したということは経験しました。その人は、もともとは収縮期血圧 65-70mmHg程度、中心静脈圧 10-15mmHg程度で経過していた方です。
ごく少数例の経験ですが、特に動脈硬化の関係しない心疾患で、40歳程度までの比較的若年の方であれば、腎機能は補助循環後に改善してくる可能性は高いと思われます。
 
現在、実質的に腎機能は糸球体ろ過量を基準に評価されいますが、この糸球体ろ過量が血行動態の影響を強く受けるものであります。
この腎機能=糸球体ろ過量としていることは非常に大きな問題であると考えています。
正味の腎機能は、血行動態や腎臓の外部環境を可能な限り除いた糸球体とその周りの機能だけのはずです。(もちろん、糸球体ろ過以外の尿細管機能なども含みますが)
重症の慢性心不全の方は、低潅流所見が持続的にあり、静脈圧が高くなっていますので、腎血流が低下していて、糸球体内圧は低下しているという状態が常態化しているため、糸球体ろ過量が低下していることはよくあることです。
そのような患者さんに、循環の補助装置を使って、腎血流を確保し、静脈圧を低下させれば、糸球体ろ過量が増加するのは当然のことです。
また、レニンアルドステロンが活性化している状態では、腎臓の中でも皮質のほうの糸球体の血流は制限されて、傍髄質といって腎臓の中心まわりの糸球体の血流が維持され、全部の糸球体が均等に働くわけでもありません。
 
限られた移植心臓を、できるだけ長く生きられる人に移植するというのは重要だと思いますので、腎機能が正常であろう人に心臓移植を限定する、つまり、糸球体そのものに異常のある人は除外するというのは仕方ないと思います。
 
そのためにも、現在の糸球体ろ過量のみを単純にみるのではなく、糸球体ろ過量を、腎血流や静脈圧から、それらの影響を除外できる補正式などを作って、その時の糸球体機能を推定することが重要だと思います。
心不全の人の循環が、その人の血行動態を収縮期血圧 90mmHg, 心拍出量 2.5L/min/m2、中心静脈圧 4mmHgであるとしたときに、その人の糸球体ろ過量がいくらと推定されるかという補正式を、今まで心臓移植を受けた方から作って、その補正式の妥当性を、今後前向きに検討する必要があると思っています。

心不全のすべて(50-5:心不全に必要な腎臓の知識、心不全の時に血清クレアチニンが上がる理由)

腎機能の最も重要な機能の一つである糸球体ろ過を規定しているものは以下のものです。

 
1) 腎血流量
2) 糸球体内圧
3) 糸球体ろ過にかかわる糸球体を構成する毛細血管やその周囲の細胞機能
  (これが正味の腎機能であると思われる)
 
 
心不全になった時に、腎臓へはどのような影響があるでしょうか。
また、心不全患者の腎機能を見ることで、心不全のどのような状態が評価できるのでしょうか。
 
 
重症心不全になると腎血流量は減少し、糸球体内圧も低下します。そのため、糸球体ろ過量は低下します。
腎臓そのものの構造や機能が正常であっても、糸球体ろ過量は、腎臓以外の要因によって減少します。
 
 
まず、糸球体内圧に関しては、腎臓自体に、心臓や筋肉のように圧を発生させる機構はないため、糸球体内圧のとりうる最大の値は、収縮期血圧と中心静脈圧の差になります。
重症の心不全でも、安定している代償期という状態であれば、通常中心静脈圧(≒平均右房圧)は、一桁の前半(<5mmhg)程度にはコントロールされていることが多いので、基本的には糸球体内圧は動脈圧に依存します。
 
しかし、血行動態的に不安定化している非代償性心不全という状態になると、中心静脈圧は容易に10mmHg以上となります。特に、右心機能不全があるような患者や、心膜による影響で右室の拡大で左室の拡大が制限されるような場合には、中心静脈圧が、15-25mmHg程度に上昇することはよくあります。
このような時には、収縮期血圧が100mmHg程度あっても、最大でも糸球体内圧は、75-85mmHg程度となります。
もちろんこれは最大値ですので、腎臓内での圧の減退や、糸球体の圧の制御がもともと動脈の圧の変動に対して調整するように働くため、静脈圧の上昇は、直接的に糸球体の出口圧の上昇となる可能性があり、心不全による静脈圧上昇時には、糸球体内圧は動脈圧が低下したとき以上に低下する可能性があります。
 
また、心不全の時には、低循環状態になったり、そうでなくても全身が低循環であると誤って(または過剰に)判断してしまうことがあります。
このような状態になると、重要な臓器に優先的に血流が分配されます。優先される臓器は、心臓と脳です。そのため、腎臓は、筋肉程血流は低下しませんが、心臓や脳よりは容易に血流の低下が起こります。
 
