健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

心不全のすべて(50-6:心不全に必要な腎臓の知識、安定してても重症心不全では糸球体ろ過量が低下する)

心不全の時には、糸球体ろ過量は、変わらないか、うっ血や腎血流の低下に伴い低下します。

 
血清クレアチニン濃度をみているとその変化をみることができます。
 
 
ここで、心不全が慢性的に安定している状態のときと、血行動態的に不安定化する急性増悪という状況になる非代償状態の時とに分けて考えていきたいと思います。
 
まず、重症といわれるような心不全でない限り、心不全が安定時に心不全によって腎機能が障害されることはあまりないと思います。
 
何を重症というかということですが、心不全の症状による分類であるNYHA分類II相当までの、まぁまぁ普通に症状なく日常生活を送れる程度であれば、心不全による腎機能低下はあまりないと思います。
特に、右房圧(≒中心静脈圧≒腎静脈圧)が一桁前半程度で、心拍出係数が2.5L/min/m2を超えていれば、血行動態的にも循環の異常による糸球体ろ過の低下はないと考えていいと思います。
 
ただ、重症といわれるNYHA III相当以上の、通常の日常生活でも呼吸困難が出るとか、安静時でも呼吸困難がでるような心不全では、循環不全による糸球体ろ過量の低下がみられている可能性があります。
また、右心機能不全中心の重症心不全であれば、慢性的な腎うっ血による糸球体ろ過量の低下がみられることもあります。
 
重症心不全では糸球体構造などに不可逆的な異常は起きていないと思います。病理学的にも糸球体の萎縮はあるものの、尿中のアルブミンがあまりみられないことと、左室補助循環装置や心臓移植後に、糸球体ろ過量が改善することがほとんどであるからです。
病理学検査での糸球体の萎縮は、まったく原因はわかりませんが、相対的にボーマン嚢内の圧が上昇し、糸球体を伸しているのではないかと思っています。が、もちろん、わかりません。
 
ただ、現在日本では、左室補助循環を受けている人の多くは心臓移植を前提としています。そのため、少なくとも、心臓移植の登録基準をクリアしていることが前提ですので、注意が必要です。
現在心臓移植の登録には、クレアチニンクリアランスで30ml/min/1.73m2を超えていることが必要とされます。(移植申請時には、標準の体系当たりの数値が必要になりますので、身長体重で補正した単位になります。標準体表面積1.73m2=170cm*63kg)
糸球体ろ過量低下時には、クレアチニンクリアランスは、イヌリンクリアランスよりも30%程度高くなる(尿細管からの分泌が増える)ために、実質の糸球体ろ過量は20ml/min/1.73m2程度と考えられますが、糸球体ろ過量はそれ以上の患者さんしか母集団に入っていないことは注意が必要です。
 
もし、糸球体ろ過量5ml/min/1.73m2程度まで落ちている人であればどうなるかはわかりません。
数年間、クレアチニンクリアランス 20ml/min程度(実質の糸球体ろ過量は15ml/min程度)で経過していた人が、状態が悪化して、左室補助循環をつけ、しばらくは状態の悪化そのものの影響や手術の影響、術後の感染などの影響で、血液透析を必要としましたが、最終的には腎機能は正常レベルにまで回復したということは経験しました。その人は、もともとは収縮期血圧 65-70mmHg程度、中心静脈圧 10-15mmHg程度で経過していた方です。
ごく少数例の経験ですが、特に動脈硬化の関係しない心疾患で、40歳程度までの比較的若年の方であれば、腎機能は補助循環後に改善してくる可能性は高いと思われます。
 
現在、実質的に腎機能は糸球体ろ過量を基準に評価されいますが、この糸球体ろ過量が血行動態の影響を強く受けるものであります。
この腎機能=糸球体ろ過量としていることは非常に大きな問題であると考えています。
正味の腎機能は、血行動態や腎臓の外部環境を可能な限り除いた糸球体とその周りの機能だけのはずです。(もちろん、糸球体ろ過以外の尿細管機能なども含みますが)
重症の慢性心不全の方は、低潅流所見が持続的にあり、静脈圧が高くなっていますので、腎血流が低下していて、糸球体内圧は低下しているという状態が常態化しているため、糸球体ろ過量が低下していることはよくあることです。
そのような患者さんに、循環の補助装置を使って、腎血流を確保し、静脈圧を低下させれば、糸球体ろ過量が増加するのは当然のことです。
また、レニンアルドステロンが活性化している状態では、腎臓の中でも皮質のほうの糸球体の血流は制限されて、傍髄質といって腎臓の中心まわりの糸球体の血流が維持され、全部の糸球体が均等に働くわけでもありません。
 
限られた移植心臓を、できるだけ長く生きられる人に移植するというのは重要だと思いますので、腎機能が正常であろう人に心臓移植を限定する、つまり、糸球体そのものに異常のある人は除外するというのは仕方ないと思います。
 
そのためにも、現在の糸球体ろ過量のみを単純にみるのではなく、糸球体ろ過量を、腎血流や静脈圧から、それらの影響を除外できる補正式などを作って、その時の糸球体機能を推定することが重要だと思います。
心不全の人の循環が、その人の血行動態を収縮期血圧 90mmHg, 心拍出量 2.5L/min/m2、中心静脈圧 4mmHgであるとしたときに、その人の糸球体ろ過量がいくらと推定されるかという補正式を、今まで心臓移植を受けた方から作って、その補正式の妥当性を、今後前向きに検討する必要があると思っています。