心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインにみる慢性心不全にやってはいけない治療

心不全患者にやってはいけないこともガイドラインでは、まとめてあります。
ESC(ヨーロッパ心臓病学会)のガイドラインをみていきます。

 

まずは、薬剤投与について記載があります。

有症候性のHFrEF患者に、ジアゼパムやベラパミルの使用は推奨しないとあります。
確かに、慢性的な使用はすべきでないと思います。心房細動の心拍数管理には、βブロッカーを中心に行われるのがいいと思いますし、どうしても心拍数をコントロールできないときには、房室結節アブレーション+CRT(心臓同期療法)を考慮するべきだと思います。ただ、発作性上室性頻拍などの時にや、心房粗動で心拍数が2:1伝導などの時には、慎重に使用すればいいともいます。あくまで一時的な使用のとどめて、安定したら、アブレーションの方向で話を進めるか、緩和的な医療の段階であれば、その都度薬剤を投与していくということになると思います。ジアゼパムやベラパミルは陰性変力作用があり、中・長期的にもβ遮断薬のような心臓によい効果もないので、慢性的な使用はすべきではないし、単発なら使ってもいいと思いますが、その時にも十分に慎重に対応する必要があります。

 

次に書いてあるのは、ACE阻害薬とミネラルコルチコイド受容体で治療をしている患者に、腎機能保護目的にARBを追加投与することは推奨しないという内容です。これは、ミカルディスなどのデータで、追加投与しても付加的な効果はなくて、低血圧などのリスクが増えるだけなので、あくまでARBは現時点では、ACE阻害薬が咳や血管浮腫のために投与できない人に対して投与しましょうということになります。もちろん、血圧を下げる目的での併用は否定していません。ラジレスやカルデナリンなども含めた複数種類の薬剤を保険適応上限まで使用してもまだ高い時には、ACE阻害薬とARBの併用はしてもいいと思いますが、時代的には、腎動脈アブレーションの適応ということになっていくと思います。また、腎動脈アブレーションについては、専門ではありませんが、お話ししていきたいと思います。

 

次は、いわゆるデバイスに関する記述が3つほど続きます。
まずは、ICDです。ICD(植込み型除細動器、Implantable Cardioverter Defibrillator)は、心室性不整脈による突然死に対するDeviceです。詳細は、またお話ししますが、ある設定の心拍数以上になると、ペースメーカのような機械が大きな電気を発生して、体の中で除細動をかけます。必要な致死的な不整脈にのみ作動すればいいのですが、一部誤作動といって、本来は作動してほしい脈ではないのに、脈の検出などの問題で、どうしても作動せざるを得ない状況が一定の率で起こったりします。特に、一過性の早い心房細動などの時には、心室粗動と完全にみわけられないので、作動せざるを得なかったり、心室頻拍で脈があるときにも、心拍数的には早いものの、意識はある状態で作動すると結構なショックになると思います。必要な人には必要で、自動で致死的な不整脈を止めるという薬剤ではできない重要な効果がありますので、非常に有用なことはいうまでもありませんが、不必要な人に早まって入れてしまうと、まったく作動しない無駄な機械になり、三尖弁を痛めたり、感染などの合併症が起こるだけとか、不適切にしか作動しないなどの弊害が出ます。そのために、慎重に適応となる患者さんを見極める必要があります。このことについて、ガイドラインでは、不整脈としてICDを導入する適応があったとしても、心筋梗塞の40日以内は流動的で、40日経過した後にまったく致死的な不整脈が出ないことはしばしばあるため、心筋梗塞後の40日以内では留置してはいけないとされています。

 

CRT(心臓再同期療法、Cardiac Resynchronization Therapy)についても、はっきりと心電図でのQRS幅130ms未満は適応がないので入れないようにと明記されています。これは、CRTの本来の適応ではない人に、CRTを入れてしまうと、左室が心外膜側からの電気刺激となることもあり、心室性不整脈が発生しやすくなるとされています。そのため、非適応患者にCRTをいれると心臓死が増えるという報告があり、決して適応のない患者に入れるべきではないと強く明記されています。心不全にとって、CRTやICDといった機器は非常に重要な治療オプションですので、また、別の項目でお話しします。

 

ASV(adaptive servo ventilation)に関しても、記述されています。ASVは、HFrEFの時の心不全の中枢性無呼吸が有意な睡眠障害に対する治療としてASVを使ってはいけないとされます。これはSERVE-HF(N Engl J Med 2015; 373:1095-1105)という試験で、心臓血管死が増加したことによります。

私の個人的な考えでASVは緩和医療にのみ適応となる機器といえます。ASVを一般の心不全の方になぜ使ってはいけないかは別にお話ししていますが、臨床試験結果からも心臓突然死が増えていますので、使用してはいけない機器になります。特にいわゆる中枢性無呼吸症候群に対する治療オプションとしては、使用が否定されています。

 

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もともと、中枢性無呼吸症候群は、あるほうが予後不良ということはわかっていますが、中枢性無呼吸症候群自体の重症度をどのように判定するかは定まっていません。少なくとも、閉塞性無呼吸症候群のようにAHI(無呼吸低呼吸指数)で重症度評価はできません。ドイツのOldenberg先生は、AHIではなく、心不全の中枢性無呼吸の典型例である、Chene-stokes呼吸の周波数(波の長さの逆流)が中枢性無呼吸の重症度(=その人の心不全の重症度)を反映するのではないかということを提唱されています。つまり、このことは、心不全の重症度の反映としての中枢性無呼吸の重症度を評価できたとしても、未だ、独立因子としての中枢性無呼吸自体の重症度の評価はできていないということになります。これをするには、何らかの指標で中枢性無呼吸を分類して、何かと相関しているということではなく、さまざまな心不全の予後予測因子と一定の緩い相関を持っているか、ある中枢性無呼吸を評価する値自体が、他の既知の数値と独立して予後指標となるようなことが証明できれば、中枢性無呼吸の重症度としてその値が有効だと証明されますが、もちろんそのような値は存在しません。可能性としては、デジタルデータとして呼吸の波形をフーリエ変換することが考えられますが、だれでも考え付きそうなのに、まだ、論文がないというのは、結果が出なかったのかもしれません。
とにかく、現時点では、無呼吸は症状のある閉塞性無呼吸に対する治療は有益ですので、積極的に検査して治療が必要です。症状のない閉塞性無呼吸に関する治療は、循環器疾患をよくするというエビデンスは弱いので、無理強いしてまで継続する必要はないです。中枢性無呼吸に関しては、心不全の一般的な位置量を積極的に行ってなくなれば、心不全自体が安定したと判断されますが、ASVなどの機器を使用した治療は決して行ってはいけません。