つまり、心不全の場合には、糸球体ろ過量の低下は、低循環による腎血流の低下(心拍出量の低下および血流の臓器分布の調整による低下)でも起こりますし、腎臓のうっ血による腎うっ血という状態でも起こります。
さらに、低潅流を伴う心不全の急性増悪時には、必ずうっ血症状を伴いますので、低潅流と腎うっ血の両方による糸球体ろ過量の低下が生じています。
(安定期や代償期の治療の途中であれば、うっ血を伴わない低潅流状態は存在しますが、急性増悪時には基本的にはうっ血を伴います)
 
糸球体ろ過量のバイオマーカーは、一般的には血液の血清(血漿)クレアチニン値です。(保険診療の関係で、シスタチンCは頻回に測定できませんので)
クレアチニンの血中濃度の変化は糸球体ろ過量の変化を示唆します。
そのために、心不全の急性増悪にクレアチニンがある程度上昇しているときには、この腎臓の潅流低下か、腎うっ血を示唆します。
(たまに薬剤などによる間質性腎炎や腎障害が生じている可能性もありますが)
 
逆に、心不全が増悪していても、クレアチニンに変化がなければ、糸球体ろ過量に変化はないことが示唆されます。
 
ただ、ここで注意が必要なのは、たとえば、状態が急激に悪化したときには、血液検査のクレアチニンの上昇には半日程度はかかりますので、急変したときに、血液検査を行っても血清クレアチニンに変化はありません。
しかし、この時に、尿中クレアチニンをはじめとした尿中生化学検査は劇的な変化をみせています。この尿中の生化学変化は、また、もう少し先のお話です。

心不全のすべて (50-4:心不全に必要な腎臓の知識、糸球体ろ過量を規定する因子)

腎機能の最も重要な機能の一つである糸球体ろ過を規定しているものを整理したいと思います。

 
1) 腎血流量
2) 糸球体内圧
3) 糸球体ろ過にかかわる糸球体を構成する毛細血管やその周囲の細胞機能
  (これが正味の腎機能であると思われる)
 
糸球体ろ過の量は、腎臓に流れ込む血流量に依存します。
すべての臓器でいえることですが、血流量はその臓器の血管抵抗により決まります。その臓器全体の血管の抵抗値(主に終末細動脈)によりどれだけの血液が振り分けられるかが決まります。
そのため、輸入、輸出細動脈やそれ以降の血管の抵抗値の総和に従って全体の血流の中の腎臓の血流の割合が決まります。
 
 
次に、糸球体の内圧の低下は、糸球体ろ過量の低下の重要な原因となります。
糸球体の毛細血管の内圧は、その前後にある輸入細動脈と輸出細動脈の間の圧較差になります。
輸入細動脈が収縮し、輸出細動脈が拡張すると、糸球体内圧は下がりますし、逆に輸入細動脈が拡張し、輸出細動脈が収縮すると、糸球体内圧は上がります。
糸球体ろ過を増やすことだけを考えると、糸球体内圧を上げるほうがいいので、輸入細動脈を拡張させ、輸出細動脈を収縮させる方針となりますが、長期の糸球体内圧の上昇は糸球体の硬化といって、糸球体の機能不全の原因となりますので、長期的には、症状や検査所見に異常がでない範囲で糸球体内圧を低く維持する方針となります。
 
ちなみに、全身の収縮期血圧が90-180mmHgの 間では,輸入細動脈と輸出細動脈の調節により糸球体内の毛細血管の内圧は60mmHgに維持されています。
 
 糸球体のろ過圧は、糸球体内圧60mmHgから血漿膠質浸透圧32mmHgとボーマン囊内圧18mmHgを引いたもので 10mmHgとなります。
 
これについて、補足説明します。
ボーマン嚢内圧とは、糸球体が入っている袋の中の圧ですので、糸球体から原尿がボーマン嚢へと流出するときに、ボーマン嚢の内圧は、糸球体から原尿をろ過するときの抵抗となりたす。そのため、まずは、糸球体内圧から、ボーマン嚢内圧を引いた圧、42mmHgが駆動力になります。
 
次にもう一つ駆動力というか、血管の中に血液(の血漿=水)を引き留めようつする力があります。これは膠質浸透圧というもので、血管内と血管外(ここではボーマン嚢内)の膠漆(≒アルブミン)の濃度差により水の移動が起こるという現象の駆動力となるものです。たいてい、血管の中のほうが膠漆の濃度が高いので、膠質浸透圧は、血管の外から中へとかかる力になりますので、つまり、血管の中に水を引き付ける力といえます。
膠質浸透圧は、血管の中から外に水が移動する(原尿がろ過される)のに対抗する抵抗となります。
 
