心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

サムスカが教えてくれたこと:水はどのように全身に分布するのか。

サムスカが教えてくれた水の分布についてです。

心不全の時には、体に余分な水が貯まります。​
水のたまり方について、サムスカは考えさせてくれました。​
輸液の考え方で、水(自由水=ブドウ糖液)を輸液するときと、生理食塩水を輸液するとき、アルブミン溶液を輸液するときの水の分布についての考え方は有名ですが、逆に心不全ではどのよう、どの部分に水が貯まっているか、どのような順番で水が抜けていくかを考えることは、あまりありませんでした(一部の先生は考えられていましたが、一般的ではありませんでした)。​
まず、水の分布は、3つの領域に分けられます。​
細胞内と細胞外に分けられ、細胞外を血管内、血管外(間質)の3つに分ける考え方です。また、圧が一定の時に、血管内と間質の水の分布比率を決めるのはアルブミンで、細胞内と細胞外(血管内+間質)との水の分布比率を決めているのが、食塩とされています。ただし、これは常に正しいわけではありません。​
また、標準的な60㎏の人の場合には、体内の水分は60%(36kg)とされています。​
その内訳は、2/3が細胞内(24kg)、1/3が細胞外(12kg)。細胞外のうち、3/4が間質(9kg)、1/4が血管内(3kg)にあるとされています。​
血管内には、全体重の5%の重さで、全水分の1/12があると考えられます。​
これをふまえて、​
輸液の考え方ですが、アルブミン溶液(血液製剤のアルブミン)を点滴すると、その成分はすべて血管内に維持されるとされており、そのために間質に水が移動せず、かつ有効に循環に寄与する点滴ができるとされています。これは、血管内と血管外の水の分布を制御しているもっとも重要な因子がアルブミンであり、アルブミンの濃度の差が血管内・外の水の分布を決定しるとされていることによります。正確に言うと、投与前のアルブミンの絶対値も影響を与えますが。​
一般的に5%アルブミン溶液は、正常な人の血漿とほぼ同等であり、等張性アルブミンといわれています。血管内の水分をそのまま入れる感じですので、出血などの時に輸血とともに投与すると有効です。​
他に、20 or 25%のアルブミン溶液があり、これは高張性アルブミンといわれ、投与すると、正常の人の血漿よりも高濃度のため血管外の間質から水を引き込んで、血管内の水分を確保することができます。そのために、低アルブミンで、かつ、浮腫があるようなときには有効になります。​
さて、次に生理食塩水の投与ですが、細胞内と外の水の分布比率を決めているのが、食塩といわれています。そのため、生理食塩水を点滴するとおもに細胞外に分布するといわれています。かなり単純化した理論モデルでは、生理食塩水を1000ml点滴すると、250mlが血管内に、750mlが間質に分布すると考えられています。​
 
さらに、自由水を点滴すると、アルブミンや塩などの水の分布を制御するものが含まれていないため、体内の水分比率に沿って水が移動するとされていますが、残念ながらこれはさすがに単純化しすぎたモデルです。例えば、1Lの自由水を点滴したからといって、666mlが細胞内で、333mlが細胞外ということはありません。そうならないのは、細胞内は膨化しないような仕組みがあるからです。​
細胞は普段は主に塩で細胞内外の水分バランスをとっているようですが、自由水が増えて、細胞外の塩分濃度が下がった時に、単純に浸透圧を一定にするために水が細胞内に入るわけではありません。細胞は自分のサイズと形態を保つため、タウリンなどの浸透圧物質を能動的に外に出すことによって、塩以外で浸透圧を下げて、外との浸透圧差はなくし、細胞のサイズと形態を保ちます。
一部の報告などを総合的に判断すると、細胞は膨化すると心筋の機能が障害される可能性が示唆されています。
さまざまな臨床研究で、血清Na 135-138mEq/Lをボーダーラインにして、それ以下では段階的に心不全患者の予後が悪くなっていると報告されています。​
これには、それだけナトリウムが下がるという状態になっていることがリスクだという考えもありますが、血清ナトリウムが135-138mEq/Lを境に、それ以上低下すると、細胞内外の浸透圧を調整する機構が追い付かずに細胞膨化によって、細胞機能障害が起こる可能性が示唆されます。​
傍証になりますが、脳機能では、脳出血後に、ちょうどこの程度のナトリウム濃度を境にして、これ以下になると痙攣が生じることが知られていて、血清Na濃度を135mEq/L以上にするように努めているようです。これが心筋でも生じている可能性があります。​
 
では、細胞の中の水分量は血清で135mEq/L程度以上のNa濃度であれば維持されるとして、点滴をした時の自由水はどこにいるかというと基本的に一部血管内、大部分は間質にいます。間質の吸水性の蛋白にくっついています。たんぱくの吸水性によってどれだけの水が蓄えられるかが、決まりますが、基本的には間質にいます。
 
ただ、正常な人では自由水を点滴すると、すぐに尿として排泄されるので、実際の生体では、自由水を点滴するとどこにもたまらず尿となるが正解にはなってしまします。
生体に水をためるには、過剰な塩が必要になります。
心不全の時には、過剰な塩とそれに伴って過剰な自由水が一定の割合でたまっている状態と考えられます。
心不全の時の余分な水は、基本的に全身の間質に存在しており、これをいかに除水するかということが重要になってきます。​