心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(50-13:心不全に必要な腎臓の知識、尿細管とループ利尿薬)

腎臓の尿細管のうち、近位尿細管では、SGLT2(±SGLT1)を阻害することで糖とナトリウムの再吸収を抑制し、結果的に浸透圧利尿が得られます。
また、特に心不全の状態ではアンギオテンシンIIが近位尿細管でナトリウムの再吸収を亢進させているために、これをARB(アンギオテンシン受容体阻害薬)によって、抑制すると、一部の患者では利尿を得ることができます。特に、塩分摂取の多い、かつ、塩分感受性の高い患者でみられる可能性があります。
 
近位尿細管の次にはヘンレのループがあります。この中に、心不全で最も多用されるループ利尿薬の作用点があります。それがヘンレのループ上行脚の太い部分といわれる部分です。
 
 
ヘンレのループの主な仕事は、尿細管内とその周囲の髄質の間質に、腎臓の中心部に向かってどんどんと高い浸透圧となるような、髄質中心部で十分に高くなる浸透圧の勾配を作ることにあります。
そのために、尿細管の中心へ向かう下行脚では水が抜かれて、どんどんと濃くなります(電解質は通さないような構造になっています)。そして、濃くなりきったところでヘアピンループして上行し、上行脚では細い部分の次にくる太い部分でどんどんと塩分を尿細管外に出すことで尿細管の尿は薄くなっていきます。
このヘアピンループを挟んだ上下の往復により、行きは水を、帰りは塩を抜かれ流れます。このように同じ場所を行って帰ってという具合に流れることを対向流といいます。
 
この作用のために、上行脚は主に塩を尿細管の中から外へ出すような装置を持っています。それが、ナトリウム・カリウム・クロール共輸送体です(Na+K+Cl2- cotransporter)。
これは、ナトリウムの勾配を使って、1つのナトリウムと1つのカリウム、そして2つのクロールを尿細管から移行上皮細胞の中へ移す働きをします。そして、移行上皮内に入ったナトリウムは、そのままでは貯まるので、血管側へエネルギーを使って汲み出されます、それが尿細管を作っている移行上皮の尿細管内の逆側、外側の血管側についているについているNa-K ATPチャネルです。
つまり、NaKCl2共輸送体自体はエネルギーを使いませんが、その前提として移行上皮内のナトリウムを低下させる必要があり、この移行上皮内の相対的な低ナトリウム状態の維持にエネルギーを使っているので、実質的にこのヘンレの上行脚でのナトリウムの再吸収にはエネルギーが必要です。
 
他に、内耳などにもこの共輸送体はありますが、もっと身近な遠位尿細管の一部の緻密班といわれる部位は、Clイオンの濃度低下を感知して、レニンを分泌しますが、この伝達にNaKCl2共輸送体が関与しています。
 
ループ利尿薬は、このNaKCL2共輸送体の働きを阻害して、ナトリウムの再吸収を阻害し、さらに、対向流を弱めることで水の再吸収も抑えます。近位尿細管レベルでのナトリウムの再吸収抑制であれば、ヘンレを含む部分でナトリウムの再吸収などは再度調整し、対応できますが、ヘンレの上行脚でのナトリウムの再吸収阻害は、さすがにその後のナトリウムの再吸収能力だけでは、対応できずに、最終的には尿量そのものの増加と、尿中ナトリウム濃度の高度な上昇を認めます(倍くらいの濃度になります)。つまり、ナトリウム利尿薬ということです。
さらに、ループ利尿薬は、緻密班への信号もブロックし、緻密班にクロール不足と誤解させます。クロール不足は循環血液量の不足を意味する信号ですから、この信号が緻密班から傍糸球体装置へと伝達されると、レニンが分泌されるということになります。
つまり、ループ利尿薬は循環血液量の増減とは関係ないところでレニンの分泌を促すということになります。
 
また、ヘンレのループは腎臓の髄質でも最も深いところ(地球の中心)にあります。腎臓の栄養血管は、輸出細動脈の延長ですので、地球の表面からきます。つまり、中心は最も酸素が少ないところといえます。その割には、ナトリウムの汲み出しという大仕事をしていますので、常に酸欠一歩手前で仕事をしていることになります。ループ利尿薬は、ナトリウムの汲み出しを阻害するので、薬剤が効いている間は酸素需要を減らしますが、フロセミドのような短時間(6時間程度)しか効かない薬剤ですと、酸素需要のぶり返しがきます。つまり、薬効が切れると酸素需要がまた高まってしまい、さらに、浸透圧勾配を復活させるために一層がんばって働く可能性すらあります。そのために、腎臓の髄質の間質の慢性的な障害が起こり、腎機能を悪化させる可能性があります。
 
臨床的にも、同じループ利尿薬でも、長時間作用型のアゾセミドや、ややアゾセミドよりは短いながらカリウムの保持作用のあるトラセミドのほうが心不全患者には安全とされています(予後が良くなるという報告があります)。そのため、心不全患者に内服でループ利尿薬を使うときには、カリウムの値によって、アゾセミドを使うか、トラセミドを使うかの2択となり、基本的に慢性的に投与する利尿薬としてフロセミドは適してはいません。