心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(56:血液検査、尿酸)

尿酸(UA, uric acid)は、心不全のバイオマーカーとなります。
 
あらゆるバイオマーカーにいえることですが、ある疾患であるバイオマーカーが異常値を示すときに、おおむね3つに分けられます。
① BNPのように、ある疾患(心不全)に対して、生体を保護しようとして上がっている
② アルドステロンのように、それがあがることで生体にとっては疾患自体をさらに悪くさせている、または、尿毒症関連の数値などのように有害な物質であり、その物質により症状がでる。
③ クレアチニンのように、そのバイオマーカーが上がるのは疾患の悪化を反映するものの、そのバイオマーカー自体には直接的な生体への影響はない。
 
疾患を治療するときに、例えば、結果としてBNPが下がるように心不全そのものの治療は行うとして、BNPは生体を保護しようとして増えているので、BNP自体に対しては、BNPを上げるような治療が必要と考えられます(NEP阻害薬)。アルドステロンであれば、同じように心不全そのものの治療を行うのと同時に、その働きを阻害する(抗MR薬)必要があります。
クレアチニンであれば、根本的な疾患の治療(腎不全を悪化させているもの)を続けるしかありません。
 
尿酸に関しては、おそらく心不全や腎不全の悪化によって上昇するバイオマーカーではありますが、尿酸自体が直接的に心不全を悪化させはしないだろうと考えています。
 
ただ、動脈硬化性疾患に対しては、尿酸を低下させる治療は有効です。しかし、現時点では動脈硬化を伴わない、例えば拡張型心筋症などでは尿酸を低下させる治療による心不全の予後改善はみられていません。また、最近よく使われているフェブキソスタットに関しては、心不全患者で過度な血圧低下などが起こっていますので注意が必要です。
 
もちろん、高尿酸血症では、痛風発作や腎機能を悪化させることが考えられるため、あくまで治療はガイドライン通り、尿酸値 8.0mg/dlを越えたら治療を考えるでいいと思います。特に、もともと尿酸が正常値で、心不全の経過とともに尿酸が上がっている人に関しては、心不全自体が重症と判断できますので、尿酸を厳格にコントロールする意味はあまりないように思います。
 
 
尿酸とはなにかということですが、核酸の中のアデノシン酸(AMP)とグアニル酸(GMP)が代謝される経路の最終生成物です。
 
なんとなく、核酸やDNA,RNAに関連した代謝の中の一経路というイメージをお持ちだと思います。
まず、このあたりの言葉を順に追っていきたいと思います。
 
プリン塩基という言葉が尿酸の代謝にとって非常に重要な単語となってきます。
このプリン塩基と対になるのが、ピリミジン塩基です。これはステロイド骨格ととかと同じで、プリン塩基という構造、ピリミジン塩基という構造をもった塩基です。
具体例:プリン塩基=アデニン、グアニン etc.  ピリミジン塩基=シトシン、チミン、ウラシル etc.
 
この塩基に、糖がついたものが、ヌクレオシドです。ヌクレオシドの糖には2種類あって、リボースとデオキシリボースです。
つまり、プリン塩基かピリミジン塩基にどちらかの糖が付いたものが、ヌクレオシドといいます。
 
さらに、このヌクレオシドにリン酸が付いたものが、ヌクレオチドといいます。語尾のシドがチドになっています。
この塩基、糖、リン酸からなるヌクレオチドが、ホスホジエステル結合という結合によって1列に並んだものが、いわゆるDNAやRNAです。
デオキシリボースを糖としているヌクレオチドが結合したものがDNA(デオキシリボ核酸)で、リボースを糖としているヌクレオチドが結合したものがRNA(リボ核酸)です。
 
この中の、プリン塩基をもったヌクレオチド、すなわちアデノシン一リン酸(AMP)、グアニル一リン酸(GMP)が代謝される時に、最終的に生成されるのが尿酸なのです。
これが、血液の尿酸が、核酸やプリン体といったものをとると上がるといわれる理由です。
 
最近は、食事の影響は以前から考えているよりも少ないといわれるようになっていますが。
 
プリン塩基自体は、核酸以外にも、NADなどの補酵素やカフェインにも含まれています。
 
このプリン塩基の代謝経路で最も重要な補酵素がキサンチンオキシダーゼ(XO)です。尿酸からどんどん代謝されていって、最後の行程で、キサンチンまたは、ヒポキシキサンチンからXOを補酵素として、尿酸が生成されます。
尿酸の合成阻害薬として創薬されているのが、このXOを阻害する、XO阻害薬です。どのように阻害するかの違いはありますが、阻害する酵素は同じです。そのため、併用効果はありません。
 
 
また、合成された尿酸は、最終的に腸管や腎臓で排出されます。
心不全の時には、腎臓の尿酸が主となって排出障害が起こることで、血中の尿酸が上がると考えています。
 
尿酸の排泄に関しては、近位尿細管で行われます。
尿酸を、近位尿細管を構成する移行上皮にあるURAT1という輸送体で、尿細管から細胞内へ再吸収します。URAT1は、乳酸やニコチン酸などを尿細管に排出して、尿酸を回収するので、腎臓に乳酸が高い状態では、乳酸を排泄する代わりにより多くの尿酸が再吸収される可能性があります。
さらに、移行上皮の血管側についているGLUT9(=URATv1)によって移行上皮細胞内から血管側へと尿酸は移動していき、血中へと戻っていきます。
この尿細管から細胞内への経路を阻害するのが、プロベネシドなどの尿酸排出促進薬(ただしくは再吸収阻害薬ですが)です。
 
また、複数の輸送体が移行上皮の尿細管側についていて、これによって尿酸は細胞内から尿細管内へと再度分泌もされています。比較的有名なものが、ABCG2かと思います。
このABCG2が弱いと細胞内の過剰な尿酸排泄が行われずに、血液へとどんどん再吸収され、食生活など関係なく高尿酸血症になりやすくなります。
また、前述のURAT1が弱いと尿酸の再吸収が行われずに、異常に尿酸値の低い、低尿酸血症の原因となります。
 
 
さて、尿酸自体は、抗酸化物質といわれています。
人間が、抗酸化物質であるビタミンCが合成できないのは、尿酸があるからだといわれています。
(ほかの哺乳類などは、尿酸をさらに無害な物質にします)
 
ただ、尿酸の抗酸化効果は、血中濃度で 6.0mg/dl程度までで、これは、血中に溶ける尿酸の値(7.0mg/dl)に近いですが、これを超えると平滑筋細胞などにURAT1を通じて取り込まれて、動脈硬化を惹起する因子となるとされています。つまり、正常値であれば、抗酸化物質であるが、高値であると動脈硬化惹起因子となります。
そのため、高尿酸血症は動脈硬化性の疾患と強い関係があり、動脈硬化の予防・治療のためのターゲットとなります。
 
 
先に述べましたが、今までの研究では、心不全では尿酸が高ければ、予後が悪い。しかし、治療自体はガイドラインに従う以上に、例えば、6.5程度の尿酸値を治療する効果もなければ、尿酸の治療薬を尿酸値に関係なく投与しても、心疾患にとっていい結果はないので、あくまで治療は心不全がない人と同じ一般的なガイドラインに沿うことが求められます。