心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する急性期治療効果(2019/1/17:修正中)

今回は、少し心不全のすべてを中断して、僧帽弁閉鎖不全に関しての考察です。
(いつもは1000-2000字程度に収まるようにしていますが、今回は5000字ほどあります)
 
 
最近カテーテル治療による僧帽弁の治療が可能になりました。さらに、今後、日本でも、人工弁そのものを植え込んでしまう手術もカテーテルで可能となると思われます。
 
そこで僧帽弁閉鎖不全症について、いくつか巷で誤解されていることも踏まえて述べていきたいと思います。
 
考察に先立って、以前に述べましたように、
① 心室の収縮末期径は、心室の収縮性と収縮に対するすべての抵抗(後負荷)によって決まる。
② 心室の拡張末期径は、収縮末期径に1回心拍出量を足したものである。
③ 心拍出量を規定するものは、全身の酸素需要量である。(貧血などはないとする)。ただし、心機能が悪くて、全身の酸素需要を満たす心拍出量が出せない時にのみ、心拍出量は心臓が規定する(つまり低潅流状態)。
④ 1回心拍出量は、心拍出量を心拍数で除したものであり、心拍数は、もっとも心臓が効率的に動くように、最適な心拍数を全身が自律神経を通じて制御しているものとする。(=いかなる不整脈もないとする)
 
ということを前提とします。
 
僧帽弁閉鎖不全症の中でも機能性僧帽弁閉鎖不全症をみていきます。
 
左室にとって、本来であれば、大動脈方向のみが血液を駆出する方向となります。そのため、後負荷も心臓の内部抵抗(拡張し、収縮するのにエネルギーが必要な心臓そのものの抵抗)と体循環を中心とした後負荷のみが抵抗となります。
しかし、僧帽弁閉鎖不全の場合には、駆出する方向が2方向となります。大動脈弁方向(体循環)と僧帽弁方向(左房への逆流)です。
 
ここで、大きな間違いを犯している人がいます。
左房への逆流は、低圧系への駆出なので、これがなくなると心臓に過負荷がかかるという間違いです。
左房への逆流は低圧系への逆流ですが、後負荷は低くはありません。体循環と同じように十分な負荷があります。それはどこでできているかというと僧帽弁そのものです。本来であれば僧帽弁は完全に閉じているはずが、少し空いているギャップがあるから逆流は起きます。そのギャップは、さまざまな画像検査から、重症の僧帽弁閉鎖不全でも0.4cm2程度とされています。この弁口面積は、重症の大動脈弁狭窄症と同じです。つまり、僧帽弁閉鎖不全の時には、かなり狭い僧帽弁のギャップから血液を駆出していますので、たとえ左房が低圧であったとしても、高い後負荷となっています。
 
そもそも、逆流量で50%をこえると重症の僧帽弁逆流となりますが、これは、心臓が100駆出したときに、50は大動脈弁から体循環へ、50は僧帽弁から左房へということを意味します。つまり、重症の時で、大動脈弁方向と、僧帽弁方向の負荷は等しいことを意味します。さらにそれ以上に重症となれば、逆流量は50%以上ですから、その段階で初めて、僧帽弁方向の後負荷は、大動脈弁方向の後負荷を下回るということになります。ただし、低圧というほどではありませんが。
 
軽症や中等症の僧帽弁閉鎖不全では、僧帽弁方向の後負荷のほうが大きいからこそ、逆流量は50%を下回っているのです。
決して僧帽弁閉鎖不全時の逆流は低圧系へ逃げているわけではありません。
 
 
次に、僧帽弁閉鎖不全が改善されば、心拍出量は増えるということも、必ずそうなるわけではありません。
つまり、もともと僧帽弁閉鎖不全があるけれども、全身の酸素需要が心拍出量を決めている場合には、心拍出量は増えません。
増える必要がないから、増えません。求められてもいないのに、増える理由はありません。
 
ただし、増える場合もあります。
心臓の機能が低下していて、心拍出量が全身の需要を満たせていないくなっている場合には、僧帽弁閉鎖不全が改善して、心臓のパフォーマンスが良くなった時に、全身の需要を満たすレベルにまで心拍出量が上がる可能性があります。
つまり、僧帽弁閉鎖不全の時に、心拍出量は、全身の需給ギャップを満たせていないときに限り、増加する可能性があるというのが正解です。
 
 
では、全身の酸素の需給ギャップが満たされていれば僧帽弁閉鎖不全は放置でいいかというとそうではありません。
僧帽弁閉鎖不全を改善させたときに、もっとも変化するのは、拡張末期容積で、さらに、それとともに低下する拡張末期圧です。
 
