心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(50-9:心不全に必要な腎臓の知識、利尿薬によるクレアチニンの上昇)

 

心不全でみられる腎機能障害で利尿薬によっておこるものにも注意が必要かもしれません。

 
利尿薬によって、糸球体ろ過量の低下がみられることがあります。
一般的には、利尿薬により循環血流量が低下し、そのため腎血流が低下することによって、糸球体ろ過量が低下するといわれています。
 
これが本当かどうかはわかりません。機序的には理屈が通っていますし、一部はこのような現象が起きていることは確かだと思います。
 
ただ、個人的な印象によると全身の循環血流量が低下しているということは少数ではないかと考えています。
この現象は心不全のうっ血の治療が終わった直後、つまり急性心不全の治療を行い、胸水などがなくなった後くらいにおこります。その時期に、ループ利尿薬を中心とした利尿薬を、急性期の治療を行っているそのままの量で投与し続けていると、患者さんによっては血清クレアチニンが上昇してくることがあります。
このような場合には、利尿薬過量と判断して、利尿薬を半分の量などに減量して数日経過をみます。すると、多くの場合はクレアチニンが減少し、糸球体ろ過量が改善してきたことを示唆します。
 
そして、この場合に、適度な利尿薬の減量であれば、大概の場合において、再度胸水が出てきたりといったうっ血の所見の再燃はありません。
それだけでなく、大概の場合に、個人の体内の水分量の変化を見るのに有用な体重の変化も起きないことが多いです。つまり、利尿薬を減らしたことで体内の水分そのものが増加したというわけではなさそうなのです。
さらに、血液検査でそのような変化が出た時でも、一般的に医者は脱水といいますが、いわゆる脱水などの症状を訴える人をみたことはありません。
 
(もちろん、いきなりそれなりの量の利尿薬を急に中止したりすると心不全の、特にうっ血所見が悪化していることは時折みられますが)
 
心不全のうっ血治療終了直後のクレアチニンの上昇は、利尿薬を減量ないし中止して、体内の水分量が変化した(体重の変化)というよりは、体内の水分のバランスが変化している印象強いです。
特に、実際の現場で治療をしていた印象では、腎臓だけの血流の変化か、利尿薬がなんらかの機序によって、結果的に腎臓に循環血流量が少ない時と同じような反応を示しているかのように感じていました。
 
 
以前より、ループ利尿薬のフロセミドには、血管拡張作用が報告されています。
フロセミドの血管拡張作用は、NSAIDS(イブプロフェン;つまり市販のイブ)により消失することから、プロスタグランジンの作用によると考えられています。
急性心不全に対して、フロセミドを投与すると、血管拡張作用により、静脈が拡張し、右房圧が低下することで、多少急性心不全の呼吸困難が改善するともいわれています。
 
 
心不全でうっ血が改善した後のクレアチニンの上昇は、利尿が適度からやや行き過ぎた程度ではあるが、ループ利尿薬の持つ血管拡張作用によって、水分が静脈にプールされた結果起こる変化である可能性はあります。
ただし、この場合には、有効循環血流量が低下していることには違いはないので、腎臓のみ起こっているという仮説は立証できていません。
 
ループ利尿薬では、腎臓の髄質の酸素需要を減少させるとの報告もあります。多少なりとも、需要を減少させると腎血流は減少する可能性はあります。(もちろん腎血流は糸球体ろ過のため、需給ギャップでは決まっていませんが。。)
 
また、ループ利尿薬の中でもフロセミドは、持続時間が6時間程度と短く、フロセミドのみで治療している場合には、フロセミドが効いていない時間のほうが長くなります。この辺りも関係しているのかもしれません。
 
極端な話、実は糸球体ろ過量に変化はなく、尿細管の分泌と再吸収能だけが亢進しているのかもしれません。そうするとクレアチニンの分泌の低下と、BUNの再吸収の亢進が起こっているのなら、脱水のような血液検査の所見がみられることもあります。
 
もっと、腎臓だけに作用して、まるで全身の有効循環血液量の不足によって糸球体ろ過量の低下(腎前性腎不全といいますが)が生じているような変化が起こっている機序があるように思っていますが、現時点の私では残念ながらわかりません。
 
いずれ、「うっ血解除後の腎機能悪化の原因と機序」というタイトルで結論を出したいと思っています。
 
ちなみに、心不全の増悪や治療初期に腎機能が悪化することは、心不全の予後が悪くなる指標の一つであるとお話ししましたが、この心不全の治療の後に一過性にクレアチニンが上がること自体は、予後に関係ないといわれています。
そのため、病態そのもののが悪くなったり、全身の有効循環血流量が低下しているわけではなく、利尿薬などの可逆的な変化であると考えられます。