心臓は、血液にエネルギーを与えて、血流とします。
以前にお話ししたように、心臓から出た血液は大動脈基部にある血液を押し込みます。つまり、圧エネルギーを与えることになります。この圧エネルギーは、進行方向の運動エネルギーと、より前方の血液を押すエネルギー、さらに血管を進展させる圧エネルギーになります。
血圧は、血液が血管を進展させるときの血管に対する仕事に対する応力になります。
大動脈がの硬さの違いが、エネルギーの効率性という観点でも違いを生じます。大動脈が同じ血液量をリザーブするとしても、収縮開始点の血管系が同じであっても、硬い血管の方がより高いエネルギーを必要とします。さらに、血管径が0cmになると仮定し、徐々に血流を通して血管を広げていくと、柔らかい方が先に大きくなります。つまり、低い圧で大きくなります。逆に言えば、同じ大きさであれば、柔らかい血管の圧は低いということになります。
大動脈に伸展性があるということは、エネルギーロスを減らすという点でも役に立ちます。伸展性があると、それだけ収縮期に血液がリザーブされますので、拡張期に血流が生じます。すると、拡張期に前向きの血流が残っていれば、収縮期にはそれだけ楽に拍出することができます。
これは腎動脈の血流をエコーで見ることでできます。腎硬化のない、いわば血管のしなやかな状態では、拡張期にもしっかりと血流を認めます。しかし、腎硬化が進む、つまり、動脈硬化をきたしていると拡張期の血流がなくなります。この状態であれば、収縮期の血流が増えざるをえず、さらに、拡張期に血流が止まるので、再度静止摩擦係数に対して、押し直しをしなければなりません。収縮期の血流に大きなエネルギーをもたせて、拡張期に止まりつつある血流を押し込まなければならない事態になります。
また、血管は圧力をそぎます。つまり、抵抗となりますので、血液が流れるにつれ、圧力がなだらかに低下していくのが普通です。しかし、途中に有意とされる狭窄があると、そこで圧エネルギーが削られますので、狭窄以降の圧は低くなります。
また、心機能が悪くなると血液に与えるエネルギーが減りますので、末梢組織までエネルギーを送り届けれなくなるため、循環不全となります。
血管が柔軟であれば、少ないエネルギーで末梢まで送ることができますので、若年者では、この心臓でなぜこんなに元気に動けるのかという状態が起こりますが、それは、心臓が血液にどれだけのエネルギーを与え、血管という導管内でどれだけそのエネルギーが削られるかを考えれば、しなやかな血管であればあるほど、心機能は悪くても何とかなるということになります。
ちなみに、おおよそにおいて大事なのは血流、flowです。圧に関しては最低限あればいい。平均で60mmhgもあれば大丈夫です。左室補助循環をつけた、元の心機能がとことん悪い人は、ほぼ脈圧なしの平均60mmhg程度で、血流はだいたい4L/分程度で、全然元気にしています。平均でこの程度の血圧があれば十分だと思います。ただ、これが通常の交流の微分面積の平均値でいいのか、60mmHgを上回っている時間がある一定程度必要なのかはわかりません。すいません。
また、心機能が悪いと大動脈径が小さいということが言われます。
同じ材質でも、血管径が小さいほど壁応力は大きくなりますので、径が小さいとそれだけエネルギーが剥離されます。すると、大動脈が細ければ細いほど、心臓に対する負荷は強くなります。
このような血管に対して代償しようとするとHFpEFになります。しかし、拡張型心筋症のような病態で血管径が細いのは、どうしてかというとわかりませんが、相乗的に悪化させている可能性があります。つまり、成長過程で大動脈が太くなれず、そのために心臓に負荷がかかる。その心臓が圧負荷で拡張する場合には、拡張型心筋症になるのかもしれません。成長期からの慢性的な圧負荷には、通常の心臓は正常な範囲で対応できる可能性があるため、普通の心臓は、どうってことないのかもしれません。
心臓が悪いから、大動脈径が細くなることがあるかどうかについてですが、生理学的に大動脈が細くて得することはないのと、心拍出量が少ないといっても、血管径を決めているのは、血管の柔軟性と血流です。血管に高さを変えて位置エネルギーを変化させる浴槽から血液を流すときに、少しずつ浴槽を高くして位置エネルギーを獲得させるとある段階で、初めはもし血管系0cmで徐々に、血管は円形のまま、高さと共に血管は広がっていきます。実際には、楕円の管で、ある点で円形になって、そこからその円が広がっていくと思います。
血流(のエネルギー)と血管の柔軟性が血管径を決めます。
そう考えると、心機能が悪いといっても、安静時に血流が保たれている場合には、血管径は正常で、拡張期の血流量が不足していると細くなるといえます。
血管の径が可逆性を持っている状態で、心機能が低下してくれば、血管系が細くなっていく可能性はありますし、血管系が細くなると収縮期に同じ血液量が流れても、細い方が応力が強く、より抵抗となり、負のスパイラルとなっている可能性もあります。
大動脈の太さが可逆性かどうかを見るには、心筋炎や冠動脈解離による心筋梗塞(非動脈硬化性疾患がいい)などである時点から心機能が悪くなって一定期間が過ぎた人、もともと先天的な拡張型心筋症などで心機能が悪いと思われる人、年齢でプロペンシティマッチさせた正常群の3群の大動脈径で、比べればいいのかなと思います。