僧帽弁閉鎖不全を改善させる意味は、拡張末期容積を低下させて、拡張末期圧を低くするということに意味があります。
 
つまり、この視点でいくと意味のない患者がでてきます。心臓の拡張機能がかなり良くて、僧帽弁逆流のために心臓の拡張末期容積が大きくなっても、まったく拡張末期圧が上がらない人です。これが安静時だけでなく、労作時でも拡張末期圧に変化がなく、どんな運動をして、僧帽弁逆流による拡張末期容積の拡大が大きくても、それによって拡張末期圧が上がらない人は、まったく症状を感じないということになりますので、僧帽弁逆流を改善させる意味は、ないということになります。特に急性期効果はゼロだということです。
 
 
ここで、僧帽弁の逆流が50%、つまり、心臓が100駆出したときに大動脈弁方向に50、逆流に50で、さらに、全身の酸素需要も50であり、全身の酸素の需給ギャップを満たしている状況を考えます。
 
まず、50%の逆流ですので、大動脈方向と僧帽弁方向の後負荷は同じです。
(修正個所)

これが両方とも有効な循環であれば、同じ抵抗が並列でならんでいるので、合計の抵抗は半分になります(並列回路の抵抗値の和)。しかし、僧帽弁方向は無効な循環であすので、抵抗値は半分にならず、もちろん足し算にもならずそのままの値です。(異なる方向へ流れる回路なので並列ではありません)

つまり、僧帽弁閉鎖不全があろうが、なかろうが、逆流量50%では、術前後に抵抗値(=後負荷)は変わらないということになります。

心臓の収縮性は不変ですので(あくまで今は急性変化を見ていますので)、後負荷が変わらなければ、収縮末期径は、僧帽弁閉鎖不全があろうがなかろうが変わりません。

 ただし、逆流量が50%を超えると、理論的には閉鎖不全の術後には後負荷は増加しますし、逆流量が50%未満では、後負荷は低下します。が、正直、現在のモダリティーである、心エコーやMRIではわからない程度だと思います。

 繰り返しますが、逆流量50%の僧帽弁閉鎖不全は、手術の前後で、左室の収縮末期径は変わりません。

 

(ここはは、間違い!)

 

50%の僧帽弁逆流が起こると、同じ抵抗の穴がふたつできるので、抵抗値は下がります。ただ、心臓の後負荷には、心筋そのものの内部抵抗もあるので、単純に半分にはなりません。

また、心機能がよいと、負荷がさがってた時の左室の収縮末期径の変化は、小さくなります。そのため、後負荷のうち、もともと、外的な抵抗が少ない(血管が若い?)とか、収縮性がいいと、僧帽弁に対する手術後の穴が減ることによる左室への後負荷の増加、左室収縮末期径の増加は少なくなります。逆であれば、例えば、高齢者の二次性であれば、僧帽弁の弁逆流への手術後の後負荷の増大と収縮末期径の増加は大きくなります。

 拡張末期径の変化に関しては、逆流率50%の時には、左室のとっての心拍出量が50%低下するので、拡張末期径はその分減少し、それに従って、拡張末期圧は、その心臓の拡張機能の良し悪しによって低下します。拡張機能がよければ、ほとんど低下しませんし、拡張機能が悪ければ格段に低下します。
 
 
もし、この時に、心臓が悪くて心拍出量が出せないというのは、収縮機能が悪い、後負荷が高いの、両方かどちらかのために、収縮末期径が大きく、それに必要な心拍出量を足した拡張末期径になれないときにおこります。
 
大きくなれない理由は、例えば、心筋の拡張機能が悪いか(拘束性心筋症とか重度の肥大型心筋症)、心膜が硬い(収縮性心膜炎とか収縮性心膜炎様血行動態)か、肺高血圧のように右室でそれが起こっているか、タンポナーデや重度の血胸の時のように外圧が加えられているときです。
 
 
ここで、左室が大きくて収縮機能が低下している場合には、理論的には左室の拡張末期容積が増加する可能性があります。
非常に左室の収縮性が悪い場合には、後負荷の増加により、左室収縮末期容積の変動幅は大きくなります。しかし、もともと拡張末期容積が大きい場合には50%の左室にとっての心拍出量が低下しても拡張末期容積の減少が、左室収縮末期容積の増加よりも少ない時には、左室の拡張末期容積は増加します。ただし、心機能が悪く、大きい時には内部抵抗は大きいので、外部抵抗が半分になっても、後負荷の増加はそれほどない可能性もありますので、この辺りは検討が必要です。
(要は、すいません、わかりません。。)
 
