健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

心不全のすべて(50-15:心不全に必要な腎臓の知識、集合管とトルバプタン)

尿細管の最終の部分は、集合管になります。
皮質部分の集合管には、ナトリウムの再吸収を行う最後のナトリウムチャンネルである上皮性ナトリウムチャンネルがあります。
そして、その先の集合管には、バソプレシンによって活性化し、水と尿素の再吸収を行うチャンネルがあります。
 
この部分にこの10年で一躍脚光が当たりました。薬剤が開発されるとその作用機序自体が一気に脚光を浴びるということだと思います。
今まで循環器内科医は、利尿薬=ループ利尿薬、サイアザイドはループに併用するか、高血圧に用いて、抗ミネラルコルチコイド受容体ブロッカーは心不全にいいというエビデンスがあるので、心不全にはできるだけ使って、高血圧には3つ番目の併用くらいで使おうかなというくらいであったと思います。
なんとなくイオンチャンネルとかは知っているけど、これ以上の知識はあまり必要なかったというように思います。
 
しかし、集合管のアクアポリンという水透過性を担っているチャンネルがあります。このアクアポリンを制御しているのがバソプレシンです。
バソプレシンの受容体を阻害する薬剤(トルバプタン)が開発されると、一気に腎循環という領域に注意が向きました。特に、この10年の腎循環というものに関する理解の伸展は今までになかったと思います。
(別に腎循環の領域が一気に進んだというわけではなく、循環器内科医が一気にそれを勉強しだしたという感じです)
 
 
さて、集合管は水と尿素を、アクアポリンおよび浸透圧の差を利用して再吸収しており、それを制御しているのがバソプレシン(抗利尿ホルモン)です。バソプレシンは、脳(の下垂体後葉)から分泌されるホルモンで、分泌刺激は、主には2つで血液の浸透圧の変化と、循環血液量の変化です。
通常の状態では、血液の浸透圧を保つために、浸透圧が高くなれば、薄めるために分泌量が増えて、腎臓の集合管に働いて水を再吸収することで血液を薄めて浸透圧を下げようとします。また、浸透圧が下がれば、バソプレシンの分泌は低下します。
ただ、この穏やかな浸透圧の調整に比べて、循環血液量の減少時はバソプレシンは高濃度で上昇します。バソプレシンはその名の通りに血管をプレスして血圧を上げるというホルモンです。つまり、循環血液量の減少時には、バソプレシンには、血管にあるタイプ1受容体(VR1)を刺激して、血管が収縮し血圧を維持することと、腎臓にあるタイプ2受容体(VR2)を刺激して、水の再吸収を行い、尿を減らすという作用があります。
 
もう少し、腎臓について詳しくみると、集合管を形成している移行上皮細胞の血管側(利尿薬では珍しく血管側から作用します)にあるVR2をバソプレシンが刺激すると、細胞内のcAMPという酵素が上昇します(強心薬などと同じような経路です)。すると、細胞内のアクアポリン2(アクアポリンは10種類程度あります)が、ひょろひょろと尿細管側に顔を出して、水を透過させるようになります。もともと、血管側にはアクアポリン3,4があって、尿細管側の水透過性のチャンネルさえ開けば水を通せるようにはなっています。そのため、アクアポリン2が血管側で開いたときに、尿細管内よりも移行上皮内、さらにその向こうにある腎臓の間質の浸透圧が高ければ、水の移動が起こります。
 
ちなみに、アクアポリンはすべて水の透過性チャンネルです。タイプによって、いろいろな部分にあります。
水は細胞膜が脂質2重膜でできているので、細胞膜そのものは通れません。しかし、電解質のイオンチャンネルなどを通して、水は電解質とともに移動します。
腎臓のヘンレのループの下行脚は水しか通しませんが、それは、このアクアポリンの働きによります。アクアポリンはイオンを通さずに水のみを通しますので、この仕組みによってナトリウムを通さずに水のみを通すということを実現しています。
また、血管の内外であれば、血管の内皮細胞の間を水は通れます。しかし、脳のように水の出入りを厳格にしないといけないような組織では、内皮細胞はぎっしりと並んでいて、水が自由に出入りできないようになっています。代わりに、脳は多種のアクアポリンを発現していて、水の管理を厳密に行っています。
 
 
腎臓の集合管では、水だけではなく尿素の再吸収も行います。実は、腎臓の髄質の浸透圧を形成するのは、塩化ナトリウムと尿素ですので、バソプレシンは、尿素の再吸収を亢進させることで、対向流でさらに多くの水を引き抜こうとします。つまり、尿素の再吸収は、間接的に水の再吸収を活性化させます。
この機序に従えば、例えば、ループ利尿薬の長期使用によって塩化ナトリウムで作られる腎臓髄質の浸透圧較差が不十分な時に、尿素の再吸収が増えれば対向流による効果が復活しますので、水の再吸収が増えます。これをトルバプタンで受容体を阻害すると、再度浸透圧較差は不十分になるので、ヘンレのループでの水の再吸収が低下する可能性もあります。
 
 
最近、透析の無尿の患者さんで、胸水が残っている方にトルバプタンを投与すると胸水が減少したと報告された方がいました。本来の適応ではありませんが、もし、バソプレシンはアクアポリンを通して、さらにTRPVという浸透圧などに関与して作動するチャンネルなどが関与して、胸膜の水の浸透性を制御している可能性もあります。
そうなると無尿であっても難治性胸水の方で、炎症性疾患(癌や慢性的な肺炎など)ではない方に関しては有効な治療となるかもしれません。
このあたりの考察は少し先のお話です。