心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(51:低灌流時の尿検査の有用性:低Na、低Cl、高K尿症の機序)

低灌流の時には、一番初めの変化するのは、おそらく本人の自覚症状だと思います。

例えば、食欲や吐き気、倦怠感など。ただ、これが低灌流であるという裏付けがないとなかなか低灌流の治療には進みにくいものです。裏付けがないと、本当はただの消化器症状かもしれないからです。

 

裏付けは、どれでもいいので、客観的な検査値が、低灌流であることを示唆する所見であれば、治療を開始する根拠とできます。

 

私は、普段から低灌流の身体所見として、爪の毛細血管の赤味(ピンク色感)と、Capillary refilling timeといって、爪を軽く押して、爪の色を白くしてから、元のピンク色に戻る時間を重要視しています。

普通は1秒前後で、悪くても2秒程度。循環不全の人は3,4秒かかります。

また、低灌流時には、右房圧が上がることが多いので、頚静脈怒張の程度も重要な指標にはなります。

 

検査所見はどうかというと、重症心不全の方の場合には、心エコーなどではあまり明確な変化は出ませんし(もともと悪いのであまり変化しない)、レントゲンは低灌流時には変化はほとんどありません。

血液検査は、通常の血液検査はすぐに変化しないので、血液検査の変化を待っていては遅れてしまいます。

ただし、中心静脈(上or下静脈)にカテーテルが入っている時や、右心系のカテーテルが入っている状態であれば、静脈の酸素飽和度の低下や乳酸の上昇などは比較的早期に変化するため、参考となる値になります。(この辺りは後日述べます)

ただ、このような状態は限られる可能性があります。

 

実は、最も簡単で、非常に鋭敏な変化として確認できるのが、尿検査です。

 

まず、人の1日あたりのクレアチニンの排泄量は決まっています。

つまり、その時の尿量が多ければ、尿中クレアチニン濃度は低くなります。また、尿中の尿素窒素や尿酸も、同じように安定している状態であれば、1日の排泄量は決まっているので、クレアチニンと同じように変化します。

しかし、低灌流となり、腎臓の中に乳酸が増加すると、尿酸が変わって再吸収されたり、尿素窒素も集合管などで再吸収が亢進します。

つまり、クレアチニンは、尿細管での再吸収がないため、尿量が減った分だけ、尿中クレアチニンは高くなります。これにより低灌流による尿量の低下をすぐに検知できます。

もちろん、ただ、飲水量などが低下いて、尿量が減っている可能性もあります。このように、低灌流ではなく、ただ尿量が減っている時には、尿中のクレアチニン、尿素窒素、尿酸は同じ比率で変化します。しかし、低灌流になったときには、尿中クレアチニンの濃度上昇のわりに、尿細管で再吸収される尿素窒素・尿酸は、クレアチニンの濃度上昇ほどは上昇しないため、比率は低下します。

つまり、尿中クレアチニンの濃度自体が尿量の変化を示し、尿中尿酸/尿中クレアチニン、および尿中尿素窒素/尿中クレアチニンの比が変わっていなければ、低灌流は起こっておらず、この比が低くなれば低灌流が起こっていることが示唆されます。

逆に治療によって改善して来れば、尿中クレアチニン濃度は低下し、尿酸と尿素窒素はクレアチニン以上に濃度上昇します。

 

ただ、この比は継時的な変化をみないとわかりませんが、尿中の電解質は、ワンポイントをみるだけで腎臓の灌流状態を見ることができます。

つまり、低ナトリウム尿症(< 30mEq/L)、低クロール尿症(30mEq/L)、高カリウム尿症(> ??mEq/L)が、腎循環不全を示唆します。

 

傍髄質にある糸球体は、構造的に一般的に説明されるような尿細管がすべてそろっていて、電解質の再吸収などが非常に精巧に行われています。
しかし、皮質の外側にある糸球体には、尿細管などが十分に発達しておらず電解質の再吸収などは、十分に行われないとされています。


この尿細管の発達の差が非常に重要で、心不全の低潅流の時には、皮質の糸球体への血流の分布が減少するとされています(アンギオテンシンが関与するといわれています)。
つまり、低潅流の時には、尿細管レベルでのナトリウムやクロールの再吸収が亢進しているだけではなく、もともと電解質の再吸収が行われやすい傍髄質の糸球体により血流が回されることで、一層電解質の再吸収が行われやすいという現象が起きます。
また、糸球体単位でも、低潅流時にみられるレニン・アンギオテンシン・アルドステロンの上昇は、尿細管でのナトリウムとクロールの再吸収を更新させますし、さらに皮質集合管の上皮性ナトリウムチャンネルでのナトリウムの再吸収とカリウムの尿細管への分泌を亢進させます。
つまり、腎臓レベル、糸球体レベルで、低潅流時には、尿中のナトリウムやクロールの濃度が低下し、カリウムの濃度が増加するという現象が起きます。


そして、低潅流が改善するともともと電解質の再吸収能力の弱い皮質の糸球体へも血流が元通りに増加するので、電解質を含んだ尿が増えてきます。
この一連の変化が、腎臓の尿所見を通して低潅流を評価できる病態となります。