心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心臓移植登録の流れ(5)

ー厚生労働省資料ー

3 適応条件 ​
 I. 不治の末期的状態にあり、以下のいずれかの条件を満たす場合 ​
  a. 長期間またはくり返し入院治療を必要とする心不全 ​
  b. β遮断薬および ACE 阻害薬を含む従来の治療法では NYHA3 度ないし4度から改善しない心不全 ​
  c. 現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈 を有する症例 ​
 II. 年齢は 60 歳未満が望ましい ​
 III. 本人および家族の心臓移植に対する十分な理解と協力が得ら れること

適応条件に関しては、基本的には十分な治療を受けいている心不全ないし、重症致死性不整脈ということになります。
また、年齢に関しては、60歳未満が望ましいという書き方ですが、これはかなりの強制力を持っています。私がかかわったころに多少の変更がありましたが、移植の申請の会議までに60歳になっているときには、申請自体ができませんでした。つまり、60歳以上では絶対に無理で、59歳でもあと1か月程度残っていないと実質的には移植申請は不可能でした。これに関しては、数年前より若干の緩和がなされました。65歳までと年齢の上限の引き上げがありました。ただ、条件が付いていて、心臓移植の優先度としては、60歳未満が優先されて、60歳未満でレシピエント-ドナーの適合者がいない場合には、60-64歳で登録された方の中からレシピエントがマッチングされるということになっていました。実際は、60-64歳に対する植え込み型LVADの導入をスムーズに行うという、ある意味destination therapyという側面もあると、私は考えていました。
本人・家族のレシピエントの適応の項目にある「 IV. 患者本人が移植の必要性を認識し、これを積極的に希望する と共に家族の協力が期待できるか? 」という項目の実質的には再掲で、確認だと思います。

4除外条件 ​
 I. 絶対的除外条件 ​
  a. 肝臓、腎臓の不可逆的機能障害 ​
  b. 活動性感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む) ​
  c. 肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても 6 wood 単位以上) ​
  d. 薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)​
  e. 悪性腫瘍 ​
  f. HIV(Human Immunodeficiency Virus)抗体陽性 ​

 II. 相対的除外条件 ​
  a. 腎機能障害、肝機能障害 ​
  b. 活動性消化性潰瘍 ​
  c. インスリン依存性糖尿病 ​
  d. 精神神経症(自分の病気、病態に対する不安を取り除く 努力をしても、何ら改善がみられない場合に除外条件と なることがある) ​
  e. 肺梗塞症の既往、肺血管閉塞病変 ​
  f. 膠原病などの全身性疾患


除外条件に関してですが、絶対的除外条件と相対的除外条件がありますが、どちらにしろ除外条件があるときには心臓の移植申請の対象となることは難しいです。
(ここからの話も、あくまで私がかかわっていた数年前の話で、現在の話ではありませんので、参考程度にみていただければと思います。今の話をしても数年後には状況は変わっている可能性があるので、私が実際に関わっていた当時の話をしたいと思います)

まず、肝障害に関してですが、慢性感染するウイルス性肝炎、例えばB型肝炎やC型肝炎による肝炎状態の人は移植登録ができません。また、不可逆的な肝障害というのは、臨床レベルでは肝硬変状態かどうかということで判断しています。ただ、最近ウイルス肝炎に対する治療の発達は目覚ましく治る病気になりました。以前からも、インターフェロンである程度肝炎ウイルスは排除され、慢性肝炎の状態であれば、肝硬変への移行は防がれてきました。さらに、今の治療であれば、ウイルス除去後に肝硬変が改善するという報告もあるようです。また、肝生検自体も経静脈的に比較的安全に行えるようになったため、以前より一層肝臓の病理組織の診断結果が得られやすくなりました。
このような循環器以外の医療の変化によって、心臓移植の除外の臨床的な具体的な状態が変化する必要に迫られます。今までは、臨床的に肝硬変は不可逆的であるとされていましたが、肝疾患の専門家の先生が、肝硬変は原因によっては可逆的であるという見解を示された場合には、肝硬変だから移植登録ができないということではなくなってきます。肝硬変の原因を調べたうえで、肝硬変であったとしてもそれが可逆的かどうかを議論しなくてはならなくなります。そのうえで、可逆的であり、かつ、その段階で機能障害がないのであれば、肝硬変であっても移植登録される可能性が出てきます。


