心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

右心機能評価(2)

エコーに関しては、アメリカの超音波学会のガイドラインを参考にします。
the American Society of Echocardiography
Recommendations for Cardiac Chamber Quantification by Echocardiography in Adults: An Update from the American Society of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging​
www.asecho.org/guidelines

 
右心機能は、複数のモダリティで評価されます。
その中で簡便で繰り返しできることもあり、一般的なのは、心エコーでの評価だと思います。
心臓カテーテル検査の右室圧や右房圧と左房圧の比較で右心機能を推定することも重要です。
現時点で、右室では、アミロイドーシスなどは別にして、左室でみられるHFpEFのような小さくて動いているけど、拡張期圧が高いというような病態は確認されていませんので、エコーなどで小さくてよく動いている右室に関してはいい右心と思っていいのではないでしょうか。
 
心エコーでの評価では、まずみるのは大きさです。機能評価は、左室と同じで、正常は小さくて、コンパクトに元気に動いていることが重要ですので、そうではないことを確認していくということになります。
心エコーでの大きさの測定に関して、複数の測定方法が示されていますが、一番簡便なのは、4腔像を描出して、右室がきれいに見えるように調整して、拡張末期の三尖弁輪レベルでの右室径(RVD1)と、右室の心尖部と三尖弁レベル(RVD1)のちょうど真ん中の径(RVD2)を測定するということになります。
他にも、大動脈弁の短軸でみえる流出路を測定したりすることもありますが、個人的には、4腔像の右室中心像による測定をお勧めします。
さらに4腔像で右室の面積を測定することもありますが、これをするときには、拡張末期と収縮末期をそれぞれ測定して、FAC(fractional area change)を測定するといいと思います。
一般的に右室に焦点を当てた心尖部四腔像(RV-focused apical four chamber view)で、基部(RVD1)が 41mm 以上、中部(RVD2)が 35mm以上あると右室拡大が示唆されるとなっています。
 
右室腔サイズの正常値   指標 平均±標準偏差 (2SDとしたときの正常範囲)
正常範囲右室基部径(mm)   33±4 (25-41)  (RVD1) 
右室中部径(mm)                 27±4 (19-35)  (RVD2)
 
右室長軸径(mm)                 71±6 (59-83) 
傍胸骨長軸像右室流出路径(mm) 25±2.5 (20-30) 
右室流出路近位部径(mm)   28±3.5 (21-35) 
右室流出路遠位部径(mm)   22±2.5 (17-27) 
右室壁厚(mm)                     3±1 (1-5) 
 
右室流出路拡張末期面積(cm2)                                      男性 17±3.5 (10-24)       女性 14±3 (8-20) 
右室拡張末期面積係数(体表面積で標準化)(cm2/m2)    男性 8.8±1.9 (5-12.6)     女性 8.0±1.75 (4.5-11.5) 
右室収縮末期面積(cm2)                                                男性 9±3 (3-15)              女性 7±2  (3-11) 
右室収縮末期面積係数(体表面積で標準化)(cm2/m2)    男性 4.7±1.35 (2.0-7.4)  女性 4.0±1.2 (1.6-6.4) 
右室拡張末期容積係数(体表面積で標準化)(cm2/m2)    男性 61±13 (35-87)        女性 53±10.5 (32-74) 
右室収縮末期容積係数(体表面積で標準化)(cm2/m2)    男性 27±8.5 (10-44)       女性 22±7  (8-36) 

 

 
大きさをみて、測定した後は、三尖弁輪の筋肉の動きをMモードとTissue doppler modeで評価します。時に、いわゆるTEI indexや拡張機能の評価として三尖弁の通過速度を計測することもあります(私はやったことないですが)。
 
さらに、FAC(fractional area change)を評価します。これらは主に右室の収縮機能異常をみるとされていますが、右室の拡張機能障害があるのかどうかはわかりませんので、ざっくりと右室機能でいいとも思います。
 
まず、TAPSEです。三尖弁輪収縮期移動距離(Tricuspid annular plane systolic excursion, TAPSE)といいます。
右室の大きさを測定したのと同じ心尖部4腔像を右室中心に少し調整して、三尖弁輪の側壁の弁輪にくっついている部分で、よく動いている筋肉の部分を含むようにMモードのガイドビーコンを出します。すると、その部分が波打つように描出されます。まるで、左室長軸のMモードの左室の後壁のような動きを見せます。その一番谷の深いところと山の高いところの差を測定します。コツではないですが、一番大きな差となるように弁輪の筋肉が動いている軸とガイドビーコンの軸を合わせる必要はあります。
TAPSE 平均±標準偏差 (2SDとしたときの正常範囲) 
24±3.5 <17 (mm)
となっていて、17mm未満なら右室機能障害の可能性が示唆されます。ただ、20を超えることは少ないように思いますが、私の経験が少ないのかもしれません。個人的には、10を十分に上回っていれば、悪くはないのではないかな、15を上回っていれば、まぁ大丈夫だろうという感覚です。
 
