心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(50-12:心不全に必要な腎臓の知識、尿細管とSGLT2)

尿細管のナトリウムとクロール、カリウムの再吸収に関してのお話を始めていきます。必然的に利尿薬についてもお話しすることになります。

 

ナトリウムとクロールは水の再吸収に非常に強く関係していますし、特に遠位尿細管を通過するクロールの濃度は、レニンの分泌をコントロールしています。

 

レニンの分泌は交感神経からも制御を受けていますが、尿細管内の遠位尿細管を通るクロール濃度も重要な制御因子となっています。遠位尿細管の周囲にある緻密班という組織が尿細管内クロール濃度を感知して、輸入細動脈と緻密班の間にある傍糸球体装置からのレニンの分泌をコントロールしています。

レニンの分泌を増やす因子としては、交感神経神経の活性化、遠位尿細管の尿中クロール濃度の低下です。

 


まずは、塩、ナトリウムとカリウムの再吸収に関して、循環器に必要だと思われる形でお話ししようと思います。となると、やはり利尿薬の有効な範囲が意識されます。

 

まずは、近位尿細管です。

今まで近位尿細管はうっすらとしか意識されてきませんでした。循環器医が使う利尿薬で近位尿細管を狙って使う利尿薬がなかったからです。今もあるとまでは言いませんが、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が、近位尿細管に作用します。また、ARBも近位尿細管に作用し、時折少量のARB投与により利尿が得られることを経験します。

 

SGLTというのは、sodium glucose cotransporterの略で、日本語ではナトリウム・グルコース共役輸送体といいます。
人間の体は、太古より現代の少し前まで糖分は摂取しにくいもので、できるだけ体の外に捨てないようにするというのを基本にしています。そのため、尿から糖の排泄は正常の血糖変動内ではみられません。(食後でも、正常であれば、血糖値160mg/dl程度までであり尿糖はみられません)
この制御を担っているのが近位尿細管にあるSLGTです。SGLTによって糸球体からろ過されて尿細管へと流れていった糖を血管内へ戻す働きをしています。

SLGTには、1,2の二つのタイプがあって、SGLT2のほうが上流にあって、SGLT2が90%の血糖を再吸収し、下流にあるSGLT1が残りの10%を再吸収しているといわれていますが、おそらく尿細管の中の尿糖値によって、この割合の変動はしているものと考えられます。

また、SGLT2およびSGLT1は、糖を再吸収するときに、ナトリウムも一緒に再吸収しています。その再吸収しているナトリウムの量が糖1あたり、SGLT2は1で、SGLT1は2になります。つまり、血糖値が増えたりして、SGLT2が優位になると同じ糖を再吸収するのに、くっついて再吸収されるナトリウムが増えることになります。また、ナトリウムは再吸収されますが、クロールは再吸収されないことも重要です。


SGLT2阻害薬は、薬剤によっても多少は異なってきますが、基本的にはSGLT2を阻害して、尿細管内の糖を最終尿として排泄するようにします。現在上市されている薬剤で、1日当たり200Kcal程度の糖(ご飯1杯分)を排泄しているといわれています。

この時に、近位尿細管でのナトリウムの再吸収は、糖とともに阻害されますが、結局はSGLT1はあまり作用しない薬剤が多く(薬剤間で結構差はあります)、SGLT1が糖1個当たりナトリウムを2個つくっつけることで、SGLT1の亢進によりナトリウムの再吸収が糖あたりでは増加したり、ナトリウムの再吸収が、近位尿細管以降のヘンレのループや遠位尿細管で調整されるため、最終尿のナトリウム濃度は変わりません。
(小規模で学会発表レベルですが、尿量は増えるが尿中のナトリウム濃度は変化なかったと報告されています)


ただし、この見解は断定的なものではありませんし、浸透圧利尿自体が多少のナトリウム利尿効果があるとの見解もあります。


さらにただし、もともとナトリウム利尿という言葉に明確な定義はありません。私個人は、ナトリウム利尿というのは、何らかの作用により尿量自体が増加し、その尿の尿中ナトリウム濃度が有意に増加する(個人的に40mEq/L以上)ことだと思っています。
しかし、何らかの作用により1日のナトリウム排泄量が増加することをナトリウム利尿と定義している人もたまにみかけますし、少しでもナトリウム濃度があがればナトリウム利尿作用としている人もいます。(浸透圧利尿でも多少は尿中ナトリウムは増加するとしたら難しい問題になります)
この辺りは、何をもってその人がナトリウム利尿だといっているのかということに注意する必要があります。