心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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AS(6):失神・狭心症状は、本当にすぐに手術が必要

大動脈弁狭窄症の治療に関しては、比較的ガイドラインで統一されているといえます。
 
高度で症状があるものは、手術。
高度でも、超高度といわれるものやそれに近いものに関しては、無症状でも手術を積極的に考慮する。
高度ではあるが、ぎりぎり高度で症状のないものは経過観察するが、弁の狭窄は進行性であるため、しっかりと経過をみる。
 
また、手術をすればなんでもOKではなく、術後のことも考えて手術を進める。
手術に関しては、特に生体弁の寿命や弁特有の合併症(あらゆる弁機能不全)についても説明し、理解を得ておくことが重要です。
 
大動脈弁狭窄症で、高度とされるのは、心エコーで、最高血流速度 4.0m/s以上、推定平均大動脈圧較差 40mmHg以上、弁口面積 1.0cm2 or 0.6cm2/m2以下であり、また、エコーでは重症度の評価をしきれないものに関しては、カテーテルでの測定で平均圧較差 40mmHg以上のものとなります。
また、心エコーで5m/s、推定平均圧較差 60mmHgを超えるときや、弁口面積 0.6cm2未満のときには超高度といって、無症状でも手術が勧められます。ただ、この値にこだわるのではなく、4.5m/s、50mmHg程度でもひとつ重症度を上げて考えることが重要だと思います。
 
 
大動脈弁狭窄症に関する何らかの症状とは、最も危険な失神、狭心症、そして、心不全です。
 
失神と狭心症は特に危険です。手術の時期を可能な限り急ぐ必要があります。
これらの症状は、大動脈弁狭窄症により循環血流量が何らかの理由で瞬間的に低下して、脳血流や心臓の血流(冠循環)が相対的に不足してしまった状況です。常に不足しているというよりは、何らかのきっかけで瞬間的に心機能と弁による後負荷がミスマッチを起こして循環血流が瞬間的に減少する(=afterload mismatch#)ということが起こっています。秒単位で、この状態が解除されれば、一過性の失神や狭心症ですみますが、持続した場合には、突然死になります。
大動脈弁狭窄症で、もっとも恐ろしいのは、突然死を起こしうるという点です。
 
ちなみに循環器疾患で突然死を起こしやすいのは、それぞれ重症の大動脈弁狭窄症、肺高血圧、心室頻拍、先天性心疾患です。
 
高齢者の場合には、動脈硬化によりもともと脳血管や心血管系(冠動脈)に狭窄性の病変があり、それに大動脈弁狭窄症による血流不足があわさっての症状となっていることがあります。
 
循環器内科医に受診する段階で、今まで3回くらい失神したなどといわれる方がいますが、非常に危険です。
一般的な失神と突然死が同じ機序だけではないとも思いますが、少なくとも大動脈弁狭窄症に関しては、連続した病態となっている可能性は大いにありますし、大動脈弁狭窄症が進行性の病気でありますので、症状はどんどんと重症になる可能性があります。
また、治療可能な病気ですので、適切な治療を行えるだけに失神などで重大なことが起こるのは、おしいです。
失神や狭心症がある場合には、特に急ぎで手術が必要です。
 
 
#afterload mismatchについては、よく誤用がみられます。
後負荷が上がって、左室の拡張末期圧があがることをafterload mismatchと表現されていることがありますが、後負荷が上がって拡張末期圧が上がることは何もmismatchではなりません、当たり前のことです。
後負荷が上がって、拡張末期圧が上がること(つまり、拡張末期容積が増える)で、1回心拍出量が維持されますが、拡張末期容積がそれ以上に増えることができない状態になると1回心拍出量が減少する現象が起きます。
この現象のことをafterload mismatchといいます。
つまり、afterload mismatchとは、後負荷が上がって心拍出量が減少することをいいます。