心臓超音波検査は、心不全の診療の中で非常に重要な位置を占めると同時に様々な心疾患にかかわる検査です。
心不全の基礎となる疾患の推定や、弁膜症の有無、心拍出量の推定などなど、さらに、初診時、急性期、慢性期のすべての状況、あらゆる時期において有用な検査となります。
まずは、状態が落ち着いているときに観察する一般的な項目についてから始めます。
ルーティンの検査というよりは、初学者が、少し時間をかけてしっかりとやるとしたら、こうしてほしいという思いでお話ししていきます。
一番初めに観察するのは、個人的には、心窩部からの観察です。
心窩部からは、下大静脈と心房が良くみえます。
ただ、みえにくい人も結構いるので、もちろんみえれば観察するという方針です。
まずは、心窩部から下大静脈を評価します。
下大静脈の血管径は、普通の状態と吸気の2つの状態で評価します。
普通の状態での、まず下大静脈系を測定します。大体5-10mm程度であろうと思います。
次に、吸気時にどれだけ下大静脈がペタッとしぼむかどうかをみます。
吸気というよりは、正しくはSniffといって、鼻水を吸うよう(外人が嫌うやつです)に、鼻を「ずっ」としてもらいます。
すると瞬間的に胸腔内が陰圧になって、下大静脈の血液がすっと心房内へ吸われていきます。
この組み合わせで、右房圧をおおよそ推定できるとされています。
具体的には、
推定右房圧 IVC 呼吸性変動
(mmHg) (mm)
0-5 <15 虚脱
5-10 15-20 >50%
10-15 15-20 <50%
15-20 >20 <50%
>20 >20 消失
この時に注意するのは、特に若い女性などで静脈のコンプライアンスが非常に高い人です。
血管が柔らかいと、非常に低圧でも血管は拡張しますし、時には、呼吸性変動がなくなります。
他の心エコーの観察や年齢などから、まったく心臓に異常がなさそうな若い人であれば、下大静脈の拡張は、右房圧が高いということではなく、下大静脈のコンプライアンスが高い(しなやかすぎる)ことが原因であると推定されます。
逆に、下大静脈のコンプライアンスが非常に低く、硬い状態であれば、高い圧でも血管は拡張しないはずですが、あまりこのような人は見たことがないので、ある程度の右房圧で拡張しないほどに下大静脈が硬化することはないのだと思われます。
心窩部からは、心房中隔がよくみえます。もちろん、太った人などはなかなか見えないですが。
この心房から左肩のほうに向けてみていくと、心房中隔がきれいにみえて、特に心房中隔欠損の有無の評価ができます。
他には、心房中隔瘤の評価や、ごくまれに腫瘍も観察されます。
また、右室側の心膜の状態の観察もできますので、是非、心膜炎がないかどうかを意識してみてください。
慣れていくと、いつかエコーをみながら、心膜から「がりがり」という音が聞こえるようになるかもしれません。
比較的観察しやすい人であれば、左右の心房と心室、さらに大動脈弁を含んだ5腔の観察が可能で、細かい計測は無理ですが、弁膜症なども含め、一気に観察することができてしまいます。
特に、この角度からの観察が最も三尖弁閉鎖不全の逆流速度を正確に測れる人もいます。
ついでに、腹部大動脈もみてしまいましょう。
動脈瘤の有無や動脈硬化の程度もわかります。先の話しですが、大動脈弁閉鎖不全の重症かどうかを判断するのに、大動脈の拡張期逆流波形というのがあります。心窩部から大動脈弁閉鎖不全を認めた時に、そのまま腹部大動脈に拡張期の逆流があるかどうかもあわせて観察してっ見ましょう。
さらに、胆のうもみて、胆石がないかなどもみてみましょう。