心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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慢性心不全の治療:急性増悪を防ぐために、急性増悪の原因を知ろう

心不全の慢性期治療を行うのにあたっては、①-③が目標になるのではないかと考えています。
 ①心不全そのものの進行を遅らせること、可能であれば改善させること。​
 ②心不全による症状をできるだけ抑えること。​
 ③心不全の増悪(非代償化)させないこと。させたとしても、早期にとらえて入院をしなくてもいい段階で治療介入を行うこと。
 
①や②のために、心不全の原因となる治療可能な疾患を除外し、ガイドラインに従った治療を適切に行い、症状緩和のために最小限の利尿薬を使っていきます。もちろん、必要な人にはリハビリも行います。そのうえで、③の急性増悪に対する対応ということになります。もちろん、③も特に①が有効で治療により心機能が改善しているようであれば、ひとまずは起こらないことも多いですが、たいていは、少しはLVEFが改善するとか、症状が改善するとかというレベルのことが多いので、1年、2年とみていくうちに、足がむくんできて、外来に来た時には、結構胸水などがたまってきているか、何かをきっかけに急に心不全が悪化して、急性心不全入院ということになることが多いです。
今回は、慢性心不全の診療の中で、心不全の急性増悪の起こり方、原因のようなものとみていきたいと思います。

心不全の増悪の原因をヨーロッパ心臓病学会のガイドラインなどを参考に列挙したいと思います。一部、心筋障害をきたすものもありますが、こちらの一覧は心筋障害を起こすかどうかではなく、心不全の急性の起こすきっかけになるかどうかという観点でまとめています。
 
急性冠症候群
不整脈(徐脈、頻脈、心房細動など)
過度な血圧の上昇
感染症
過度な飲水と塩分摂取
過労
アルコール多飲など
薬剤(消炎鎮痛剤や一部の抗がん剤など)
怠薬
COPDの急性増悪
肺血管疾患(肺血栓症による肺高血圧など)
心臓・循環に影響を与える内分泌疾患の不安定化(甲状腺、副腎疾患など)
脳血管疾患
心臓の構造物の急激な不全(特発性の腱索断裂や交通事故による弁膜症)
 
はっきりと分けられるものばかりではありませんが、2つの種類で分けるとすると、予防が容易かどうかという点で分けるのが臨床的に有意義かと思います。
 
予防が可能なものに関しては、過度な飲水塩分摂取、怠薬(服薬の忘れ)、過労、アルコール多飲があると思います。予防は可能といえば可能ですが、知らなくてしていなかった人に関しては可能で、できないという人にはどうしてもできないので、予防困難となってしまう現実もあります。
他の項目に関しては、発症確率を下げたり、一定の確率で起こるということを予測できるものはありますが、なかなか予防するのは困難です。
それでは、項目別にみていきます。
 
まず、急性冠症候群ですが、これはこれが何かということを述べるには、また別の項が必要ですので、またお話しします。
簡単に言うと、急性に起こる冠動脈の血流障害によっておこる一連の症候群ということになります。
休刊症候群の中には、冠動脈のプラークの破裂による血流の遮断によっておこる心筋梗塞、心血管死、亜閉塞により血流が低下しておこる不安定狭心症がはいります。臨床的には、プラークとは関係ない冠動脈解離や冠攣縮による狭心症・心筋梗塞も含めてもいいと思います。(広義の急性冠症候群とするか、なにか急性冠動脈血流障害性疾患とまとめるかはわかりません)
 
冠動脈リスク疾患といわれる、高血圧・脂質異常症・糖尿病など、特に脂質異常や高血圧を治療するのは有効ですので、これらの治療により急性冠症候群の発症リスクは下げれますが、もちろん完全には防げません(糖尿病に関しては、治療してもさほど冠動脈疾患のリスクは減りません)。
慢性心不全に冠動脈の虚血が加わると、心臓の機能障害、特に拡張機能が悪化して、拡張末期圧の上昇が起こりますし、純粋に痛みによる交感神経の刺激や血圧の上昇などが複合的に加わって、心不全が急性増悪します。もちろん、心筋梗塞では、増悪因子ではなく、急性の心機能障害の主要な原因であり、純粋な急性心不全を引き起こしますし、程度が軽くてももともと心機能障害を有している場合には、心不全の急性増悪の原因となることがあります。
治療は、まず、冠血流を安定させることと、呼吸管理をはじめとして心不全の治療を同時に行うことになります。
 
心筋梗塞ではないときでは、低循環がある場合には、強心薬は心筋虚血を増悪させるので、冠血流が安定するまでは使うのはためらわれるので、IABPなどを積極的に使用します。できれば、IABPや心電図での虚血性変化がなくなるようにしたいところです。血圧が低い場合には、ニトログリセリンよりもシグマートのほうが使いやすいです。
もちろん、原因となる冠動脈に対する治療は必要です。
このあたりに関しては、やはり、冠動脈疾患という項目を作ってお話ししていきたいと思いますので、今回は参考までに。