心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心房のサイズが拡張機能の指標となる理由

心エコーで、拡張機能の評価や心不全の治療反応評価で測定される指標として、左房容積、E/A、E/e'といわれる項目があります。特に、左房容積は、拡張機能が悪い心不全の指標の一つとして重要視されています。
 
心房は、基本的に組織的な構造は心室と同じです。
ただ、イオンチャンネルの種類や分布が異なっていたりすることで、いわゆる分極の2相が平坦ではなく、全体として三角形ぽくみえたり、カリウムチェンネルでアセチルコリン誘発のカリウムチャンネルがあったりします。また、ミオシンの構造も少し違います(胎児性ミオシン)。
さらに、心耳という、心房にくっついた耳のような空間があります。心房細動になると、この心耳に血栓ができるために、デバイスでこの心耳を埋め立ててやると血栓症が減ります。なぜ心耳があるのかと思うこともありますが、なぜ心耳があるのかというよりは、発生学的にまず心耳があって、その後に心房ができていはます。ANPも主に心耳から出ます。
 
心房が拡大することは、心室の拡張機能の低下の重要な指標となります。
心房が拡大すり理由としてはいくつかあります。
心室と同じように拡大する理由の一つは、収縮機能の低下です。心房細動になると、実質的に心房は収縮しなくなりますので、心房は拡大していきます。
もう一つは、慢性的な圧負荷によっても拡大します。左心室であれば、慢性的な圧負荷は左室の求心性肥大という状況で、小さくてよく動いているけど、実際には、拍出量は小さくて、拡張期圧も非常に高いという状況になります(典型的なHFpEF)。ただ、心房にはこのような現象は基本的には認められておらず、慢性的な圧負荷によって、どんどん拡張していきます。圧に負けて拡張を始めたら、物理学的に拡張するしかありません。どんどんと拡張していきます。拡張すると破裂するのではと思いますが、確かに心房破裂による死亡の報告は、あるにはあります(ROBERT M. Circulation. 1954;10:221–231. Atrial Rupture of the Heart: Report of Case following Atrial Infarction and Summary of 79 Cases Collected from the Literature)。心房破裂の原因の多くは、外傷や腫瘍、心筋梗塞に伴うものですが、弁膜症に伴うものもあるようです。急性かどうかが記載がないものもありますが、一つの原因として僧帽弁狭窄が挙げられており、僧帽弁狭窄は急性におこることはない(腫瘍による狭窄の可能性あるが、それであれば腫瘍に分類されている)ので、慢性経過で心房が大きくなって裂けることはあるにはあると思われます。ちなみに、僧帽弁狭窄は、若い技師さんや医師は結構見逃します。大動脈弁の開放制限は注意していても、僧帽弁の開放制限や、E波やA波が異常に高いことを見逃すことが多いです。これも僧帽弁狭窄症自体がほぼなくなっているという現状があるからだと思います。移民が増えれば、また、状況は変わるのかもしれません。さて、この論文自体はかなり古いのですが、自然発症的なものには大きな変化はないと思います、ただ最近ではデバイス関連の心房破裂ないし、心房からの血液の漏れによる心タンポナーデなどが多いように思います。(主にペースメーカ抜去)
個人的にみたことがある最大の左房は、拡張型心筋症に機能性僧帽弁閉鎖不全が合併していて、エコーでBiplaneディスク法をつかって測定した容積が350mlという大きさでした。測定値にはかなり誤差があると思いますが、相当大きいです。普通の人の心臓そのものよりも大きいように思いました。
 
左房は、容量負荷によっても拡大します。多いのは、心房中隔欠損症や僧帽弁閉鎖不全症になります。
 
心房の場合には、求心性肥大がないため、収縮機能低下、後負荷(=左室拡張期圧±僧帽弁狭窄症)、容量負荷によって、心房が拡大します。
容量負荷は、弁膜症や短絡疾患がないかどうかをみればわかります。
収縮機能に関しては、現時点で評価する指標はありません。
ということで、心房が大きいということは、他に原因がないのであれば、後負荷の増大が原因ということになりやすくなります(収縮機能障害を評価できないため)。
心房も心室もある程度は一時的に大きくなったり元に戻ったりしますので、心不全でも基本的には代償されていて、容量と圧が適正化された状態で測定された値が、評価するための測定値ということになります。この慢性安定状態での左房に後負荷として影響を与えるのが、心房収縮の抵抗となるA波に対する圧であり、おおよそ拡張末期圧といえます。つまり、拡張末期圧の時間的な積み重ねの圧(時間での積分)が心房のサイズとして反映されていると考えますので、慢性的に拡張末期圧が高いと大きくなりやすいといえます。
 
あるエコーの先生が、心房の大きさをみて、正常であれば心エコーの検査はそこで終わっていいといえるくらい、大事ですといっていました。
私も、その通りだと思います。まず、ぱっとエコーを当てて、左房の大きさをみて、少しでも大きいと感じたら何かはあると思いますし、小さければ、正常な可能性が高いのかなと思います。
 
3DエコーやMRI、またはMappingなどであれば3次元的に心房の大きさを測定することは可能ですが、まだ、一般的な方法とは言えません。そのため、実際に心房の大きさを測定するのは、普通の心エコーということになると思います。
 
一番行われているのは、左室長軸断面で、左房後壁側の接線に対する垂線となるように測定するか、Mモードで大動脈の軸と直行するように心房の径を測定する方法だと思います。ただ、これで測定される心房径に関しては、簡便で再現性があるものの一方向の径のみであり、心房の拡張を正確に反映しません。そのため、容積を測定するのが一般的となってきており、基本的には、この測定方法での左房径は参考程度とするのがいいと思います。
 
容積の測定には、Area-Lenght法とBiplaneディスク法があります。両方とも測定方法自体には大きな違いはなく、心尖部からの2腔像と4腔像で心房がしっかりと見えるように調整して(僧帽弁輪から心房が最大にみえるように)、測定します。
Area-Length法は、心房が楕円球であると仮定します。測定の方法としては、4腔像と2腔像のそれぞれで、僧帽弁の弁輪の中心から心房の底までの距離を測定し、その距離の差は5mm以内でなければ、断面がずれていると考えられるので、5mm以内になるように調整します。そのうえで、それぞれ断面で左心耳と肺静脈を除いた面積を測定すると、心房の容積が測定されます。
Biplaneディスク法は、軸に対して、断面が円形である形を想定します(球、回転楕円、瓢箪型など)。測定には、4腔、2腔でそれぞれで、心房の内面を面積を測定するのと同じように縁取っていきます。次に、中心線を設定するように要求されますので、僧帽弁の中心から心房の底を結ぶ直線を設定します。すると、その直線を軸にして、設定した面積の縁取りの線までを直径する20分割した円がディスクとして設定されます。これを4腔と2腔のそれぞれで行うと、それぞれのディスクの面積と軸の距離からある程度自由度の高い形に対応した容積を測定することができます(瓢箪のような形でも断面が円であれば測定可能です)。これは、壁運動に異常をきたした左室の容積の測定でも有用です。
 
Area-Length法、またはBiplaneディスク法で測定された心房容積は体表面積で補正され、35ml/m2以上を左房拡大とするとされています。
ちなみに、心房の測定の際には、個人的には2腔像から先に描出したほうが、正確に測定できるように思います。
 
このように左房容積を測定することで、左室の拡張末期圧の時間積分値を測定できると考え、拡張機能の指標と考えられています。