心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて (50-3:心不全に必要な腎臓の知識、糸球体ろ過量の測定方法)

糸球体ろ過量をある程度正確に求めるとすると、イヌリンという物質を持続静注することにより求められます。しかし、標準的な方法では、検査前に500mlの飲水が必要など心不全の人には実施が困難ですし、簡単に多くの人に対して行う検査としては不適です。

 
 
そこで、血液の中にある物質で、糸球体ろ過量を計算するために必要な条件である①糸球体でろ過されること②尿細管や集合管で再吸収や分泌が行われないことをある程度満たす物質があれば、その血中濃度と一定の時間当たりの尿中の排泄量(尿量×尿中濃度)がわかれば、糸球体ろ過量を推定することができます。
 
この条件を満たす物質が2つありました。
ひとつは、クレアチニンで、もう一つはシスタチンCです。

(ほかにもあるかもしれません。日常臨床で用いられるのがこの2つというだけかもしれません)

 
クレアチニンは、筋肉などにあるクレアチンの代謝物です。
 
クレアチンの説明を少しします。
生体のエネルギーは、ATP(adenosine triphosphateアデノシン3リン酸)という分子を使って輸送、保存しています。
このATPのPはリン酸で、triということで、3個ついています。
ADP(adenosine diphosphateアデノシン2リン酸)に対して、1個のPがついて、ATPとなります。ATPは、この反応でリン酸化されることで、高エネルギー物質となります。つまり、ADPをリン酸化することは、高エネルギー物質を作るということになります。
 
細胞のエネルギー産生の場は、ミトコンドリアですので、ミトコンドリアでどんどんとエネルギーが作られますが、この時にエネルギーを受け取るのがADPであり、その結果できる高エネルギー物質がATPです。
クレアチンは、このATPと結合して、クレアチンシャトルといわれる輸送方法で、細胞の必要な場所にエネルギーを運搬したり、保存したりする機能を持っています。
 
そのクレアチンの代謝物が、クレアチニンです。
クレアチニンは特に生理的な役割はなく、腎臓からろ過されて排泄されていきます。
このクレアチニンが、糸球体ろ過を推定するうえで、条件が比較的そろっていることから、クレアチニンの血中濃度と尿中排泄量から、糸球体のろ過量が推定されるようになりました。
これがクレアチニンクリアランスです。
 
クリアランスというのは、排泄のことです。
腎臓でのクリアランスとは、腎動脈と腎静脈の間でどれだけ物質が排出する能力があるかということです。
つまり、もしイヌリンのような糸球体でのみろ過されて、尿細管や集合管で花にも影響を受けなければ、イヌリンクリアランスと糸球体ろ過量は同じになります。
 
クレアチニンの場合には、尿細管で多少分泌されるため、クレアチニンクリアランスは、糸球体ろ過量に、尿細管分泌分を足した値になり、イヌリンクリアランス(=糸球体ろ過量)よりも高い値になります(30%程度高くなるといわれています)。
 
ただ、実臨床では、クレアチニンクリアランスというのは、クレアチニンで測定する糸球体ろ過量ということだと思っていただいていいと思います。
 
 
全身の状態が安定していれば血中のクレアチニン濃度は安定しています。また、尿中排泄量は、24時間の畜尿により求めることが一般的です。
そのため、24時間の尿中のクレアチニンの排泄総量と、その間に検査した血液検査でのクレアチニン濃度を使って、クレアチニンクリアランス(≒糸球体ろ過量)を求めます。
 
ただし、通常の外来では畜尿が困難であったり、最近は院内感染の面から畜尿自体がやりにくくなっており、実際には、多くの場合で、血液検査のクレアチニンの値のみから、クレアチニンクリアランスや糸球体ろ過量を推定する式を使用して、数値を求めています。
 
 
推定のクレアチニンクリアランスと推定糸球体ろ過量(estimated GFR)は、使用する式が違います。
クレアチニンクリアランスは、血清クレアチニン濃度、性別、年齢、体重から計算されます(Cockcroft-Gault式)。
eGFRは、血清クレアチニン濃度、性別、年齢から推定されます。
 
ここで、2つ問題があります。
ひとつは、クレアチニンの排泄が、糸球体ろ過だけではなく尿細管から分泌されるため、尿中に含まれるクレアチニンの量は、糸球体からろ過されたものだけではなく、途中の尿細管で分泌された分も含むので、糸球体ろ過量を過剰に評価してしまうということです。(クリアチニンクリアランス>糸球体ろ過量となる)
さらに、これは腎機能障害が進むと、尿細管からの分泌量が増えるとされているので、腎機能障害では、さらに糸球体ろ過量を過剰に良く判断してしまうことがあります。(腎障害時:クリアチニンクリアランス>>糸球体ろ過量)
 
もう一つの問題は、クレアチニンの血液検査から推定する時には、クレアチニンは、筋肉内に主に存在するクレアチンの代謝物なので、筋肉量の少ない人(高齢女性や筋肉疾患の人)などでは、血中のクレアチニンの濃度が、もともと低くなっているということです。
そのため、特にeGFRは血中クレアチニン濃度と年齢と性別のみで推定するため、同じ性別の同じ年齢の人であれば、筋肉隆々の人と、寝たきりの筋肉がかなり減少している人でも、同じ血中濃度であれば、同じeGFRとなります。
 
しかし、クレアチニンは筋肉量の影響を強く受けるため、筋肉隆々の人は、糸球体ろ過量が正常でも、血中の濃度は高くなりますし、筋肉の少ない人は、血中濃度が低くなります。
そのため、高齢女性で、特に寝たきりのような人では、非常に筋肉が少ないために、クレアチニン濃度が低くなります。そのために、eGFRで推定する糸球体ろ過量が過剰に良い値になり、腎機能の良し悪しを見誤ることがあります。
 
これは、薬物の投与時に非常に問題になります。腎臓で代謝される薬は、腎機能によって量が決まったり、服用できなかったりします。
高齢女性で、eGFRを使って糸球体ろ過量を推定すると、血中のクレアチニン濃度が低いため、腎機能がよく出てしまい、それを基準に投薬すると、ただでさえ、体が小さいのに、過剰に良いと推定された腎機能により投与量が決められ、本来より多い量の薬物が投与され、薬物の血中濃度が事前に予定している以上に高くなり、中毒症状や、副作用が強く出てしまうことがあります。
そのために、薬物投与などには、体重も計算式に入っているクレアチニンクリアランスの推定式を使用することが必要です。
 
 
このようにクレアチニンには筋肉量による影響があるために、このような影響を受けないバイオマーカーとしてシスタチンCが併用して用いられることがあります。
シスタチンCは、近医尿細管で多少の再吸収は受けますが、すべての細胞から出るため、体格の問題による影響を受けにくいとされています。
 
現在、通常に臨床ではクレアチニンによるeGFRにより腎機能は評価されています。
その上で、クレアチニンによるeGFRが低下していた時や、筋肉量が著しく少ない場合になどには、一度シスタチンCによりeGFRを測定して、ずれがないかどうかを確認するなどされているかと思います。
 
シスタチンCに関しては、医療保険では、「尿素窒素又はクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3月に1回に限り算定できる。」とされています。