 
僧帽弁閉鎖不全を改善させるとこで、急性期に期待される2つのことがあります。
① 拡張末期容積が逆流分小さくなる → 拡張末期圧が低下する 
② 心臓が規定していた低拍出状態が改善する
ということです。
 
 
今までにこの理論に応じて、強く手術を勧めて奏効した方がいます。
 
心臓全体が非常に強い肥大をしている人でした。
その方が心不全の増悪時には、かならず弁輪の拡大と、弁尖の心尖部方向へ寄る現象(#下で説明)により僧帽弁閉鎖不全を起こすという方でした。心臓の容積は小さいながら、低潅流減少は呈しておらず、循環血液量の需給は満たされていると判断しましたが、何らかの負荷で心臓の抵抗が上がった時に拡張末期の僧帽弁のギャップから逆流が起こり、それがどんどんと悪化し、また、拡張性が非常に悪いため、少しの拡張末期容積の増加でも、大きな拡張末期圧の上昇をきたしてしまい、容易に肺うっ血・肺水腫を起こしてしまうという方でした。
 
この方は、僧帽弁置換術を心臓外科の先生に行っていただきました。
すると、僧帽弁の逆流は起こらなくなります。
つまり、拡張末期容積の増加は必要な程度に抑えられ、労作時でも拡張末期圧の上昇は呼吸困難を呈さない程度に抑えることができたのです。
 
 
このように、僧帽弁閉鎖不全の急性期効果としての狙いは二つです。
① 僧帽弁逆流による拡張末期容積の増大に伴う過剰な拡張末期圧の増加による症状で苦しんでいる方の症状を改善する
② 僧帽弁逆流のために心臓は拡張したいが、拡張できない何らかの理由があり、さらに、それが心拍出量を規定していおり、低潅流症状を呈している方の低潅流を改善する。
 
なので、拡張型心筋症で機能性僧帽弁閉鎖不全症があっても、その逆流を治すことで、拡張末期容積が下がったとしても、もともと労作時を含めて拡張末期圧が高くない、低潅流がないという方であれば、何も変化は起きません。
 
ただし、慢性効果は別の問題です。
慢性期には、おそらく拡張末期の心臓が小さくなるということは、心臓全体の仕事量が減ります。特に外的な仕事が減るということになります。
これが、持続すれば、心臓の慢性的なエネルギー需要の減少は、徐々にそれまでかかっていた心臓の過負荷をとり、収縮性が改善する可能性もあります。
この点からも、急性期の効果が少ない人であっても、僧帽弁の閉鎖不全は改善させれるなら改善させるほうがいいと思います。
あとは、手術の合併症や慢性期の弁自体への影響、弁を閉じたり、弁を置換させることによる圧較差の程度などとの兼ね合いになってくると思います。
 
 
最期に、機能性僧帽弁閉鎖不全症の原因です。#の説明になります。
 
僧帽弁を支えている腱索というものがありますが、これは左室の真ん中からやや心尖部のいわゆる下壁といわれる領域の両端についている乳頭筋というところからでていて、僧帽弁にくっついていて、僧帽弁が左房側に裏返るのを防いでいます。
拡張末期に、腱索がついている左室位置が弁から離れていくと徐々に僧帽弁が浮いてきて、ギャップができるようになります。このギャップが機能性僧帽弁閉鎖不全症の原因です。
僧帽弁輪の拡大や、もともと弁尖自体の長さも関係してきます。
 
拡張末期に、ギャップがあると、収縮初期に心房方向への血流が流れますが、これが機能性僧帽弁閉鎖不全症による逆流です。
全収縮期にギャップがあるとずっと逆流しますし、収縮とともに乳頭と僧帽弁の距離が短くなれば、途中でなくなります。
ただ、この距離が短くなるためには、心室が心尖部と僧帽弁の距離が短くなるような長軸方向(心尖部と僧帽弁を結ぶ方向)に収縮する必要があります。
しかし、収縮性が悪くなると、この長軸方向の収縮性が障害されて、なかなか心尖部と僧帽弁の距離がかわらないということになります。
収縮性が悪くなり、拡張することが機能性僧帽弁閉鎖不全症の原因として多いため、必然的に、長軸方向の収縮性は低下しており、全収縮期にわたって僧帽弁逆流が起こることが多いです。