心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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超音波振動で、大動脈弁を広げられるか

Feasibility and Performance of Noninvasive Ultrasound Therapy (NIUT) in Patients With Severe Symptomatic Aortic Valve Stenosis. A First-in-Human Study
Emmanuel Messas et al. Circulation. 2021;143:00–00

 

超音波で大動脈弁狭窄を軽減させようという趣旨の研究になります。
もともと、泌尿器科や胆のう領域では超音波で結石を破砕する治療はありますし、脳血管領域でも脳梗塞後の超音波治療は行われていてます。また、ほぼ冗談ではありますが、心筋梗塞後に主治医が熱心に超音波をすると、超音波刺激で心筋梗塞の壊死領域が減少するという話もあります。

さて、このような中で、大動脈弁狭窄に超音波を使って弁の硬化を改善させてみようという臨床試験が行われました。
心臓は動いていますが、大動脈は固定されていますし、もともと大動脈弁のあたりは動かないので、エコーで集中的に狙いやすいと思います。ただ、狭窄症とはいえ、多少弁尖自体は動くので、尿路結石などよりも効率は悪くなると思われます。僧帽弁狭窄は、弁輪自体が動きますから、難しいと思います。
(日本では少ないですが、途上国では僧帽弁狭窄症は、まだ多いようです)


フランスとオランダの2施設で、大動脈弁置換術ができない・しなかった患者10人にcariawaveを使用する臨床試験が行われれました。ちなみに、弁置換術ができなかった理由は、併存疾患・TAVRを行うのに適した血管アクセスがない・1年以内の予後となっている。
NIUTのメカニズムは、大動脈弁にキャビテーションバブルを発生させることになる。
キャビテーションバブルは、心エコー、特に経食道エコーで、大動脈弁置換術後の弁の外側からの脇漏れによる(perivavlure leak)逆流の時に、きらきらとした粒子がみえる変化といえば、わかり人も多いかもしれません。
キャビテーションは、物理学の減少で、液体がごく短時間に圧力変化が起こって、飽和蒸気圧より低くなった時に、小さな気泡が発生する現象です。流体は、ベルヌーイの定理から速くなれば、圧は低下するので、大動脈弁の人工弁の脇のようにごくごく狭い孔を、大動脈の拡張期の大動脈と左心室の間の大きな圧格差が原動力となっているときに、キャビテーションバブルが発生して、それがエコーを反射させるので、心エコーをするとキャビテーションをとらえることができます。


このキャビテーションを超音波を使って、硬化した大動脈弁に意図的に起こして、そのエネルギーを使って、弁を軟化させようとする試みである。
患者は、平均84歳、男女半分。大動脈弁の状態は、平均大動脈径 0.61cm2,平均圧格差 37.5mmHgとなっているようです。
治療は、ハイブリッドオペ室かカテ室で行われたようです。
平均52分の治療中に、1人が数分の心房細動になり、7人が4秒以下の非持続性心室頻拍となったようです。

NIUT1か月後の結果としては、まず、大動脈弁逆流の新規発症ないし増悪はなかった。左室機能と左室の容量に変化はなかった。最も重要な大動脈弁の平均圧格差と平均面積に関しては、有意ではなかったものの、平均圧格差 37.5 → 32.8(p=0.191)、平均弁口面積 0.61 → 0.71cm2(p=0.0112)。
さらに、有効性にはばらつきがあり、特に効果があった6人(responders)をピックアップすると、平均面積 27.6%改善し、平均圧格差 23.5%改善したとのことです。

かなり侵襲性の低い治療となるので、個人的にはやってみればいいのではないかと思います。
詳細はわかりませんが、心臓専用機ではなく、泌尿器科と機器が共通であったり、共通化できるのであれば、汎用性も高くなるので、いいのではないかと思っています。