心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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後負荷とは

後負荷とは、心臓が収縮して血液を大動脈に拍出するのに対して邪魔するをすべてのものとなります。

後負荷を理解するには、2つの要素の理解が必要になります。まずは、血圧。そして、閉塞性肥大型心筋症と、その閉塞の程度に対する降圧薬の効果です。

まずは、血圧が何かからみていきます。
血圧は、動脈中の血液が血管を外方向へ押し広げる力(とそれを押さえつける血管の力が釣り合った力)を測定しています。動脈のある場所における血圧は、その場所における血液の量の変化(外へ押し広げる力)と血管のコンプライアンス(血管の硬さ)によって決まります。血管のコンプライアンスについては、血管自体の材質(性質or性能)や、血管のサイズ(同じ材質でも小さくなればコンプライアンスは低くなる)などにより決定します。

心臓が収縮して、動脈のある測定点で血液が増えて、血管を押し広げ、それに対して血管が抵抗するときに最大血圧になります。ちなみに血液の移動速度と、血圧の伝わる速さは違います。心臓から血液が駆出される時には、通常の最高速度は60-80cm/sec程度で駆出されます(1m/secを超えると狭窄・閉塞があるかもしれないと疑います)。脈波は、1200cm/sec程度で伝わりますので、10倍以上の差があります。これは、血圧は血液そのものの移動ではないことを示唆します。血液は大動脈に駆出されたときに、血管内にすでにある血液を押し込みます、すると、動脈は外側に進展しますので、大動脈の中の血液は、膨れる分と前に進む分に分かれます。前に進むといっても、自分がどんどん進むというよりも、すでに血管の中にある血液を推し進める感じで血液全体として前に進みます。そのため、駆出された血液が移動するのではなく、どんどんと前を押し込むことで、脈波として伝わるので、実際の血液の移動速度よりも血圧(脈波)の移動速度は速くなります。血液を押し込んで行くと、末梢では終末細動脈が抵抗を作っているので、そこでいったん渋滞します。すると、押し込んでいた血液が、おっとっとという感じで、抵抗を感じてストップしていきます。この抵抗によるストップは、逆方向に伝わりますので、反射波と呼ばれます。この反射波(実際に何かが戻っているわけではない)によって、最終的には大動脈を閉鎖させます。

例えてみると、これは、ドミノ倒しのようであり、高速道路での工事渋滞のようでもあります。
もう一度説明しますと、心臓から出た血液は、すぐそこにある上行大動脈の血液をプッシュします。すると上行大動脈の血液は押し込まれますので、大動脈を進展させて膨らみながら、さらに前方をプッシュします。プッシュされて膨らみながらさらに前方をプッシュすることが連続的に起こって、血液の移動速度を超える速度で血圧は血管を伝わっていきます。そして、抵抗血管である終末細動脈にまでプッシュすると横方向に逃げれず前方をプッシュしますが、同時に行き止まりとまではいきませんが、それに近い状態になり、前方をプッシュできずに停滞します。停滞すると、その停滞がどんどん後方へ波及し、最終的に上行大動脈まで停滞が起こり、その時に大動脈弁が閉鎖し、収縮期が終了します。心臓の収縮期は、だいたい心電図のQT時間と考えると、0.3-0.4secとなり、この時間の間に前方プッシュによる血圧の伝播から停滞による後方渋滞が生じることになります。
血液がプッシュされて膨らんだ時の力と、血管の硬さによって血圧が決まります。ちなみに、大動脈内の血液の流れをエコーで確認すると、収縮期に最高速度60-100cm/sec程度の順行性血流があって、収縮期の終わりに一瞬逆流の波があり(停滞による後方プッシュ)、拡張期には静脈のようなだらだらとした遅い血流が少し流れます。
いわゆる血圧は、このプッシュされて膨らむ力が血管を押す力になりますので、血管が硬ければそれだけ力がかかりますので、血圧が高くなります。血管の硬さは、血管トーヌスといって、NO、アンギオテンシンIIなどのホルモンや、イオンチャネルなどによって、可逆的に調整されていたり、動脈硬化のように不可逆的に硬くなったりします。また、物理的に同じ材質でも径が小さいほうがコンプライアンスが低くなりますので、硬くなるといえます。

