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急性心不全の治療(24):急性期および重症心不全治療におけるACE阻害薬の意味と使い方

心不全の慢性期に、予後などをよくすることを目的にして使用する薬剤として代表的なものに、ACE阻害薬とβ受容体遮断薬があります。


β受容体遮断薬は、心機能を一時的に抑制する作用があるため、急性期から使用する時には、心拍数を何とかしたいというとき以外にはないと思います。
しかし、ACE阻害薬に関しては、血管抵抗を下げて、心臓の後負荷を軽減するために急性期に血行動態の改善を目的として使用されることがあります。
もちろん、純粋に血圧が高めで(160-180/-)で、ひとまず点滴で下げるほどではないが、徐々に下げたいというときもACE阻害薬を急性期から使用する選択肢はありだと思います。

以前、若い先生からカルシウムチャネルブロッカーではだめなのかと質問を受けました。
生理学的には、心不全の時の後負荷、終末細動脈の収縮弛緩には、カルシウムチャンネルよりも、レニン・アンギオテンシン系による制御のほうが強いとされているため、心不全の時には、ACE阻害薬ないし、ARBを使うと伝えました。
このあたりの違いが、血圧の低下作用を超えて、ACE阻害薬は心不全の予後をよくするのかもしれませんし、カリウム値を上げたり、アルドステロンをひとまずは抑えたりするなどの作用もあるのかもしれません。

 

普通の急性心不全では、後負荷を下げるというよりは、腎臓に作用して尿量が得られやすくなっている感じがあります。腎臓の近位尿細管では、特に心不全の時には、アンギオテンシンIIが作用して、NaCLや水の再吸収を亢進させており、この部分にACE阻害薬やARB(angiotensin receptor blocker)が作用して、この再吸収を抑制するので尿量を増やすことがあるような気がします。(もともと利尿薬でループから遠位は抑制されているので、利尿薬投与下であれば近位を抑制するのは意味がある気がします)
また、もちろん、急性期にアルドステロンのブレイクスルー減少はおきませんので、血中のアルドステロンの濃度が低下することで、遠位尿細管での水やNaなどの再吸収を抑え、利尿を起こしているのかもしれません。


ともなく、急性期のACE阻害薬の投与は、血行動態や腎循環にとっていい方向に作用しますので、少量から積極的に投与してもいいと思います。ただし、血圧が下がりすぎないように、少量をまず導入して、いけそうなら増やしていくというほうが安全かと思います。
私は、エナラプリル1.25mgという量を1日か2日投与して、問題なさそうであれば、2.5mgにしていました。それ以上の量にするときには、心不全が安定した代償期に調整していたことが多いと思います。


ちなみに、エナラプリルよりもぺリンドプリルのほうが、心不全などの予後には良いいとの報告がありますので、私は、エナラプリル5mg=ぺリンドプリル2mgとして、それ以降はぺリンドプリルを投与することにしていました。
ちなみに、ぺリンドプリルは8mgまで投与することができ、日本では唯一ARBの最大量と等価まで増量することができます。
(エナラプリルなどは降圧作用が弱いのではなく、ARBの標準量までしか増量できないだけです。エナラプリル10mg=ぺリンドプリル4mg=カンデサルタン8mg)


重症心不全では、血管抵抗を下げるかどうかを悩むような段階では、右心カテーテル検査が行われるだろうと思います。
右心カテーテル検査では、両室の拡張末期圧は重要ですが、心不全の治療で心拍出量に余裕があれば、拡張末期圧も下げにいけますが、このような心不全の時には大概すでに強心薬の投与を行っても、心拍出量に余裕がないというか、すでにぎりぎりか、足りないという場合が多いと思います。
このような場合の右心カテーテル検査結果で治療ターゲットなるのは、抵抗値で、SVR(systemic vascular resistance, 全身血管抵抗=体循環の血管抵抗)とPVR(plumonary vascular resistance, 肺血管抵抗)になります。

重症心不全は、当然ですが、高度に心機能が障害されている状態ですので、抵抗値を下げれば下げるほど、低下した心機能でも循環を回しやすくなります。ただし、一定の灌流圧は全身に必要ですし、特に腎臓に関しては、一定のろ過圧が必要になりますので、血圧の下限というものは多くの場合で腎臓で尿量が維持されるろ過圧ということになります。

そこまでなら、血管抵抗を下げて、心拍出量が上がらずに血圧が下がったとしても大丈夫です。また、腎臓のろ過圧は、(平均血圧ー中心静脈圧)の差よりもかならず小さい値になりますので、平均血圧を下げてもいいかどうかに中心静脈圧も関係してきます。つまり、中心静脈圧が高ければ高いほど、平均血圧を下げれなくなります。

血管抵抗を下げたからといって、血圧が下がるわけではありません。後負荷が低下したときに、心臓が少しでも楽になって心拍出量が増加すれば、血圧は維持されます。できれば、こういう反応を期待します。ACE阻害薬を投与して、後負荷を下げることで心拍出量が増加し、平均血圧自体は維持されるというのが最も望ましい状況です。
しかし、投与量によっては、そうならずに血圧が下がるときがあります。それがどのようなときなのかは、わかりません。
そのため、とにかく少しずつ投与していき、血圧を気にしながら、投与を続けるしかありません。
血圧が低下してくると薬剤の増量をストップして尿量が確保されているかどうかを確認する必要があります。
理論的には、尿量と尿生化学検査で分かると思いますが、本当に少しずつ増量するしかありません。