心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(29):急性心不全で徐脈を合併しているときには

急性心不全の時には、なんだかんだでしんどくなりますので、普段よりも脈は速くなります。
しかし、徐脈性の不整脈が合併していて、明らかに徐脈になっていたり、心不全の急性期のわりに徐脈っぽくなっていることがあります。

 

心エコーでの心臓の動きは正常でだけれども、房室ブロックで急に徐脈となったことが心不全の増悪因子ということがあります。
まぁ、脈が半分になったとしても、若い人はうっ血性の心不全にはなりませんので、多少の徐脈性不整脈で心不全をきたすということは弛緩機能に異常があるということですので、HFpEFということになります。
(若い人でも労作時の呼吸困難は出ますので、心不全にはなりますが浮腫や胸水などの症状はあまり出ません)

 

徐脈で心不全が増悪したHFpEFは、経静脈的なペースメーカを一時的に使用して、脈を80bpmとか90bpmに調整し、適時利尿薬を使用すれば心不全は代償化できると思います。この時に、右室ペーシングとなりますが、HFpEFで右室ペーシングとなることでの心機能への影響は少ないと思います。(HFpEFの右室ペースであまり心機能的に問題になった経験がないです)


一時的な原因による徐脈であれば、原因を解除して様子を見ればいいですし(圧倒的に薬剤性が多い)、はっきりとした原因がない時には、心不全が代償されたころに、植え込み型のペースメーカを植え込むことになります。

はっきりとした房室ブロックではないが、脈が遅いことで、心拍出量が不十分で、また、拡張末期圧が上昇している可能性が考えられる時には、心拍数を早くするかどうかを考えます。
このような時の具体的な状況としては、洞結節の調整が壊れているかのように、心不全なのに洞調律が60程度しかないとか、徐脈性の心房細動の時だとかだと思います。
また、もともと洞停止や徐脈性不整脈で植え込み型のペースメーカを入れているときの心拍数の設定を、慢性期と急性期で変更したりすることが有効な時もあるので、心不全の急性期だけ調整するかどうかも選択肢として考慮しなければなりません。

 

2度以上房室ブロックなどのような絶対的な不整脈以外の時には、頻拍の時と同じように心不全の治療自体がうまくいっているかどうかで急性期に心拍数を調整しに行くかどうかは決めればいいかと思います。
心拍数が遅いことによる循環動態の悪影響(低心拍出と、できるだけ1回拍出を増やそうとして拡張末期圧が上がる)と、脈を上げるために右室ペースになる可能性があることと、薬剤の場合には副作用などを天秤にかけて治療するかどうかの判断をする必要があります。(脈が遅いほうが後負荷は下がりますが、一定の脈以下では後負荷は変わりませんので、その時には1回拍出量の増加による拡張末期径の増加のほうが問題になります。)

 

特に左心機能が低下しているような場合には、一時的なペーシングの場合、房室結節が正常であれば、右房ペーシングを行ってできるだけ右室ペーシングにならないように試みることも重要ですし、特殊にはなりますが、一時ペースメーカでVDDのような形で使用できるカテーテルもありますので、そのような特殊なカテーテルの使用も考慮されます。

 

房室結節が不安定であれば、右室ペースをせざるを得ないかと思いますが、できるだけQRS幅が狭くなるような位置に留置したりすることも試みたいですが、場所がずれてしまっては意味がないので、安定している場所が最優先にはなります。
経静脈ペースメーカのリードは、硬いので冠静脈にいれて左室ペースをするのはお勧めしません、危険です。

 

薬剤で心拍数を上げにかけることもできます。
特に徐脈性心房細動の時に、プレタール内服を行うと脈がある程度早くなることが知られていて、確かにある程度心拍数が速くなりますので、出血傾向に特に注意がいらない場合には選択肢になります。テオフィリンも脈を速くする作用がありますので、使用を考慮されます。

 

注射剤でも、いくつか脈が速くるようなものはあります。β刺激薬のイソプロテレノールや、硫酸アトロピンです。
これらの治療薬を心不全の時に使用することは稀ですが、イソプロテレノールは洞結節の不全と徐脈となるようなときに、一時的ペースメーカまでの一時しのぎに使います。
さすがに房室ブロックを改善させることまではできませんが、洞結節の心房レートを上げることはできます。
また、硫酸アトロピンに関しては、心停止の時の治療中や、心筋梗塞の高度な徐脈の時以外に使用したことはなく、心不全に基本的には使用しないほうがいいと思いますが、薬理作用的には、使ってはいけないわけではないように思います。薄く溶解して持続するのもいいのかもしれません。薬理的には、副交感神経系の伝達物質であるアセチルコリンを阻害する薬剤であり、副交感神経の支配が関係している部位にしか作用しないため、房室伝導以下のHIS束以下での房室ブロックに対しては無効となります。

このような注射による方法は不安定ですが、今後、さまざまな社会的な理由でこういった一時しのぎを行わなければならない心不全治療も増えてくるのかもしれません。