心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

僧帽弁閉鎖不全症を手術(クリップ術含む)でなくしたときに、拡張末期圧が上がり、心拍出量が減る可能性はなくはないが。

一次性僧帽弁閉鎖不全症の場合には、よほど手遅れで左室障害が高度に障害されていない限り、心拍出量が減少することも、左室の拡張末期圧が上昇することもありません。
繰り返しますが、50%の逆流率の僧帽弁閉鎖不全症の場合には、大動脈方向と左房方向の後負荷(左室の収縮に対する外的な抵抗)は同じです。左室だけをみれば、左室の収縮に対する外的な抵抗値としては、半分になっている状態(孔の面積が倍なので)です。左室は、半分の抵抗に対して、倍の血流を送っているというような状態になっています。(収縮には心臓そのものが持っている収縮に対抗する抵抗がありますので、純粋に全体の抵抗が倍になったり、半分になるわけではありません)
 
一般的な左室駆出血流は60mlですので50%の僧帽弁閉鎖不全の場合には、120mlになります。心機能が保たれているときの、左室の収縮末期容積は、大きくても50ml程度です。
もともと左室の収縮性がいい時には、後負荷の増加に対する左室の収縮末期径の増加は軽減されています。
一次性僧帽弁閉鎖不全の時には、多少収縮末期径がふえても、逆流が減ることで減少する拡張末期容積のほうが大きくなるため、拡張末期容積は減少し、すくなくとも拡張末期圧は低下します。

心拍出量だけを考えると、大動脈方向に駆出する血流に関しては、後負荷などの変化はないため、収縮性に変化がなければ、心拍出量が低下することはないと考えられます。そのため、大動脈方向への駆出する血流量は変化はありません。
 
 
低左心機能の場合にも、基本的に同じ概念で、僧帽弁閉鎖不全があろうがなかろうが、大動脈方向への後負荷は変化がないため、僧帽弁閉鎖不全を治したときに、術前後で収縮性の低下がなければ、心拍出量が低下する理由はないとひとまずは考えられます。
 
しかし、収縮性の低下が高度で、心拍出量が心機能によって上限が決められているような低心機能の場合には、後負荷の上昇に対する左室の拡張末期容積の拡大は顕著になり、さらに、もともと50%の逆流といえども心拍出量が少なく、逆流の絶対値が少ないため、逆流をなくすことで減少する左室拡張末期容積も少なくなります。
つまり、僧帽弁閉鎖不全をなくすことで拡大する左室収縮末期容積の増加分が、減少する左室拡張末期容積の減少分より大きくなる可能性があります。この時には、僧帽弁閉鎖不全を改善させることで、おそらく心拍出量は保たれるが、拡張末期圧が上昇する可能性はあります。また、拡張末期容積が増加したときに、右左相互作用により心拍出量が減少する可能性がないとは言えません。
 
このように、理論的には、重症の低左心機能に合併した僧帽弁逆流症をなくしたときには、場合によっては左室拡張末期圧が上がり、また、さらにひどい場合には、心拍出量が低下することもあります。
 
このような患者を予測できるかといわれると、正直わかりません。
左室拡大がひどくて、逆流量が50%前後であれば、よくならない可能性があります。拡大がひどければひどいほど、逆流が少なければ少ないほど、このような現象が起こる可能性は高くなります。
 
カテーテル治療は、合併症も少なくて、短中期的にはすぐれた治療だと思われます。
低左心機能でも、NYHA機能分類 II-III程度であれば、非常に有効だと思いますが、安定させてもNYHAIV程度の時には、上記のような現象が起こるような可能性もあるかもしれません。
 
術前に、どれだけ収縮末期径が大きくなるのか、拡張末期径はそれに応じてどうなるのか、拡張末期圧はどうなるのか、後負荷不均衡(後負荷の増加によって、心拍出量外減る現象)は起きないのかどうかをイメージする必要があります。