心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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TR(3):三尖弁閉鎖不全症の血行動態

TR(三尖弁閉鎖不全)の原因は、僧帽弁閉鎖不全症と同じように弁自体に異常のある一次性(Primary)と、弁自体には異常はない二次性、別の言い方では機能性(functional)とに分けられます。
 
日常的にみるのは、心不全に伴うTRだと思います。これは、心不全が安定しているときには、少しある程度(mild)で、増悪するとともにTRが増加する(moderate程度?)というもので、これを機能性TRといいます。
ちなみに、TRの重症度と、TRPGといって、三尖弁逆流の速度から計算される圧較差は関係ありません。あくまで圧較差は、右房右室間の収縮期の圧の差をみていますので、直接的な肺高血圧の評価や、間接的な肺動脈楔入圧の上昇の評価となります。
超重症の三尖弁閉鎖不全になると、弁口が拡大しすぎて、弁が逆流防止弁というよりは、弁輪の飾り程度になってしまい、ただの中途半端な仕切り程度(半開のふすまみたい)になるので、圧較差はほぼなくなります。
(流速から圧較差がわかるのはベルヌーイの定理によります。別項目で循環器内科に必要な流体力学の話をまとめたいと思います)
 
機能性三尖弁閉鎖不全は、右室の異常や血行動態の異常により三尖弁の腱索付着部と心筋側の腱索付着部位の位置関係の異常により生じます。また、逆流量は閉鎖不全となっている収縮期の三尖弁の閉鎖不全の孔の大きさと、右室と右房の房室間の圧較差によって決まります。
 
安定しているときには、閉鎖不全があっても軽度で、右室の収縮期圧もさほど高くないため軽度逆流程度があるとします。
心不全になると、特に一般的な左心の機能低下が有意な心不全の場合には、何らかの理由で不安定化するときに、悪いほうの心室の拡張末期圧が上昇します。この場合には、左室の拡張末期圧が上昇します。左室拡張末期圧の上昇は、平均左房圧の上昇となり、そのまま、肺動脈楔入圧の上昇になります。
肺動脈楔入圧は、右心系にとっては後負荷となりますので、肺動脈楔入圧の上昇は右心系の後負荷の上昇となります。
左室拡張末期圧の上昇は、右室にとっては後負荷の上昇となるので、右室は後負荷上昇のために、収縮末期容積が増加し、それにともなって拡張末期容積も増加します。つまり、右室が大きくなります。
この時に、三尖弁と右室とのそれぞれの腱索の付着部位の距離が遠くなることで、弁の閉鎖不全が悪化し、収縮期の逆流の孔が大きくなり、また、右室の収縮期圧も後負荷に対抗して上昇し、圧較差も増大します。
このために、弁の閉鎖不全の悪化と逆流量の増加ということになります。
この時に、弁閉鎖不全が悪化すればするほど、右室にとっての後負荷は軽減されますが、逆流量は増えるため、右室容積は増加するということになります。
 
右室の場合には、左室以上に、圧負荷に対して大きく反応するため、僧帽弁閉鎖不全よりも三尖弁閉鎖不全のほうがより逆流の変化が大きいのかもしれません。
ただし、右室の場合には、左室よりも壁のコンプライアンスが高いため、容積増加したときに圧の上昇は軽減されると考えられます。
 
 
また、慢性的に高度の三尖弁閉鎖不全が起きることももちろんあり、それによって体循環のうっ血所見が固定化することもあります。特に右心機能低下が関係する場合には、高度で固定化し体循環のうっ血所見が起こることが多いです。
何らかの理由で三尖弁閉鎖不全が起こった時に、最も症状と直結するのは、逆流血を駆出するために余分な右室の拡張による右室拡張末期圧の上昇です。それにより平均右房圧が上昇し、静脈圧が上昇することで、体組織・臓器のうっ血が生じ、特に長期の高度なうっ血は肝硬変や腎不全を引き起こします。
 
少し先取りして治療に関して考えると、血行動態、心機能からみてどのような三尖弁閉鎖不全を改善させるとどのような変化が起こるのでしょうか。
三尖弁の逆流がなくなると、肺動脈方向と右房方向の2つの孔のうち一つふさがるので、後負荷は上昇します。
右室にとっての全体的な後負荷は上昇しますが、もともと肺動脈方向への後負荷はかわりませんので、収縮性が変わらないという前提であれば、肺動脈方向への血流量、すなわち心拍出量が低下することにはなりません。
後負荷が上昇しますが、逆流量がなくなり、また、心拍出量は保たれるか増加します。
結果的には、収縮末期径が増えるが、拡張末期径は減るということになります。拡張末期径が減少することで、拡張末期圧が低下し、平均心房圧が低下します。ただし、これは、弁形成術が行えた場合に限ります。