心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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AS(8):手術治療と傍胸骨右側からの観察

大動脈弁狭窄症そのものの治療は、手術です。
 
その前に、心エコーで大動脈弁の石灰化が非常に強い時には、傍胸骨左側や心尖部からのアプローチでは石灰化が強く、その先の深いところにエコーが届かずに、大動脈弁狭窄の狭窄後の血流をとらえることができず、適切な計測ができないことがあります。
このような時には、右胸骨から大動脈弁を見下ろす感じでアプローチしてください。
体位も、左側臥位よりも、仰臥位か右側臥位のほうが見えやすいことが多いので、左側から見えない時には必ず右側傍胸骨像を試してください。
 
 
さて、高度で症状がある(心機能障害も含む)か、超高度か、それに準ずる程度の大動脈狭窄症では手術が必要か、考慮されます。
 
この10年でもっとも治療法が変わった循環器疾患がこの大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療です。
開胸での大動脈弁の置換術では、心停止液を冠動脈に入れて、心臓を止めて、人工心肺にする必要がありますので、単独の冠動脈バイパス術にくらべればずっとリスクは高くなります。
 
カテーテル治療であれば、原則心停止させることはありません。それだけでもリスクをぐっと減らすことができます。
 
カテーテル治療には、大きく2つの方法があります。
大腿動脈から弁付きのカテーテルを進めていく経大腿アプローチと、大腿動脈から大動脈弁の間に、何かの理由があってカテーテルを進められない時に、左の心尖部に近い肋間を少し切開して、心尖部から弁付きのカテーテルを進めていく経心尖部アプローチです。
 
カテーテル治療では、心臓を止めなくても、弁の留置が可能です。
今はもう少し進んでいるかもしれませんが、弁をいれる時(1-2分程度)に心臓を200回/分程度のrapid pacingといって、早く拍動させることで心臓を疑似的に止める(脈なしの心室頻拍と同じ原理)程度ですので、心筋そのものへの影響は非常に軽微です。経大腿動脈アプローチではほぼなく、心尖部アプローチでは心尖部近辺の限局的な障害になります。
 
また、手術の大きなリスクの一つである呼吸機能ですが、呼吸機能が悪い人は、気管挿管による術後の肺炎や、創部感染がかなり深刻になることがあります。
 
今は日本でもそうかもしれませんが、私がかかわっていた時でも海外では鼠径部の局所麻酔で経大腿動脈アプローチによるカテーテル留置術が行われていました。
すると、気管挿管自体がいりませんので、肺炎のリスクはほぼありませんし、創部も鼠径部だけなので、感染がないわけではありませんが、胸骨が感染することに比べれば、相当ましです。
 
大腿動脈や心尖部からのアプローチで気管挿管をしても、手術時間が短いですし、侵襲自体が非常に少ないので、気管挿管の上でおこなう人工呼吸管理も短時間ですみ、抜管も早くなります。
さらに胸骨を切開していないので、呼吸の障害もありません。
 
これらの理由で、特に手術リスクの高くて、開胸手術による大動脈弁置換術ができなかったか、命がけで行っていた高齢者の方、また、呼吸機能が悪いなどによる手術リスクが非常に高い人には非常に有効な治療として、始まりました。
 
現時点では、どんどんリスクの低い方への適応も広がっています。
はじめは、こんな治療大丈夫か、どんどん脳梗塞とかなるんちゃうかと思っていました。ところがどっこい、いい治療で、思ったよりもずっと合併症は少なかったのです。
 
そのために、どんどんと手術リスクの低い人にも治療が広がっていっています。
ただ、どこまでリスクの低い人にまで広げるかはゆっくりと考える必要があります。
適応が徐々に広がるにつれて、極端な例として、機械弁を選択しない(妊娠希望とか)若くて、呼吸機能や腎機能に問題がない人に関してどうするかということを考える必要が出てきました。
 
患者さんにとって、楽なのは間違いなく大腿動脈アプローチのカテーテルのよる人工弁の留置術です。
ただ、いろんな研究で、留置した弁の機能不全が、開胸手術で置換した人工弁よりも多い可能性が指摘されています。
 
今後、比較的低リスクの人に行ったカテーテル治療と開胸手術を比べた結果が次々と出てきますので、慎重に適応を考えていく必要があります。
 
なんにしても、高リスクの方に対する治療が出て、低リスクの人でも選択肢が増えるというのはいいことだと思います。