Andrii Boguslavskyi, Sergiy Tokar, Oleksandra Prysyazhna, Olena Rudyk, David Sanchez-Tatay, Hamish AL Lemmey, Kim A. Dora, Christopher J. Garland, Helen R. Warren, Alexander Doney, Colin N.A. Palmer, Mark J. Caulfield, Julia Vlachaki Walker, Jacqueline Howie, William Fuller, and Michael J. Shattock:
Phospholemman Phosphorylation Regulates Vascular Tone, Blood Pressure and Hypertension in Mice and Man.
Circulation; December 18, 2020
今回は、イオンチャネルの制御をしているタンパクについての論文です。
循環器は、不全心による血行動態の異常を理解するのに、古典的な物理学的な考え方が必要で、心筋や平滑筋の収縮・弛緩の理解には化学的な側面が必要です。
今回は、PLM(Phospholemman)というタンパクがどのように、血管平滑筋の調整にかかわっているかという論文です。
PLMというのは、心筋と血管平滑筋のイオンチャネル、Na-K-ATPase, Na/Ca exchanger, L-type カルシウムチャネルに存在しています。
PLMのセリン残基(S63,S68)がリン酸化されると、Na-K-ATPaseが刺激され、Na/Ca exchangerがブロックされます。
PLMが阻害されると、Na-K-ATPaseが機能阻害されることで、細胞内のNaが増加し、さらにNa/Ca exchangerの亢進により、増加したNaが細胞外に出ることにかわり、細胞内にCa濃度が上昇します。
心筋細胞内のCaレベルが上昇は、活動電位持続時間の延長や心筋の収縮性を上昇させ、血管平滑筋のCaレベルの上昇は平滑筋の収縮トーヌスを亢進させることで、血管抵抗を上げます。
論文では、平滑筋PLMの機能を、マウスのPLMノックアウトで検討し、遺伝子のデータベースから、PLMの機能異常のある人を探して、その疾患との関係性を検討しています。
マウスのPLMのSer63とSer68をリン酸化させると、フェニレフリン(昇圧薬)に対する血管の収縮が制限され、されに、ウアバインを投与すると、これの反応がみられなくなるという結果でした。ウアバインはジギタリス製剤の作用の阻害でよく使われる薬剤です。
また、マウスのPLMをリン酸化を阻害すると、加齢性血圧上昇と関連することが観察され、さらにヒトの遺伝子異常によるPLM機能不全では、中年以降の血圧上昇と関連するとの結果でした。
このような論文は、今知ったからといって、臨床の何かの結果が変わるものではありませんが、イオンチャネル自体を知ることは、不整脈、その治療薬の理解に非常に役立ちます。
また、不全心の理解にも必要です。
ぜひとも、心筋と平滑筋のイオンチャネルを理解してみてください。