心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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Pressure half time(ARとMSの重症度評価)

エコーの重症度評価に用いられる指標で、お話しし忘れた項目がありましたので、ここでお話します。
 
Pressure half time(PHT)は、大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁狭窄症の評価で用いられる指標です。
これは、弁の前後の圧較差を利用した指標です。
圧較差がどれだけ早くなくなるか、または、維持されるかという指標ことで重症度を評価します。
 
流体が流れているときに、途中に細いところがあると、その場所で、流体の速度が速くなり、圧が低下します。血液の粘性や立体的な構造を再現して、狭窄や圧などを変化させると、速度から圧較差を予測することができるようになります。これがエコーで使われている簡易ベルヌーイの式の前提です。
この原理を使用して、心エコーでは、速度を2乗して4倍すると圧較差になるとされています。
(狭窄部の最高速度が3m/sであれば、(4×3×3)で、36mmHgの圧較差になります)
 
これが、このまま肺高血圧や大動脈弁狭窄症では重要な評価項目として採用されています。
 
大動脈弁閉鎖不全や僧帽弁狭窄症では、それぞれ大動脈と左室、左室と左房との圧較差の変化の速度で重症度を評価します。
 
大動脈弁閉鎖不全では、特に重症であれば、大動脈圧が140/40mmHgというような、収縮期と拡張期の血圧が著明に拡大します。これは拡張期に左室内へどんどん逆流していって、動脈内の圧が維持されないことが原因です。
つまり、重症になればなるほど、多くの逆流量があるので、大動脈の拡張期圧の低下が早くかつ大きくなります。(つまり、拡張期の左室との圧較差が重症であればあるほどなくなります)
 
また、左室の拡張期圧に関しては、正常であれば、ほとんど平坦から少し右肩上がりで、心房収縮による圧の上昇もほとんど目立たない感じになります。(左室のコンプライアンスがいいのと、正常であれば心房収縮による左室への充満血液がもともとすくないため)
 
ここではまず簡単に左室の拡張期圧が一定であるとします。
動脈の拡張期圧が低下すればするほど、大動脈と左室の圧較差は小さくなります。
大動脈弁閉鎖不全が血行動態的に重症になればなるほど、拡張末期の圧が低くなります。収縮末期の圧は大動脈弁閉鎖不全が重症になれば、血液量は増えて高い傾向にはなりますが、低くはなりませんので、重症の大動脈弁閉鎖不全では、拡張期にかかての圧の低下がより急峻になります。
大動脈弁と左室の圧較差は、急激に消失するということになり、心エコーの連続派ドプラーの拡張期のはじめと終わりの速度の変化が大きくなります。これを反映して、pressure half time、つまり圧が半分になる、つまり、速度が1/√2だけ低下するまでの時間は早くなります。
結果として、重症となればなるほど、Pressure half time(PHT)は短くなります。
ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでは、PHT<200msが重症で、PHT>500msは軽症、その間が中等症というように定義しています。
 
ちなみに、心不全が進行すると、拡張末期圧の左室の圧は右肩上がりに上昇します。つまり、同じ重症度の大動脈弁閉鎖不全症であっても、心機能が悪いほど、圧較差ははやく減少していきます。
弁膜症としての重症度評価は、どれだけ閉鎖不全の原因となっている大動脈弁の孔が大きいかということだと思いますが、心不全をきたす原因としては、全体的にその閉鎖不全がどれだけ逆流を起こして、心臓に負荷をかけているかということになりますので、PHTは、純粋な弁膜症としての重症度というよりは、血行動態を加味した評価項目といえます。
 
 
次に、僧帽弁狭窄症に関してですが、今度は、狭窄が高度であればあるほどに、圧較差は持続します。
もし、狭窄が全くなければ、圧較差は血流による圧較差のみになります(通常のE波とかA波のことですね)。
 
左室は障害がないと、左室の拡張期圧はひとまず平坦と考えます。
狭窄が高度であればあるほど、左房は常に左室拡張期圧よりも高い圧を維持します。狭窄をある一定の血流量を通そうとすると、圧が十分に高くなくてはならないからです。
左房は左室よりも圧が高い状態が持続すればするほど、重症ということがいえます。
 
極端に考えると、左室の拡張のはじめから終わりまで、高い圧較差が維持されていればいるほど、圧較差は維持されますので、PHTは平坦となり、無限大となります。これはもちろん極端ですが、PHTは僧帽弁狭窄症では、長ければ長いほど重症ということになります。
逆に言うと、狭窄がないと、血流がある時だけ血流による圧較差(E,A波)が少し出現し、すぐに圧較差は消失します。
 
また、経験的に僧帽弁狭窄症は、(220÷PHT)で機能的な弁口面積が近似できますが、これは経験則ですので、物理学的な意味はありません。
有効僧帽弁狭窄面積(cm2)=220÷PHT(ms)
となります。