さて、次に閉塞性肥大型心筋症を考えます。左室の流出路の周囲の、特に中隔の心筋が肥厚していると、収縮期に中隔の肥厚している心筋が左室流出路の少し手前で狭窄を生じ左室からの拍出を邪魔するという病態です。狭窄による圧較差によって症状などが生じ、最大100mmHg以上の圧較差を生じるような狭窄もそれほど珍しくはありません。
もちろん、大動脈弁狭窄症のようにずっと狭窄しているわけではないので、必ずしも症状があったりするわけではありませんが、それでも失神や胸痛などの症状は起こることがあり、このような場合には圧較差を減じる治療が必要になります。
圧較差を減じる治療に関しては、カテーテルなどいくつかの治療がありますが、初手としては内服調整を行います。この圧較差は、心臓の収縮性が高くなる、後負荷が低くなる、または、前負荷が低くなると、悪化しますので、もし、このうちのどれかに関係する作用がある内服の場合には、それらを中止することになります。多いのは、降圧薬です。降圧薬は、前負荷か、後負荷を落とす作用を持っているものがほとんどですので、基本的に高血圧治療は中止となります。ただし、β遮断薬だけは、心臓の収縮機能を低下させるため、α遮断作用のないテノーミンなどを十分な量投与することは、圧較差を減じるのにも、降圧にも有用ですので、閉塞性肥大型心筋症の降圧治療の第一選択は、禁忌のない限りテノーミンやメインテートになります。他にも、シベノールなどが有効ですが、それはまた別のお話です。
さて、降圧薬の中でもこの閉塞性肥大型心筋症に対しての作用は、結構異なります。特にACE阻害薬(やARB)は如実に圧較差を悪化させます。しかし、カルシウムチャネル拮抗薬(CCB)に関しては、意外に圧較差を変化させないことが多く、βブロッカーだけで降圧が不十分であったり、禁忌があって使えないときには、あくまで心エコーで圧較差の悪化がないことを確認しながらですが、CCBは使用可能です。ACE阻害薬とCCBは、どちらも標準容量であれば、同じ程度の降圧効果となりますが、この閉塞性肥大型心筋症に対する影響の違いから明らかに血行動態的に異なるということが言えます。つまり、ACE阻害薬のほうが、前負荷及び後負荷を減じる作用が有意に強いということになります。確かに、静脈は、NOや一部腹腔臓器の静脈はα受容体があり交感神経の支配を受けていて、レニンアギオテンシン系はそれらとクロストークしますので、前負荷を減じている可能性があります。しかし、後負荷に関して、特に大動脈にような平滑筋の少ない動脈は、カルシウムによる制御をほとんど受けておらず、アンギオテンシンなどのホルモン的な支配を強く受けていることがわかっていますので、同様の降圧作用でも、CCBは末梢の平滑筋の多い動脈に作用して、ACE阻害薬は大動脈にも作用するという可能性があります。この差が、2つの薬剤の差であれば、心臓にとっての後負荷の減少作用は、ACE阻害薬が優れているということになると同時に、CCBでは減ぜすに、ACE阻害薬で減ずるとすれば、心臓の後負荷は大動脈がになっているといえます。

上記2つの事柄から、心臓の内的な抵抗以外の外的な後負荷のメインとなるのが、大動脈とその中にある血液であるということが言えます。
であれば、大動脈径が細ければ、後負荷は増加して、不全心筋となりやすかったりという可能性も考えられます。また、血圧が上昇していて、急激な肺水腫をおこなしているいわゆる電撃性肺水腫には、ニトロスプレーが有効ですが、ニトロスプレーには、大血管を弛緩させる作用がありますので、大動脈が弛緩し、後負荷が軽減し、左室の拡張末期圧が低下することで肺水腫が軽減されるということにもつながります。

上行大動脈の血管系は、3cm程度ありますので、断面積は、約7cm2であり、およそ8cm分(2-3椎体分)で60mlになります。これだけの血液が毎拍出ごとに駆出され、プッシュプッシュを繰り返し、脈波が伝わります。