さて、具体的な薬剤のお話です。
ミオコールやニトロールは基本的にNO供与体といわれ、NOを平滑筋に作用させます。カルペリチドは、平滑筋の受容体に結合して作用します。どちらも、cGMPを平滑筋細胞内で増加させ、ミオシン軽鎖に脱リン酸化を起こすことで平滑筋を弛緩させます。
これらは基本的に静脈を拡張させ、前負荷を軽減させる薬剤となります。ただ、用量依存性にある用量以上では動脈の末梢動脈も拡張させて、後負荷の軽減作用もあるとされています。ただし、そのような場合でも静脈は拡張されていますので、前負荷が低下している点には注意が必要です。
ニコランジルは、少し特殊で、NO供与を行うだけでなく、Katpチャンネルも開きます。このNO供与以外のによる血管拡張作用があるため、低用量でも後負荷を軽減させる効果があるとされています。
NO供与体が通常の用量では動脈拡張をさせないというのは、東北大学循環器内科の研究が参考になります。末梢の血管抵抗がつくられるレベルの終末細動脈などでは、血管内皮のeNOSから、NOではない別のEDHF(=H2O2ではないかとされています)が作られ、それによって血管の弛緩が起こると報告されており、これであればNO供与体であるミオコールやニトロールでは動脈の末梢血管抵抗を下げられない理由になります。
他の機序による血管拡張薬としては、高度な血圧の上昇を伴うときに使用する薬剤で、主に動脈系に作用し、心臓に陰性変力作用(収縮を弱める)もあるニカルジピンや、強心作用とともに血管も拡張させるドブタミンやミルリノン、オルプリノンがあります。
ニカルジピンは、平滑筋の収縮に重要な役割を果たしているカルシウムの流入を阻害することで、カルシウムーカルモジュリンの複合体の濃度を減らし、血管を弛緩させます。これは、他のカルシウムチャネル阻害薬と同じ機序です。
さらに、かなり特殊ではありますが、肺動脈の血管を有意に拡張させる肺高血圧治療薬のPGI2誘導体があります。
急性期に、テープ製剤や内服を少し使うというのも重要ですが、また、別に述べます。
繰り返しになりますが、私は静脈の血管拡張薬は呼吸管理の一環であると考えており、酸素投与などで呼吸管理が行えているときには、特に必須ではないと考えています。
また、血圧が高い時には、その血圧が呼吸困難を悪化させている(#)のなら、低下させる必要がありますが、少なくとも呼吸管理ができていれば、血圧が高いことが肺うっ血を増悪させていたとしても、別に血圧を下げる必要はないのではないかと思っています。
(#血圧が高いということは末梢血管抵抗が上がっているということであり、それは後負荷上昇であり、左室拡張末期圧を上昇させ、肺うっ血を増悪させる)
特に、高齢者の場合には、腎臓にそれなりの灌流圧がないと利尿の反応が悪くなる可能性もあり、血圧は呼吸管理ができている限り、血圧は多少高め(収縮期血圧で160程度くらい)でもいいのではないかと思っています。
そのため、私個人は、持続の静注薬を使うことはなく、硝酸の張り薬(フランドルテープ)を使っていました。
さらに言うと、高齢者は持続の静注薬で行動を制限されると、不穏が増加します。不穏で、寝れない、体動が多くなる、興奮するなどが起これば、これらのほうが心不全にとってはよほど治療を阻害する因子となりますので、できるだけ持続点滴はせずに、ルートキープで利尿薬を尿量に合わせて静注するくらいにしか注射の薬剤は使いませんでした。
また、カルペリチドは、血管拡張と利尿作用があります。私は、ほとんど使いませんでした。若いころに、いろんな研究会でカルペリチドで治療したがうまくいかずフロセミドを増量したら利尿が得られたとか、カルペリチドを使って血圧が極度に低下したため、昇圧薬を使ったとか、ECUMを使ったとか、重症化したとか、結構重症な心不全になればなるほど使用しにくい薬剤だなと思っていました。
また、基本的に血管拡張薬で何かいい効果があると報告されている(慢性期への影響など)のは、ニコランジルくらいで、他の薬剤には、そういった報告はありません。カルペリチドの報告もかなり限定的な報告しかなく、また、ラシックスに負けて、世に出なかった研究もあります。
ただ、カルペリチドにも、カルペリチドにしかできないことはあります。僧帽弁疾患の時です。僧帽弁疾患、特に僧帽弁の狭窄や、人工弁不全で左房が伸び切っているときには、ANPの分泌が極端に低下していることが示唆されており、そういう時にはカルペリチドを使用すると、尿量が確保させることはあるようです。
それ以外の一般的な心不全に対しては、少し利尿作用もある血管拡張薬であり、あくまで血管拡張薬であることは忘れてはいけないと思います。用量依存性にあるのは血管拡張作用であり、利尿作用ではありません。利尿が欲しい時には、他の薬剤を使いましょう。