心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心臓リハビリテーション(8)

リハビリの運動療法をするときに、一番重要なのは運動療法をやってはいけない人や中止基準を知っておくことだと思います。
 
心臓リハビリテーション学会のガイドラインには、運動療法の適応と禁忌,リスクの層別化(AHA exercise standard より改変) として、1-6項目の運動療法を行ってはいけない人を列挙しています。
 
1. 不安定狭心症 
2. 重症で症状のある弁膜症 
3. 先天性心疾患 
4. 代償されていない心不全 
5. コントロールされていない不整脈 
6. 運動により悪化する医学的な状態の存在
 
これらの状態であれば、通常の運動療法を行えば心事故が起こる可能性がありますが、結局は程度によると考えられます。
特に3の先天性心疾患というのは心不全の原因となっている原疾患のひとつのくくりというだけで、安定してればもちろん運動療法は行ってもいいと思います。4も程度次第だということはお話ししました。6は、おなじみのその他の何かという便利の表現になります。
 
一番怖いのは、5です。いわゆる致死性不整脈には十分な注意が必要です。これだけは、起こってしまうと一気に状態が悪化してしまう可能性が高いので、気を付けなければならいません。
ただ、やらないということではなく、あらゆる治療を行ってもコントロールできないものであれば、その人の退院後の生活状況を考えて、その範囲内での運動を行い、不整脈がどの程度起こるのかなどは、病院内で行ってから退院しないといけません。コントロールされていない致死性不整脈に関しては、運動療法はだめということになり、コントロールできない不整脈に関しては、低強度から運動療法を行わなければならないということになります。
 
また、アンダーソン・土肥改定基準という基準のほうが具体的な数値が示されていてわかりやすいと思います。
〇 運動を行わないほうがよい場合​
・安静時脈拍数120/分以上​
・拡張期血圧120mmHg以上​
・収縮期血圧200mmHg以上​
・労作狭心症を現在有するもの​
新鮮心筋梗塞1ヶ月以内のもの​
・うっ血性心不全の所見の明らかなもの​
・心房細動以外の著しい不整脈​
・運動前、安静時にすでに動悸、息切れのあるもの​
わかりやすいので非常に良いと思います。
このような所見があるときには、いったん原因などのチェックや普段と変わらないかのチェックが必要だと思いますし、がっつりと自転車エルゴメーターによるATの運動リハはやめた方がいいとも思います。
 
個別にみていきます。
安静時心拍数に関しては、洞調律で100bpmを超えているような場合には、肥満などの状況でなければ、何かあることが多いと思います。感染症による発熱が起こっていないか、他に頻脈になる原因がないか検索したり、原因がなかったとしたら何らかの薬剤で安静時心拍を調整していく必要があるように思います。
 
また、血圧に関しては、確かにBP 200/120よりどちらかが高い時には、要注意ですが、このような状態になるのであれば、リハの前に内服調整による降圧などが必要です。
 
労作性狭心症に関しては、症状があっても、安定している症状で、かつ、冠動脈の狭窄状態がCTやカテーテル検査で把握されているなら、リハビリは可能だと思います。もちろん、アダラートなどのカルシウムチャネルブロッカーやβブロッカーなどでしっかりと内服を調整しておく必要がありますが、それと同時に運動負荷試験で、胸痛時の心電図変化を把握し、その範囲内でしっかりとリハビリを行うことは、胸痛が出る運動強度があがる(虚血閾値の上昇)ようになります。
 
心筋梗塞の発症1か月以内とありますが、現時点では急性心筋梗塞でも急性期(少なくとも24時間以内)に冠動脈形成術が行われた人に関しては、リスクをしっかりと評価しながら積極的にリハビリを行っていきますし、24時間以内に治療ができなかった人でも、心室破裂などのリスクを十分に評価しながら1週間程度全体的に遅らせてリハビリを進めていくことになります。
 
うっ血性心不全に関しては、所見が明らかであっても、それが安定しているものや、うっ血がある前提でできうる範囲の運動療法があれば、十分に病態を認識して運動療法を行うことは可能です。
 
不整脈に関しては、もっとも注意が必要ですので、別項目で述べることにして、運動前の症状に関しても、うっ血性心不全と同じで、その原因が明確で、安定している、もしくはコントロールされているものであれば、運動療法は可能だと考えます。