腎臓の糸球体内とボーマン嚢の膠質浸透圧の差は32mmHgとのことですので、最終的に10mmHgが血管からボーマン嚢へと水を押し出して減少を作る原動力となります。
 
この駆動力によって、血管の中から血漿がボーマン嚢内へ移動し、原尿となります。
 
この圧力のほかに原尿の量を決める(糸球体ろ過慮を決める)ものは、糸球体のすべての毛細血管の表面積と血管の透過性です。
 
別項目で説明しますが、これはFickの法則と呼ばれるもので、Fickの法則は、この血管内外の圧較差と膠質浸透圧を駆動力として、毛細血管の表面積と、毛細血管自体の透過性(脳は透過性が低く、肝臓脾臓は透過性が高い)により移動する水の量が決定するという法則です。
 
ただし、収縮期圧が80前後でも非常に健康な人はいくらでもいます。この値は理論値であり、おそらく通常はほかのいろいろな調整系が作用して、80程度でも、糸球体ろ過は正常に行われると思われます。
 
 
最後に糸球体やその周囲の支持組織の機能も糸球体ろ過に影響を与えます。
まず糸球体の毛細血管が少なくなれば、当然ろ過される表面積が少なくなりますので、糸球体ろ過量は減少します。
糸球体は、もともとすべての毛細血管を使ってろ過しているわけではないとのことです。しかし、毛細血管に障害が起こると徐々に使っていなかった後半部分の毛細血管を使用したりして、ろ過を維持しようとしますが、それすらできなくなると糸球体ろ過量が低下していきます。
このような疾患は、いわゆる糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの疾患でみられます。
私は、個人的に糸球体の機能は、この機能障害に限定されるのではないかと考えています。
循環血液量や糸球体内圧は、基本的には腎臓外の要因ですし、十分な循環血液量と適正な糸球体内圧が与えられたときにどれだけ糸球体はろ過できるかということを意識しないといけないと思います。

心不全のすべて (50-3:心不全に必要な腎臓の知識、糸球体ろ過量の測定方法)

糸球体ろ過量をある程度正確に求めるとすると、イヌリンという物質を持続静注することにより求められます。しかし、標準的な方法では、検査前に500mlの飲水が必要など心不全の人には実施が困難ですし、簡単に多くの人に対して行う検査としては不適です。

 
 
そこで、血液の中にある物質で、糸球体ろ過量を計算するために必要な条件である①糸球体でろ過されること②尿細管や集合管で再吸収や分泌が行われないことをある程度満たす物質があれば、その血中濃度と一定の時間当たりの尿中の排泄量(尿量×尿中濃度)がわかれば、糸球体ろ過量を推定することができます。
 
この条件を満たす物質が2つありました。
ひとつは、クレアチニンで、もう一つはシスタチンCです。

(ほかにもあるかもしれません。日常臨床で用いられるのがこの2つというだけかもしれません)

 
クレアチニンは、筋肉などにあるクレアチンの代謝物です。
 
クレアチンの説明を少しします。
生体のエネルギーは、ATP(adenosine triphosphateアデノシン3リン酸)という分子を使って輸送、保存しています。
このATPのPはリン酸で、triということで、3個ついています。
ADP(adenosine diphosphateアデノシン2リン酸)に対して、1個のPがついて、ATPとなります。ATPは、この反応でリン酸化されることで、高エネルギー物質となります。つまり、ADPをリン酸化することは、高エネルギー物質を作るということになります。
 
細胞のエネルギー産生の場は、ミトコンドリアですので、ミトコンドリアでどんどんとエネルギーが作られますが、この時にエネルギーを受け取るのがADPであり、その結果できる高エネルギー物質がATPです。
クレアチンは、このATPと結合して、クレアチンシャトルといわれる輸送方法で、細胞の必要な場所にエネルギーを運搬したり、保存したりする機能を持っています。
 
そのクレアチンの代謝物が、クレアチニンです。
クレアチニンは特に生理的な役割はなく、腎臓からろ過されて排泄されていきます。
このクレアチニンが、糸球体ろ過を推定するうえで、条件が比較的そろっていることから、クレアチニンの血中濃度と尿中排泄量から、糸球体のろ過量が推定されるようになりました。
これがクレアチニンクリアランスです。
 
クリアランスというのは、排泄のことです。
腎臓でのクリアランスとは、腎動脈と腎静脈の間でどれだけ物質が排出する能力があるかということです。
つまり、もしイヌリンのような糸球体でのみろ過されて、尿細管や集合管で花にも影響を受けなければ、イヌリンクリアランスと糸球体ろ過量は同じになります。
 
