心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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僧帽弁閉鎖不全の手術を決定するには

僧帽弁閉鎖不全症の心機能の評価の時に、ガイドラインなどで収縮末期径or容積が重要視されているのは、心臓の収縮性と後負荷によって収縮末期径がきまるためです。
また、他に、拡張末期圧の時間積分と容量負荷の結果であると考えられる左房容積。心筋の拡張機能としての、最大運動負荷が重要です。
この3つで僧帽弁閉鎖不全時の心機能は評価できるのではないかと考えています。
 
肺高血圧や心房細動の発症は左房負荷ととらえられますので、これらも心機能障害を示唆する所見となります。
さらに、弁膜症性の心不全といわれる状態で、内服でコントロールが可能な状態でも心不全になっている、例えば利尿薬が必要な時点で心筋障害ありですので、手術考慮が必要です。知らないうちに、内服が増えて後手後手に回ってしまうことは避けなければなりません。
 
 
これらを評価して、弁膜症が心機能に悪化を与えている。これは、直接の影響かどうかまでを調べる方法はありませんが、すくなくとも一次性僧帽弁閉鎖不全症の時には、エコーなどの評価で高度の弁膜症があり、心機能がなんらかの障害を受けていれば、弁膜症による心機能障害と判断せざるを得ないです。
偶然、緩徐進行性の拡張型心筋症などを合併していないかといわれればわかりませんが、それでも心機能が何らかの障害があり、高度な弁膜症があれば、心機能悪化に影響を与えていると考えて、悪影響を与える因子として手術する方向でいいと思います。
 
弁膜症の時の、心筋への影響は基本的に進行性です。弁膜症で出た心筋障害が、まってよくなることはありません。出始めたら、進行性に悪化させていきます。
また、心筋障害の可逆性という点も重要です。僧帽弁閉鎖不全ではそこまででもないですが、大動脈弁閉鎖不全ではこの概念が非常に重要です。遅れた手術は心筋障害を止められません。時機を逸した弁膜症の治療は、弁を治した後でも心筋障害は進行してしまいます。特に大動脈弁閉鎖不全は、容量負荷から弁置換後は多少なりとも圧負荷に変化するため、この変化に対応できずにかなり難しい事態が起こりえます。
僧帽弁閉鎖不全の場合には、まだ、ましですが、ただ、時機を逸した治療では、心筋障害、心不全を改善させることはできなくなります。
 
では、何らかの心筋障害が疑われたら、すぐに手術かというと、手術のリスクがゼロで、術後の問題も全くないのであれば、すぐに手術でいいと思います。
 
ただし、もちろんカテーテルでも手術は手術ですので、リスクがゼロではありません。
また、弁置換術となった場合には、生体弁であれば、置換した段階から10年前後でやってくる弁機能不全を覚悟しなければなりませんし、機械弁の場合には、ワーファリンが必要です。特に、若年で機械弁を入れて、その後年齢を重ねて、なんらかの出血を伴う手術が必要な状態になることがあるなどそれもまた治療を困難にします。
 
つまり、心機能障害は進行性のため、僧帽弁逆流の治療は早ければ早いほうがいいが、手術にかかわる合併症や弁置換後のリスクを総合的に考慮して手術の時期を決定していくことになります。
 
比較的判断が簡単なのは、ほぼ100%弁形成術が可能な若年の合併症のない人です。
このような人では、手術のリスクは1%程度となります。弁置換も行わないので、手術の直後さえ乗り切れば、その後の生活に制約は出ません。
心筋障害が出てきたら、比較的早期に手術の判断が下せると思います。さすがに、冠動脈バイパス術などと違って、心臓そのものを停止させたり、人工心肺を使ったりする手術で(一部心臓止めずにする施設もありますが)あり、リスク0%ではないので、まったく心機能障害がない段階では手術は、尚早かと思います
(心臓の手術といっても、心筋を切るかどうかで非常にリスクは変わります。単独の冠動脈バイパス術であれば、心筋を切らないのでリスクはかなり低いです。治療が必要な慢性閉塞性病変で下手に数時間かけてカテーテル治療するよりも安全で早く終わります。特に左主幹部遠位の分岐部のカテーテル治療はちょいちょい何か起きますが、冠動脈バイパス術では病変の位置と手術リスクは関係ないので、バイパス術をを勧めします。日本の循環器内科医は、カテーテル治療の合併症を低く見積もり、バイパス術の合併症を高く見積もる傾向にあるように思います)
 
難しいのは高齢者ですが、やはり健康寿命というものとの相談だと思います。
また、心臓は手術でよくなりますが、ほかの臓器はよくなりません。腎血流がよくなるとかという以前に、手術の侵襲が多臓器にかかります。
また、呼吸機能が悪いと、手術の影響をもろに受けます。手術の後で、困るのは、創部感染、腎不全、それと肺炎です。特に、繰り返す肺炎は、誤嚥などが関与していますとかなり繰り返します。また、ここがすっと立ち上がらないとそのあと後手後手になります。また、若年者より、筋骨格系の虚弱は術後の歩行開始だけでなく、この肺炎などの感染にも強く関係します。
 
それらを考慮に入れても、心臓を治す必要があれば手術ですが、腎臓、感染、特に肺炎の覚悟はいります。
術前元気でも、ひとつくずれるだけでぎりぎりで保たれていたバランスが一気に崩れて弱ってしまうこともあります。