心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全の慢性期治療にはルプラックを使うのがいいと思います。

ルプラックという薬は慢性期の心不全にって非常に有用だと私は思っています。
以前にもお話ししましたが、私は慢性期のループ利尿薬は、基本的にルプラックを選択して、カリウム値が高いようであれば、ダイアートにするというようにしており、ラシックスを慢性期に使用するということはしていませんでした。

 

心不全が重症になればなるほど、利尿薬は必要不可欠です。特にうっ血による浮腫を治療したり、起こさないようにするという点でループ利尿薬が重要となりますが、よく使われるラシックス(フロセミド)は、ルプラック(トラセミド)に比べて、三つの欠点があると思っています。

一つ目は、カリウムが喪失しやすいこと。
二つ目は、作用時間が短いこと。
三つ目は、消化管からの吸収が不安定であること。

心不全では、血清カリウム値が4.0mEq/Lを切ると不整脈を起こしやすくなりますので、カリウム値の維持は重要です。

フロセミドは、腎臓の尿細管のmTAL(ヘンレループの太い上行脚)にあるNKCCというチャンネルを阻害し、本来全体の10-20%再吸収されるナトリウムの再吸収をある程度抑えることで、ナトリウム利尿作用を発揮します。このナトリウムの再吸収を阻害することに伴って、それよりも下流にある遠位尿細管に本来よりもナトリウムの流入が増えることで、遠位尿細管からのカリウムの尿細管内(尿)への分泌を促進させます。そのために、フロセミドを使用している心不全でカリウム低下が起こります。
このフロセミドで低下したカリウム値に対してカリウム製剤を内服していることがあります。このフロセミド+カリウム製剤の組み合わせは、フロセミドをトラセミドに変更することでカリウム製剤の内服を中止させることができます。
ある一定以上に重症度の心不全では、すでに抗ミネラル受容体拮抗薬であるアルダクトンやセララといった薬を服用されている状態だと思いますが、それでも低カリウム血症となって、カリウム製剤を服用している場合でも、トラセミドへの変更は有効で、内服しているカリウム製剤を減量ないし、中止することが可能です。

 

もともとフロセミドは慢性期使用では、トラセミド(#1)およびダイアート(アゾセミド)(#2)よりも予後などに関して劣勢であり、使用する理由は少ないと考えられます。
この理由として、作用時間と消化管化の吸収が関係している可能性があります。
利尿作用時間は、ラシックスで6時間、ダイアートで12時間、ルプラックはその間で8時間程度とされています。

#1 TORIC study. Eur J Heart Fail. 2002 Aug;4(4):507-13.

#2 J-MELODIC. Circulation journal 2012;76(4):833-42.

 

また、ラシックスは内服の場合には腸管の浮腫を起こしたときに最も吸収率が低下するとされています。普段でも50%程度しか吸収されませんが、それが一層低下し、浮腫の悪化により本来であればその作用を増強させなければならないときに、吸収が低下し、作用が低下することがいっそう心不全の症状を悪化させる可能性が示唆されています。

このような変化がルプラックやダイアートでは起きにくいと考えられています。

 

ルプラックとダイアートを比較したときには、作用時間はルプラックのほうが短くなっているため、ダイアートは朝1回で量を増減すればいいですが、ルプラックの場合には、通常であれば、朝に一回でいいですが、増量する時には朝と昼に内服させたりすることも必要です。

 

では、ラシックスの内服はどのような状況で使うかというと、頓用や急性期の一時的な追加内服くらいだと思います。
循環不全を伴わないうっ血中心の心不全を繰り返すような場合には、いかに早く急性増悪の所見をとらえて、利尿薬を治療用量に増量するかということが重要です。
なんらかのデバイスを使って、うっ血の悪化を素早く検知して、それに対して何らかの治療を行うという臨床研究がいくつか行われておりますが、何らかの治療はほとんどが結局は利尿薬を増量するということになっています。

この利尿薬の増量時には、普段飲んでいる薬と違う薬を頓用とした方が、飲み間違えなどが起こりにくいかと思います。
そのために、普段はルプラックやダイアートを内服し、体重の増加と浮腫が出てきたらラシックス 20 or 40mgを内服して、病院へ来るというようなセルフケア的な治療が有効
だといわれており、ラシックスは現在このような頓服での在宅急性期治療に有効ではないかと思っています。