クレアチニンの場合には、尿細管で多少分泌されるため、クレアチニンクリアランスは、糸球体ろ過量に、尿細管分泌分を足した値になり、イヌリンクリアランス(=糸球体ろ過量)よりも高い値になります(30%程度高くなるといわれています)。
 
ただ、実臨床では、クレアチニンクリアランスというのは、クレアチニンで測定する糸球体ろ過量ということだと思っていただいていいと思います。
 
 
全身の状態が安定していれば血中のクレアチニン濃度は安定しています。また、尿中排泄量は、24時間の畜尿により求めることが一般的です。
そのため、24時間の尿中のクレアチニンの排泄総量と、その間に検査した血液検査でのクレアチニン濃度を使って、クレアチニンクリアランス(≒糸球体ろ過量)を求めます。
 
ただし、通常の外来では畜尿が困難であったり、最近は院内感染の面から畜尿自体がやりにくくなっており、実際には、多くの場合で、血液検査のクレアチニンの値のみから、クレアチニンクリアランスや糸球体ろ過量を推定する式を使用して、数値を求めています。
 
 
推定のクレアチニンクリアランスと推定糸球体ろ過量(estimated GFR)は、使用する式が違います。
クレアチニンクリアランスは、血清クレアチニン濃度、性別、年齢、体重から計算されます(Cockcroft-Gault式)。
eGFRは、血清クレアチニン濃度、性別、年齢から推定されます。
 
ここで、2つ問題があります。
ひとつは、クレアチニンの排泄が、糸球体ろ過だけではなく尿細管から分泌されるため、尿中に含まれるクレアチニンの量は、糸球体からろ過されたものだけではなく、途中の尿細管で分泌された分も含むので、糸球体ろ過量を過剰に評価してしまうということです。(クリアチニンクリアランス>糸球体ろ過量となる)
さらに、これは腎機能障害が進むと、尿細管からの分泌量が増えるとされているので、腎機能障害では、さらに糸球体ろ過量を過剰に良く判断してしまうことがあります。(腎障害時:クリアチニンクリアランス>>糸球体ろ過量)
 
もう一つの問題は、クレアチニンの血液検査から推定する時には、クレアチニンは、筋肉内に主に存在するクレアチンの代謝物なので、筋肉量の少ない人(高齢女性や筋肉疾患の人)などでは、血中のクレアチニンの濃度が、もともと低くなっているということです。
そのため、特にeGFRは血中クレアチニン濃度と年齢と性別のみで推定するため、同じ性別の同じ年齢の人であれば、筋肉隆々の人と、寝たきりの筋肉がかなり減少している人でも、同じ血中濃度であれば、同じeGFRとなります。
 
しかし、クレアチニンは筋肉量の影響を強く受けるため、筋肉隆々の人は、糸球体ろ過量が正常でも、血中の濃度は高くなりますし、筋肉の少ない人は、血中濃度が低くなります。
そのため、高齢女性で、特に寝たきりのような人では、非常に筋肉が少ないために、クレアチニン濃度が低くなります。そのために、eGFRで推定する糸球体ろ過量が過剰に良い値になり、腎機能の良し悪しを見誤ることがあります。
 
これは、薬物の投与時に非常に問題になります。腎臓で代謝される薬は、腎機能によって量が決まったり、服用できなかったりします。
高齢女性で、eGFRを使って糸球体ろ過量を推定すると、血中のクレアチニン濃度が低いため、腎機能がよく出てしまい、それを基準に投薬すると、ただでさえ、体が小さいのに、過剰に良いと推定された腎機能により投与量が決められ、本来より多い量の薬物が投与され、薬物の血中濃度が事前に予定している以上に高くなり、中毒症状や、副作用が強く出てしまうことがあります。
そのために、薬物投与などには、体重も計算式に入っているクレアチニンクリアランスの推定式を使用することが必要です。
 
 
このようにクレアチニンには筋肉量による影響があるために、このような影響を受けないバイオマーカーとしてシスタチンCが併用して用いられることがあります。
シスタチンCは、近医尿細管で多少の再吸収は受けますが、すべての細胞から出るため、体格の問題による影響を受けにくいとされています。
 
現在、通常に臨床ではクレアチニンによるeGFRにより腎機能は評価されています。
その上で、クレアチニンによるeGFRが低下していた時や、筋肉量が著しく少ない場合になどには、一度シスタチンCによりeGFRを測定して、ずれがないかどうかを確認するなどされているかと思います。
 
シスタチンCに関しては、医療保険では、「尿素窒素又はクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3月に1回に限り算定できる。」とされています。