心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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僧帽弁閉鎖不全:連続の式、通過血流の測定による逆流量および逆流率の算出

僧帽弁閉鎖不全症の心エコーによる定量的評価
 
  
1) 通過血流の測定による逆流量および逆流率の算出 
  (逆流量:重症 60ml、60ml > 中等症 > 30ml、30ml>軽症)
 
逆流量の測定はかなりの慣れが必要です。普段から、余裕のある時に弁膜症のない人でも測定しておくことが重要です。いざ、異常があるからといって、その時にだけ計測しても、正確な数値を出すことはできません。
 
さて、測定方法です。
基本的には、流出路血流の時間速度積分(VTI, velocity time integral)を用います。
ただ、実は僧帽弁の通過血流は、中心と弁輪部で速度が異なるため、正確ではありません。ただ、駆出する血液と違い、左室が弛緩することで左房から左室へ圧較差を使って流れていく血流ですので、この位置による血流速度の違いは、誤差の範囲と考えます。
(このため、実は心房の収縮による血流移動が増えると誤差が拡大する可能性があります。実際、弁輪部と弁中央で測定しても、まぁ、誤差の範囲でいいのかなとは思いました)
 
 
まず、僧帽弁の通過血流(MVflow)を、僧帽弁輪の面積と僧帽弁を通過する血流から計算します。
僧帽弁輪の面積は、僧帽弁自体が楕円形をしていますので、長径と短径から楕円の公式を用いて算出します。
長径は、心尖部からの4腔像とされていますが、正確には、2腔像です。弁を長径で切っている断面は2腔像で、それと直行するのが、3腔像ですので、本来であれば、2と3腔像で面積を算出します。特に2腔像の測定のコツは、まず左室短軸の僧帽弁レベルから、弁の中心をとおる水平の線を意識しながら長軸に徐々に振っていって、真ん中が前尖で、両端に後尖がみえるような断面像が理想です。この断面で、長径を測定します。ちなみのこの断面では、交連部がみえるので、交連部限局の異常の場合には、これできれいにみえます。
短軸は、それと直交するように3腔像にして、弁輪を弁の可動域の根元で測定しください。
そして、そのまま3腔像で、流入血流を測定します。弁の中央に、パルスドプラーをセットして、そこの血流のVTIを測定して、最終的に、面積とかけることで、僧帽弁通過血流を求めることができます。
パルスドプラーの注意点は、拡張機能の指標として、E波やA波を測定する時は、解放しきった一番遠くの弁尖の間で測定しますが、血流量を測定するときには、かならず面積を計算した面の中心にパルスドプラーを置いてください。この時には、弁輪の中心において、測定することになります。
 
特に注意が必要なのは、面積です。僧帽弁の面積は測定が少しずれるだけで結構値が変わりますので、正しい描出を行って、正しい位置で測定しましょう。
 
左室の流出路血流量(LVOToutput)は、左室の流出路の面積を傍胸骨左室長軸像の径から求めて、次に、左室の心尖部からの5腔像か、3腔像でLVOTのVTIを測定し、掛け算します。
 
最終的に、どれだけの量が逆流したか(MRvolume)は、僧帽弁を通過して左室に入った血液(MVflow)からLVOToutputを引いた値になりますので、
MRvolume = MVflow - LVOToutput
になります。
さらに、逆流率は、
MRratio = MRvolume ÷ MVflow = MRvolume ÷ (MRvolume + LVOToutput)
となります。
 
逆流量で、重症 ≧ 60ml、60ml > 中等症 > 30ml、30ml>軽症と分類されています。
1次性僧帽弁閉鎖不全の場合には、心機能は正常で、心拍出量も正常であろうから、心拍出量は60ml程度で、逆流率50%(大動脈方向と僧帽弁方向への血流が等しい = 後負荷も等しい)以上となるであろうという感じです。
 
 
この方法で、大動脈弁に閉鎖不全があるときには、この式はそのまま使えません。
大動脈弁閉鎖不全があるときには、右室の流出路血流のVTIが測定できれば、逆流量から逆流率まで一応計算することはできます(この時、右室の拍出量は真の心拍出量となる)。そのため、右室流出路や肺動脈に異常のある人では、測定できません。
 
参考までに、計算式を載せておきます。
真の心拍出量(有効循環血流を作る心拍出量)=右室流出路の心拍出量=RVOToutput、大動脈弁通過血流=左室流出路血流=LVOToutput、大動脈弁逆流量=ARvolume
 
大動脈弁閉鎖不全の逆流量: ARvolume = LVOToutput - RVOToutput
大動脈弁閉鎖不全の逆流率: ARratio = ARvolume ÷ LVOToutput
                                                             = (LVOToutput - RVOToutput)÷LVOToutput
 
僧帽弁閉鎖不全の逆流量:MRvolume = MVflow - RVOToutput
僧帽弁閉鎖不全の逆流率:MRratio = MRvolume ÷ (LVOToutput+MRvolume)
                                   = (MVflow - RVOToutput) ÷ (LVOToutput +MVflow - RVOToutput) 
 
となります。