不整脈も心不全の増悪の原因となります。
もちろん心不全そのものの原因となることもあります。頻脈誘発性心筋症(TIC)という疾患概念や、動物実験で心不全のモデルを作るときに思いっきり早く右室ペースを続けることをしますので、正常な心臓でも頻拍を続けることで、不全心になることがあるので、不整脈自体も心不全そのものの原因、心筋障害の原因となりえますし、心不全の急性増悪の原因にもなります。(TICに関しては、正常かもともと頻脈で新機能が低下する程度には潜在的、遺伝的に心機能の脆弱性があるのかはわかりません)
さて、不整脈に関しても循環器の主要な一分野として重要ですので、不整脈は不整脈として別にまとめてお話ししたいと思います。また、心不全の予後に重要な影響を与える心室性不整脈への対応に関しても、別にまとめてお話ししたいと思います。今回は、慢性の心不全に起きたら、急性増悪する不整脈という観点でお話ししたいと思います。
少しだけ不整脈の分類をします。不整脈は、まずは脈が整か不整かに分けられ、次に脈が速いか遅いかで判断します。
つまり、脈が不整なら何かの不整脈です。もちろん、人の洞調律は、自律神経などでコントロールされていますから、多少は変化しますが、心電図をとる1-2分程度であれば、心拍数で2bpm(beat per second)程度の変化で収まると思います。心電図では、心拍数の逆数である、RR間隔というR波間の時間で整か不整かを診断していきます。
さて、RR間隔が一定でなければ、それは何らかの不整脈ですが、RR間隔が一定で整であっても、心拍数が60bpm以下か、100bpm以上であれば、不整脈で、徐脈か頻脈ということになります。もちろん、不整で徐脈とかもありますが、不整な段階で不整脈ですし、徐脈といった時には整も不整も含まれます。
不整脈でも、心不全の急性増悪の原因になるものとならないものがありますが、上室性期外収縮などは基本的には心不全の急性増悪の原因にはなりません。
ほかの不整脈に関しては、程度(頻度)や、その人の心機能の程度によっては増悪の原因となりえます。
徐脈に関しては、その人の心機能によりますが、一般的には50bpmを切ると心不全になることがあると思います。心不全が増悪するのには、循環血流量のミスマッチが主な原因となります。正常範囲内であれば、脈が速くなっても遅くなっても、1回の心拍出量を増減させたり、そもそも循環血流量がかつかつの状態でなかったり(多少供給が減っても十分需要を満たせる状態)するので、これが満たされる範囲であれば、徐脈でも心不全にはなりません。しかし、心臓が1回拍出量を増やすのには、交感神経を更新させて1回心拍出量を増やし、心拍数を上げますが、徐脈では交感神経刺激がきてもあまり反応しませんので(房室ブロックなどのため)、1回心拍出量を増やすしか対応策がない状況になります。すると、収縮性を上げるのには限界がありますので、前負荷を増やそうとします。前負荷は左室拡張末期容積ですので、これが増えると左室拡張末期圧、左房圧があがります。すると、右室にとっての後負荷が増えますので、右心系の収縮末期径の増大を起こし、そこに1回拍出量が増えるのは、右も左も同じなので、一層収縮末期径と1回拍出量の増加のために一段と右室の拡張末期径が増大し、右室拡張末期圧、右房圧が上昇し、静脈圧が上昇することで心不全になります。多くの場合には、肺うっ血などよりも体うっ血の症状が先に出来ることが多いと考えられますが、これは1回拍出量が増加していることもあり、左室拡張末期圧のわりに右室容積が拡大することが原因だと考えます。
ペースメーカ適応となるような何らかの不整脈による徐脈の時に肺うっ血よりも右心系の拡大と体うっ血を経験することは多く経験するかと思います。
また、頻脈の時には、逆に後負荷の上昇による心不全の増悪になります。心拍数の増加は、そのまま後負荷の増加になります。数式的にもそうなりますし、Windkessle model的にもそうなります。(また、別項目で説明します)
つまり、脈が速くなるので、1回拍出量は減少してもいいことになります。ただ、早くなりすぎると、心拍出量は維持できていも、後負荷の上昇により、左室収縮末期容積が増えます。1回拍出量の減少により、拡張末期容積の減少は緩和されるものの、ある一定ラインを超えると拡張末期圧が上昇します。すると、左房圧の上昇が起こり、右心系の負荷の上昇ということになります。頻脈の場合には、徐脈の時に比べて、打つん径の後負荷が同じ程度でも、1回心拍出量が少なくて済む分右室の拡張末期容積が少なくて済みます。つまり、頻脈の場合には、右心不全症状もでますが、徐脈の時よりも、肺うっ血による症状が前面に出やすいといえます。
頻脈が続いて出る心不全では、浮腫よりも呼吸困難が出やすいのはこれが理由ではないかと考えられます。