心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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PS(1):肺動脈弁狭窄症とその関連疾患。私の経験

肺動脈狭窄症か、その類縁の疾患はごくまれに遭遇する可能性があります。

 

まず、私の経験ですが、肺動脈弁弁下狭窄症という方を受け持ったことがあります。
これは右室流出路に、弁と同じ線維性成分ができてしまって、その部分で狭窄を起こしたしまうという疾患です。線維性の五円玉が右室流出路にはまり込んだ感じです。


これ自体は先天性疾患ですが、私が担当したのは、前期高齢者の範囲になる成人の女性でした。
右室の中の圧較差は最大で90mmHg程度で、右室圧は収縮期最高で110mmHg程度、肺動脈の血圧は正常だったと思います。
驚いたのが、右室の拡張末期圧が2-4mmHg程度で正常だったのです。

 

右室の後負荷が高いと、肺高血圧のように右室は慢性的な経過で圧負荷に耐えきれなくなって、徐々に拡大し収縮機能が障害されます。また、高度な肺高血圧では、心拍出ができなくなり、左室の血圧が低めになるので、右室の収縮期血圧のほうが高くなり、右室の断面が円形となるため、左室の短軸での中隔が左室を圧排するにようになります。つまり、右室の拡大と収縮期の心室中隔の扁平-左室圧排所見がみられるようになるのです。また、徐々に右房圧も高度となるため体うっ血所見が出現します。ただ、体うっ血よりは、低心拍出量で困ることのほうが多いですが。

左室の場合には、急性の圧負荷に対しては左室は拡大しますが、慢性的な圧の刺激に対しては、ラプラスの法則というのにのっとって、左室が分厚くなりながら、内腔は小さくなっていきます。その間に時間をかけて、収縮性が低下していきます。

先天性疾患だからだと思うのですが、右室が、厚みも収縮性もすべて左室のようになっていてました。圧も高いのですが、左室圧も正常のため中隔の圧排所見もありませんでした。
そのために、むきむきの両心室が元気に動いているという状態でした。

 

文献では予後が悪いと書いていますし、手術としては右心系の弁下部にくっついている弁化組織を剥離するだけということを、外科側から聞いていましたので、弁を置換するわけでもなく、リスクも普通の弁膜症手術レベルで、術後に心臓に人工物が残ることもない。

 

肺血圧は、平均肺動脈圧が平均肺血管抵抗と心拍出量で決まり、平均血圧を中心にして肺動脈の中心部のコンプライアンスと末梢のレジスタンスで、収縮期圧と拡張期圧が決まるので、右室が元気すぎるといっても、肺高血圧になるわけではないとの判断もあり、手術となりました。

手術は、もちろんうまくいきましたし、その後心臓にも異常な動態はありませんでした。

ということがありました。