心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(52 :肝胆道系酵素の変化)

心不全にとって、腎機能は非常に重要な指標であることをお話ししました。
 

慢性期の腎機能は、糸球体ろ過量の高低やアルブミン尿の有無で予後が変わりますし、急性期にも糸球体ろ過量が悪化するかどうかや一過性でもアルブミン尿がでるかどうかで、予後が変わってきます。

 

しかし、急性期に糸球体ろ過量の簡便な指標である血清のクレアチニンが変化したときに、それがうっ血によるものか、腎血流低下によるものなのか、クレアチニンをみただけでははっきりとわかりません。

 

一度、腎臓内科の先生に「このクレアチニンの上昇は腎うっ血ですか?」と聞いたことがありますが、その先生に、「他の臓器、まぁ肝臓を見て判断してくれ」といわれました。


腎臓は、腎血流低下にしろ、腎うっ血にしろ、結局変動するのはクレアチニンです。

 

しかし、肝臓であれば、血液検査でみれるバイオマーカーはいくつかあり、それで、ある程度分かるだろうとのことです。確かに肝臓には、肝細胞に関係するT-bil(総ビリルビン)、AST、ALTがあります。また、胆管・胆道系のT-bil、ALP、γGTPがあります。

 

さらに、血液検査のバイオマーカーではありませんが、超音波の特殊な装置で測定できる肝臓の硬さを測定する検査によって、うっ血の程度を評価することもできます。

 

具体的には、低潅流やショックによる肝障害の時には、主にAST/ALTが100以上に上がることが多いです。また、全身の臓器障害としてのマーカが一緒に上昇し、腎臓の糸球体ろ過量のマーカーであるクレアチニンや、心臓も心臓自体が悪くなくても低潅流・ショックによって障害を受け、トロポニンI or Tが上昇します。他にもLDHなどが上昇します。


肝うっ血の場合にも、AST/ALTは上昇しますが、それぞれ60前後と、正常上限の2倍程度の範囲に収まることが多く、主にはALPやγGTPなどの胆道系のバイオマーカーが上昇することが多いです。

また、クレアチニンに関しては、腎うっ血でもクレアチニンは上がりますが、他の臓器の障害に起因するようなバイオマーカーの上昇はみられません。

 

 

肝臓の簡単な解剖ですが、肝臓には、大動脈のからの分岐であり、腹腔動脈の枝である肝動脈により酸素の供給が行われます。

また、肝臓はほかの臓器と違ってもう一本入ってくる血管があり、それが門脈という血管です。基本的には静脈血です。門脈の一番の大本は、大動脈の分岐である上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の一部です。

これらは、その名の通りに小腸と大腸を栄養する血管で、腸管に酸素を送り、そして、腸管で吸収された各種糖質や脂質、アミノ酸などを十分に回収してます。それぞれ上腸間膜静脈や下腸間膜静脈となり、それらが合流して門脈となり、肝臓に流れ込みます。他にも膵臓や胃の一部を潅流する左胃静脈、脾静脈なども門脈に合流して肝臓へ流れ込みます。ちなみに、腎臓の輸出細動脈と違って、腸間膜静脈は、もちろん腸管を潅流して酸素を放出していますので、静脈血です。

 


ちなみに、肝臓では、脳と違って、動脈や門脈はほぼ完全に開放します、肝細胞の間には類洞といわれる一応の内皮細胞でできている通り道がありますが、物質交換や処理が肝臓での主要な役割のため、かなりがばがばな構造になっています。


肝細胞は平面でみると六角形の形をしており、その六角形の外枠に肝動脈や門脈の最終的な分岐した血管があり、六角形の真ん中に肝静脈があります。周りから血液が肝細胞の網の目を流れ、最終的に真ん中の静脈に流れ込むという形になっています。お風呂の排水溝が真ん中にあって、周りから水を流すとタイルの上を流れて、最終的に排水溝に流れていくイメージです。


血液に含まれるさまざまな物質が肝細胞で処理などをされ、肝静脈へと流れ込みます。また、不要なものや消化に必要なものなどは胆管を通して腸管に排泄します。この辺りはすごく精巧にできていて、胆管は六角形の外枠にあって、排出すべきものは静脈とは逆側の中心から外側の胆管に流れていくようになっています。