つぎに、TAPSEに続いて、同じ4腔像で、組織ドプラーに変更して、三尖弁の付け根の筋肉の部分にカーソルをすこし範囲を広くして、あてます。
すると、収縮期の波であるs'を測定することができます。
S' >= 9.5 (cm/sec)
であり、9.5未満は機能低下の可能性が示唆されます。
私の肌感覚では、おおむね10以上であれば、正常で、7-10はグレーゾーンでおそらく問題ない時もあるし、ある時もある。7以下はきっと悪くて、5以下は絶対に悪いという感じです。
 
最後に、FACです。FAC(fractional area change)といいます。
これも基本的な描出断面は、4腔像の右室中心となります。
この像で、拡張末期と収縮末期の面積をそれぞれ測定して、比を出すだけです。
左室であれば、径を計るだけで容積の概算と左室駆出率がでますが、これは左室が回転楕円(ラグビーボール)を切ったものという前提がありますので成立しますが、右室は三日月のような形をしているので、このようなことはできません。そのため、ある断面を決めてその断面の拡張期と収縮期の比率を2次元で出して、比較するしかないのでそうしているという指標になります。
RV fractional area change (%) 49±7 <35
ということで、35%以下なら機能低下がしさせれるということになります。
正直、あまりFACを計測したことがないので、肌感覚はありません。だいたいは、RVD2とTAPSE、s’を測定して、右室機能を評価していました。ただ、一番重視していたのは、結局見た目で、他の指標は裏付けというような感じで測定していました。
 
他の指標も併記しておきます。
RIMP (RV index of myocardial performance)という指標があります。日本ではTEI indexというほうが一般かと思います
測定の方法は、拡張期と拡張期の間(つまり等容弛緩✛収縮期+等容収縮の3期間)のうち、2つの等容期の占める割合の指標です。
一般的にはパルスドップラーで測定しますが、組織ドプラーで測定することもあります。
値としては、パルスドプラーで 0.43以上、組織ドプラーで0.54以上であると右室機能障害が示唆されるということになっています。
私自身、ほとんど測定したことがないので、肌感覚的なものや測定のコツなどはありません。
 
 
2Dで形そのものが重症度によって変化する右室の大きさを評価するのは困難ですが、3Dではもちろん評価可能です。
心臓MRIやCT、3D心エコーで一括評価が可能です。
現時点では、機器自体の問題でMRIやCTが現実的だと思います。検査自体に一定の時間や手間がかかるのと、解析も慣れていないとできないと思いますので、現実的にやれるとことやれないところに分かれてしまうかもしれません。
 
心臓カテーテルの右室圧からも右心機能を推測することは可能です。
右心機能が本当にいいなと思った右心カテーテル検査がありました。疾患的には、肺動脈弁下狭窄で、肺動脈弁の下に繊維輪ができていて、そこで高度の狭窄があるという状態です。基本的には先天性疾患で、生まれた時からずっとあるということです。
この患者さんの右心カテーテルの特徴は、まず、右室の拡張期圧が正常で、拡張期の間の上昇もほどんとなく、A波の前後でも圧の上昇はほとんどないという状況であるにもかかわらず、収縮期には高度狭窄があるため、一気に収縮期120mmHg程度まで上昇します。
この方の右心は、エコーでみても左室かと思うようなしっかりした壁厚のある筋肉が収縮しているという状況でした。
生まれつき狭窄があるので、途中でできる肺高血圧とは違い、右室が完全に狭窄に対応して左室のようになりつつ、かつ、圧データをみても、まったく不全心ではなく、両方とも左室という感じでした。
肺高血圧では、基本的には何らかの理由で生まれた後や大人になった後になりますので、もともと薄い低圧系に対応した右室が、途中から圧に対応した右室になるので、途中は低い右室圧で肺高血圧に対応できますが、エコーでは右室が大きくなったり異常をきたしていることが多いです。
 
つまり、平均右房圧(右室拡張末期圧)が高かったり、拡張期にどんどん圧があがっていったり、A波の圧が高かったり、等容収縮期に差し掛かっていて、ほぼ無力化していたり、本来A波である心房収縮は、拡張期圧を不必要に上げずに拡張末期容積を増やす効果があるにもかかわらず、A波の前後で圧が不要に上昇していたり(等容収縮にあることが多い)と、後負荷や前負荷も含めた右室に何らかの異常があると考えられます。
 
 
本来、右心機能が悪いという以上は、右心機能を評価するゴールドスタンダードがあって、それをターゲットにして何を評価し、どのような値に設定すればいいのかを考えていきますが、右心機能が悪いことのゴールドスタンダードがわかりません。
心機能であれば、心不全になるとか運動耐容能が低下しているなどを基準にしていくとかありますが、心不全の人の右心機能をターゲットにしても、結構悪くない、特に安定期には異常がない人が多いかもしれません。少なくとも大きさに関しては、正常範囲の人が一定数います。
拡張機能に関しても、右心の拡張機能の評価は相当難しいと思います。考えれば考えるほど、どんどんどつぼにはまり、答えは出ません。