心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(25):急性期の心拍数の評価は、モニター心電図を使いましょう。

心不全の急性期に心拍数に対して治療するかどうかは、悩ましい問題です。

 

救急外来や入院直後の頻拍に関しては、循環不全や呼吸不全に対して治療を行うことで安定することは多いと思います。

 

では、どのくらいの心拍数なら、そのまま様子を見るかという問題です。
基本的には、利尿薬を投与して、それに反応して、治療を担当している人が思うような利尿をまぁまぁ得れているような場合には、特に多少心拍数が速くても、心拍数に対しての治療介入は必要がないと思います。
ただ、心不全の急性期といっても、洞調律で心拍数を120bpm(beat per minute)を超えるのは、おかしいかなと思います。もちろん頻呼吸で呼吸管理がうまくなっていないときなど120bpm前後は多々ありますが、急性期といえど、急性期なりに比較的安定しているときには、ないわけではないですが、やはり、心拍数自体を早くする疾患の併存(甲状腺疾患など)や、実は洞調律と思っていたが、よくみると心房頻拍などであったということもあり得ますので、12誘導心電図の確認は必要です。ちなみに、洞調律で140bpm以上が続くときは、絶対におかしいです。何かあります。


モニター心電図で数時間単位の心拍数をみていて、洞調律でも心拍数は±10bpmくらいで変動しますが、変動がほぼない(±2bpm程度)時には、洞結節や心房、洞房結節の関与しているリエントリー性の不整脈の可能性があります。この時には、ワソランとか、電気的なショックなど有効な治療法があります。

12誘導だけでは見落とすこともありますのので、かならず入院中のモニター心電図のトレンド(心拍数の時間経過のグラフ)を確認しましょう。

 

心房細動の時の心拍数はどのように評価していけばいいかというと、私はモニター心電図のトレンドをみていました。今のモニター心電図は、時間軸の拡大幅に合わせて、秒単位とか、15秒毎とかの心拍数を点でプロットした心拍数の変動をみる点のグラフと、それの平均値を線であらわした平均心拍数のグラフの2種類が表示できます。
大抵初期設定では、心拍数の細かい変動をみるグラフになっていると思います。まず、それをみて、なんとなくの心拍数の幅をみます。例えば、60-120くらいの幅で変動しているなという感じです。特に、これで注意するのは、低いほうで、低い心拍数が多い時には、平均心拍が高くても、高い心拍ばかりに気を取られて、徐脈にすると、pauseといって、心拍の間隔が長くなることがあります。寝ているときに多少1-2秒程度pauseが起こっても、問題ないのですが、心室性不整脈が不安定な人の場合は、このpauseの時に心室性不整脈が不安定化しますので注意が必要です。


モニターの心拍変動の幅を確認したら、次は、モニターの設定を変更して、平均値を線であらわしたグラフに変更します。私は、心房細動の時の心拍数はこの線で評価していました。

 

急性期の心拍数に関して、どの程度がいいのでしょうか。
心不全の急性期の人では、心拍数を調整して心拍出量との関係を実際に見るのは困難ですが、今までに報告された様々な研究から不全心では、心拍数80-110bpmの間が、心拍出量(1回拍出×心拍数)のピークとなるようです。
急性期の心不全治療では、先ほどに述べたように、多少脈が速くても心不全治療自体が、循環・呼吸・利尿という点でうまくいっているならそのまま様子を見てもいいと思います。それで、ある程度うっ血の治療にめどが立ちそうになった段階で、徐々に慢性期治療を視野に入れて、β遮断薬を導入し、徐々に増量していけばいいと思います。β遮断薬の導入のタイミングに関しては、慣れていない場合には、うっ血が完全に解除されて、心不全が代償状態になった時がいいと思います。もちろん、慣れていけば、心不全の程度とか、治療反応性とか、いろいろなものからうっ血が残っている段階から導入できるようになると思います。β受容体遮断薬は、導入や増量のタイミング・仕方を間違えると、心不全そのものを医原性に再増悪させてしまう可能性があるので、慎重にいきたいものです。

 

心拍数の治療介入を考えるときには、心不全の治療自体が思うようにうまくいっていない時だと思います。呼吸不全の時には、陽圧換気や血管拡張薬といった治療で、安定させることが優先で、それにより心拍数が落ち着くことがあります。
循環と利尿が不十分な時に、心拍数が速いとか、逆に遅い時にどの程度の心拍数で、どのような手段で、どこまで調整していけばいいのかは迷うところだと思います。
循環不全・利尿が不十分な時の心拍数管理に関して、次回述べたいと思います。