心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(12):陽圧換気の循環動態に与える影響

 
陽圧換気が循環動態にどのような影響を与えるかについてお話ししていきたいと思います。


まず、要約すると、非侵襲的陽圧換気で、持続的な陽圧(CPAP)を10cmH2Oかけると、肺の圧が上昇し、肺が心臓の拡張を阻害します。
それによって、最終的には、右房圧と肺動脈楔入圧が2-4mmHg程度上昇します。また、肺血管抵抗と体血管抵抗は減少します。抵抗の減少には、交感神経が抑制されることによると考えられます。


酸素消費にかかわるところでは、呼吸運動が補助されて、呼吸運動による酸素消費が減少します。
心臓の酸素消費も減少するという報告も一部あります。
心拍出量に関しては、酸素消費が減少するため、正常、または心不全でも心拍出量は安静時で保たれている人に関しては、減少します。
(心拍出量は、全身の酸素消費量に合わせて変化するため)
また、心機能が悪く、安静時でも酸素消費を満たせていない人に関しては、心拍出量が上がることが示唆されています。血管抵抗が低下する事が原因かもしれませんが、機序は不明です。


このように、いろいろな報告を合わせると、心不全患者に陽圧換気を行うことは、血行動態的に悪いことはしないと結論付けられます。
そのために、心不全の急性増悪の時期に、一時的に陽圧換気を行って、呼吸を補助し、胸腔内の循環を立て直し、その間に治療を進めるということは正しいと思います。


ただし、慢性期の安定している代償状態の心不全の方には、陽圧換気は好ましくないと考えられます。
理由は簡単です。陽圧換気をすると、その間に末梢の体循環のうっ血が増悪するためです。
先ほど示したように、右房圧が2-4mmHg程度上がります。これは、何の理由で上がろうとも、胸腔外の臓器からしてみると抵抗の上昇でしかありません。
そのため、臓器の静脈圧がそれに応じて上昇します。血管抵抗もあるため、距離の遠いところほどより上昇します。すると、諸臓器がうっ血状態となります。
そして、一定時間が過ぎて、陽圧換気が終わると、いきなり右房圧が低下するため、一気に体循環からうっ血していた静脈血が戻ってきます。
圧の解除は、終わった時だけではなく、リークといって、マスクフィットの関係などで夜につけている間にも何度か起こっています。
このような循環の揺さぶりが何度もおこっています。


これが、陽圧換気が循環動態を不安定化させる私の仮説です。


では、この仮説から、陽圧換気をしてもいい心不全は2つです。先ほどから繰り返しているように、心不全の非代償期。つまり、一番の症状である呼吸困難を軽減させるために使用し、その間に、体循環のうっ血を治療により改善させる。その後に、陽圧換気を解除させても、うっ血が軽減しているので、症状の増悪はないという状態。
それと、終末期です。終末期は、呼吸筋疲労などで息をするだけでも、普通の人より多くの酸素を消費しますので、このような方には症状を軽減させる目的で、使用するのに適しています。というか、呼吸苦をとるには、陽圧換気か、麻薬またはプレセデックスの組み合わせによる治療くらいしかできない状態となります。


心不全をみると、ある治療の良しあしをどうしても心機能にどのような影響を与えるかということだけに注視しがちですが、それだけでは心不全に対する本当の効果をみることはできないと思います。