また、腎機能に関しては、24時間の畜尿検査でのクレアチニンクリアランスが30ml/min以下であれば、不可逆的な腎障害として移植の適応から外れてしまいます。しかし、肝硬変以上にこの値には、不可逆的であるとする根拠がありません。重症心不全であれば、静脈圧が高くなり、かつ、平均動脈圧が低くなるため、どうしても糸球体のろ過圧は低くなります。つまり、糸球体や尿細管の機能が保持されていて、腎外の要素で決まる糸球体ろ過圧のみが低下していて、クレアチニンクリアランスが低いことが多々あるためです。また、クレアチニンクリアランスは、VAD導入し、安定したのちに改善することは、よくあることで、心臓移植に携わっている医療関係者にとっては普通のことといえます。
そのため、平均血圧と中心静脈圧の差、腎臓のエコーやCTなどによる形態的な評価や、尿所見などによる尿細管の障害の程度などを総合的に判断して、心臓が良くなって、平均血圧と中心静脈圧の差が、60以上になれば、クレアチニンクリアランスは正常な値をとると考えられる時には、可逆的な腎不全と判断されるべきだろうと思います。また、相対的な除外基準である腎機能障害も、腎外の要素である糸球体ろ過圧によるクレアチニンクリアランスの低下は腎障害ではないはずですので、これも十分に評価されるべきだろうと思います。出血で、心拍出量が減ったとしても心不全ではないのと同じです。

さて、ひとまず、私が移植に関わっていた時には、肝硬変と畜尿によるクレアチニンクリアランスが30以下の方は移植登録は無条件でできませんでした。
糖尿病に関しても、インスリンに依存しているか、糖尿病性の網膜症がある方に関しては罹患期間が相当に長いと判断され、移植登録は困難でした。


肺高血圧に関しては、どうにかして肺血管抵抗を下げればいいので、保険診療の問題はありましたが、なんとかフローランを使うことができ、左室の拡張期圧と、それを反映する肺うっ血に相当注意を払いながら、徐々に肺血管抵抗を下げて、心臓移植登録をした方もいました。

 

悪性腫瘍に関しても、専門診療科で治癒と判断されてから5年間再発がなければ、移植登録が可能でした。ただし、これも癌によっては、例えば早期の胃がんであれば、ほぼ再発はないとされていますし、乳がんであれば、10年程度はみないとわからないとされているようですので、癌はすべて5年と一律に決めてしまうのも、少し違和感がありますので、この辺りも、癌の種類や時期からよそされる再発がないと考えれる期間で区切るのがいいのではないかと思ったりもします。


膠原病などの合併も、登録は困難だと思います。

 

私は経験がないのですが、HIVに関係する心筋症の場合には、移植登録はできませんし、欧米ではかなり多いらしい、アルコールやその他の非合法を含む薬剤によると考えられる心筋症は移植の除外となります。アルコールは、少し多めに飲んでいて、そのうえで心不全を発症する人はいくらでもいるので、結構微妙です。基本的には、アルコール性心筋症が起こるといわれている以上の飲酒を続けていた場合には、移植の除外となる可能性はあります。ただし、アルコール性心筋症は、何か客観的な検査で確定診断できるわけではないので、禁酒後ある一定の期間が過ぎて、禁酒できていることと、それでも心不全が重度である場合には、心臓移植登録が認められることもあります。

 

心臓移植登録は、登録時に心臓移植手術ができる状態であるというのが大前提ですので、一般的な活動性感染や消化管出血などの、手術そのものが行えない状態の時には、移植登録はできません。改善するまで待ちます。
サイトメガロ感染などが特別に取り上げられているのは、ステロイドなどの免疫抑制剤の使用が心臓移植後は絶対に必要なので、サイトメガロなどの感染は絶対にないということが前提です。サイトメガロ感染の時には、治療して、治癒したことを証明できれば大丈夫です。

 

肝硬変のように医療状況が劇的に変わることがあります。これを見越して、資料の一番最後に記載されている「付記事項 I. 上記適応症疾患および適応条件は、内科的および外科的治療 の進歩によって改訂されるものとする。」という文言があります。

これは、移植の申請に関しては、その時の医療を行う人たちによって決められるのがいいということだと思います。