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AR(12):ARの非代償性心不全の治療の注意点と思い出ーARは頻脈がお好きー

大動脈弁閉鎖不全症(Aortic valve regurgitation, AR)による非代償性心不全の治療についての、ちょっとした注意点です。

ちなみに、非代償性心不全というのは、慢性心不全の中で、うっ血や低潅流による症状が悪化して不安定化している状態の心不全のことを言います。反対に、その人の心機能から予想される範囲で、うっ血や低潅流の所見がないか、安定している状態を代償性心不全といいます。​
慢性心不全の人は、代償状態で日常生活を送っていて、何かのきっけか(上気道感染や不整脈など)によって、浮腫などのうっ血の症状や、低潅流の症状が悪化する非代償状態になって、入院や内服薬の調整が必要になります。うっ血や低潅流の症状を何らかの方法で改善させて、内服のみで再びその人の心機能と全身の状態から予想されるのに妥当な範囲で安定して日常生活を送れるようになれば、再度代償状態になったと判断されます。

 

大動脈弁狭窄症(Aortic valve stenosis, AS)による慢性心不全の非代償状態の時には、うっ血が強くて、血管を拡張させても前負荷が過度に低下しないと予想される時には、血管拡張薬の使用はしても悪くはありませんが、心不全そのものの治療に、特に点滴による血管拡張薬は必要なことはかなり少ないという意味合いのことをお話ししました。

 

ARの時には、ASの時に比べて血管拡張薬に関する制約はありません。使ってもいいですし、使わなくてもいいです。
ただ、心拍数に関しては注意が必要です。心拍数が遅くなると、拡張期が長くなって、その分大動脈弁閉鎖不全として、空いている孔の大きさが同じでも、逆流する時間が長ければそれだけ逆流する量が増えますので、心不全は不安定化しやすくなります。
心拍数は多めがいいです。

 

私が経験した極端な例の方です。
高度な大動脈弁閉鎖不全があり、時折呼吸困難があるとのことで、精査目的に入院となりました。


普段は洞調律で心拍数は80回/分くらいです。
入院した後にわかったのですが、入院中にモニター心電図といって、小さい機械をつけて、24時間心電図をモニタリングしていると、それで、心房細動と心房粗動の2つの不整脈があることがわかりました。

心房細動の時には、心拍数が 1分間に50-60回まで低下し、心房粗動の時には、1分間に140回くらいまで上昇しました。
一般的に心不全では、心拍数が高くなると、心筋の酸素の需要が増えたり、拡張時間が短くなることでそれだけ急速に左室を充満させなければならかなったり、心拍数が上がること自体が後負荷を増加させたりするために、心不全が悪化することが多いのですが、この方は全く逆でした。

高度な大動脈弁閉鎖不全があるために、心房細動で心拍数が落ちると、拡張時間が長くなって逆流量が増え、それにより左室の拡張末期容積及び拡張末期圧が上昇していることによると考えられる呼吸困難が生じるのと、低潅流所見である指先の爪の色で判定するCappilary refilling time(毛細血管再充満時間)が悪化(充満時間が伸びる)していました。
逆に、心房粗動になると全くそのような所見はなく、患者さん本人も不整脈になっていることにすら気づいていないような感じでした。
つまり、頻脈になっていても140回程度であれば、拡張時間が短くなる分、徐脈よりも血行動態を不安定化させないということでした。
この方に関しては、心不全としては代償状態であり、検査入院ではありましたが、偶然見つかった不整脈によるARの症状が出現しているので、有症候性ARということで、手術となりました。

 

非代償状態の心不全であった場合には、心不全を安定させた後に手術となりますが、徐脈がどうしても心不全の治療でネックとなるようであれば、一時的なペースメーカなども考慮されます。

弁膜症では、それぞれに応じて、特有の対応があります。
ARでは、特に心拍数に対する注意が必要です。