心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心エコー:3.傍胸骨右室像(右心系の観察)

次に、傍胸骨左室長軸像のままプローブを大きく上下に振ると、右室流出路や肺動脈、または、その逆では三尖弁を中心にした右室2腔像をみることができます。

肺動脈の観察は、この断面でも、次の大動脈弁短軸像でもどちらでも観察しやすいほうで観察してください。次の大動脈弁短軸レベルでの像による観察のほうが一般的かも知れません。また、右室や右房、三尖弁も、同じ大動脈弁の短軸レベルや4腔像などのみえやすいほうでしっかり観察してください。

肺動脈弁の疾患は、まれですが、時折、右室流出路に弁下部狭窄といって、線維性の構造物によって肺動脈弁の下の右室流出路に高度な狭窄が起きていたり、肺動脈弁自体に狭窄が起きていたりすることもあります。
ほとんど、異常がないことのほうが多いですし、また、弁自体も薄いのであまり弁自体を観察することはできませんが、流出路の観察と弁の通過血流のカラードプラ―は当てておきます。

肺動脈弁の流出路のカラードプラ―で肺動脈弁逆流を観察します。よほど先天性疾患でもない限り、多少の肺動脈弁逆流がみられる程度だと思います。
この肺動脈弁の逆流に、連続波ドプラーをあてます。連続波ドプラ―(CW)は、ドプラ―のガイドビーコンのライン上の最も早い血流を測定します。逆流波の拡張末期のCWの速度は、拡張末期の肺動脈と右室の圧較差を示唆します(ベルヌーイの法則といいます、また、別で説明します)。つまり、右房圧がわかれば、右房圧は右室の拡張末期圧と近似できますので、さらに、この肺動脈弁逆流の拡張末期の最大速度から肺動脈拡張末期圧が推定できます。

肺動脈拡張末期圧は肺動脈楔入圧と近似できます。このことから、下大静脈系やLiver Stiffnessといったエコー指標から、右房圧を推定し、さらにこの肺動脈逆流波を追加することで、肺動脈楔入圧まで推定することができます。

また、流出路の通過血流の速度時間曲線の積分(VTI, Velocity time integral)から右室の心拍出量を求めることができます。
やり方は、右室流出路の入ってすぐぐらい、ほぼ肺動脈弁くらいの位置にパルスドップラー(PW)をおいて、VTIをトレースします。そして、流出路の直径から、流出路が円形であると仮定して面積を求め、VTIと面積をかけると心拍出量となります。ちなみに、この時にカラードプラーをあてて、流出路全体に加速がないことを確認する必要があります。

原理的には、心室のような容器から血液が円柱状の出口(流出路)に、入った瞬間、その断面の速度は一定になるという物理法則を利用しています。そのため、原則的には、流出路は、カラードプラーで加速血流はみられず、また、層流でみられるような中心と円周近くで血流の速度が異なるということもありません。そのため、流出路の中心の一点で速度を計って、それを時間で積分したもの(VTI)を、さらに面積でかけたものが、心拍出量になるという具合です。(大動脈でVTIを求めても、層流なので、中心か血管に近い位置かで速度がかわるため、これは流出路という特殊な構造の位置でしか成立しません)

シャント疾患がなければ、右室と左室の心拍出量はほぼ一致します。(正確には、一部気管支動脈の分岐が左房に還流したり、肺動脈の血流が、肺循環で肺間質のリンパから回収され、静脈から右房へ還流されたりするために、正常でも完全に一致はしません)
この右室流出路の血流は、左室の流出路や大動脈弁の狭窄時に、心拍出量を推定する手段となりまし、心房中隔欠損症などのシャント疾患のおけるシャント率の計算に用いられます。

ずっとする必要はないですが、シャント疾患の時に急に測定しても正しい値をとれるわけもないので、一定の期間は、特にシャントなどがない人で、右と左の心拍出量を測定して、安定して誤差10%以内にできるようにトレーニングしておきたいものです。

また、三尖弁の逆流もこの断面でとれるようであれば、とっておきたいものです。
三尖弁の逆流の速度を、CWで測定すると、その差は、右房と右室の圧格差になりますので、最大値をとって、それに右房圧を加えると肺動脈収縮圧になります。肺動脈圧が高くなると結構誤差も生じますが、肺高血圧があるかないか、あるとして、5段階評価でどのくらいかは、絶対値としてわかりますし、また、心不全では、同じ個人で追いかけると、左房圧を反映して、肺動脈圧が変化しますので、心不全の増悪や、治療効果を判定することができます。
三尖弁逆流の最高値は、人によってどの断面でとれるかは違うので、三尖弁逆流がみえるすべての断面(心窩部、右心2腔、大動脈短軸レベル、心尖部)で測定しておいてください。