心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

なぜ、サムスカは有効なのか、血行動態的に安全なのか。それは、腎静脈のナトリウム濃度の変化にあると考えられる。

すこし浮腫に関してのおさらいです。

心不全の時には、何らかの理由で心内圧が上昇します。その結果、心臓の最も下流にある右房圧が上昇します。すると全身の静脈圧が上昇し、それによって全身の浮腫が生じます。
この時の血管から間質への水の漏れはスターリングの法則に従うとされ、間質へ漏れ出た水はそれぞれの組織に分布しているリンパ管から回収されていきます。リンパ管で回収できる範囲の水の移動であれば、血管から組織に漏れでた水は再度静脈に回収され、間質の浮腫が起こることはありません。

間質から細胞内への水の移動も、スターリングの法則で説明できます。ただ、間質には、多少水が増えても簡単に間質圧が増加しない緩衝剤があります、それがグリコサミノグリカンです。水分子が間に入り込むことで圧が上がらずに間質はむくむことができます。血管のように水の量が増えると圧の上昇に直結するわけではないということです。

 

心不全だけでなく、腎不全や肝不全などの全身的な疾患により浮腫が起こった時に行う治療は、基本的には利尿薬です。
同じ浮腫でも静脈血栓や下肢のリンパ浮腫のような限局的な障害による浮腫には利尿薬は効かないというよりも、浮腫を起こしていないその他の全身が脱水になるのを助長してしまう可能性があるために、危険なこともあります。

 

心不全では、循環血流量を維持しつつ、利尿薬で余分な水を排出します。多くの心不全では、水とともに塩類の過剰な貯留も共に認めているため、ほとんどは、既存のナトリウム利尿薬のみで治療が可能です。ループ利尿薬を中心にとサイアザイドとアルドステロン拮抗薬を調整するだけで浮腫自体の治療は可能で、循環不全にさえ留意していれば、なったとしても最後の方で腎前性腎不全になる程度で、大きな合併症もなく治療が可能なことがほとんどです。

ただ、時折このナトリウム利尿だけでは引けない水がある患者さんがいらっしゃるのは確かで、高張食塩フロセミド混注を行ったり、循環不全もないのにドーパミンを使ったり、時にはECUMを使って浮腫の治療をすることもありました。

 

当初サムスカはこのような難治性の心源性浮腫に対して使われ、有効性を示しました。一時は、内服するECUMともいわれましたが、さすがにこれは言い過ぎで、ECUMは腎循環に関係なく水の調整が可能ですが、サムスカは腎循環が保たれていることは必須条件にはなります。
また、例えばループ利尿薬など多くの利尿薬は一旦尿細管内に分泌されてから、内側から作用する感じになります。このため、尿細管内にアルブミンがあるような状態では、アルブミンと薬剤が結合して作用を示さなくなったり、糸球体からのろ過や尿細管からの分泌、さらに尿細管内の各薬剤が作用するイオンチェネルなどさまざまな制約があり、それが既存の薬剤ではどれかが効かない原因があると、他の薬剤も共通部分が多いため、結局薬剤を変えても効かないということもあります。


しかし、サムスカの場合には、血流にのって、血管側から作用しますので、尿細管側の問題はあまり関係ありません。もちろん、間質の浸透圧が十分あるとか、アクアポリンが正常であるとかの制約はありませすが、これらは他のナトリウム利尿薬が効きにくくなるような状態よりも起こりにくいということがあり、ナトリウム利尿薬が効かない状態でもサムスカなら効くという状況が生まれやすくなります。


つまり、ナトリウム利尿薬をとことん使って、ナトリウム利尿薬が効きにくい状況がさらに形成されて、その状況でも腎循環さえ維持されていれば、サムスカは有効であるという状態がありました。
当初ループ利尿薬抵抗性という状況で、サムスカを使ったらすごくよくなったという報告が続々と様々な施設から発表されるようになりました。
初めはみんなおっかなびっくり使っていて、ループ利尿薬が効かなければ、サムスカを使うという状況でしたので、あまりに引っ張りすぎて、腎循環まで障害してしまうとさすがに効かないので、少し早めに使うようになりました。

さらに、今は入院日から使った方が早く治療が終わりそうだ、合併症がおこりそうな症例以外に使えば、基本的には大丈夫だということになり、さらにいくつかの報告でも、早期のサムスカの利用は有効であるという結果の元、徐々に早期から、危なそうな症例を除いて、使っていくという風になってきているように変わってきていると思います。特に、ある程度心不全を専門ないし、興味のある医師のいる施設でそのような傾向が高いように個人的には思っています。

 

このようなサムスカ早期投与でもいいんじゃないかと、流れの中で重要なことは、先ほど述べたように一部の合併症の出そうな患者さんをきっちりとわければ、合併症はほとんど起きないという臨床医たちの経験があると思います。


まず、安全な理由としてサムスカ単独では血行動態はほぼ変わりません。これは、基本的に自由水に近い低ナトリウムの尿しか出ないということになると思います。
例えば、投与前の尿中ナトリウムが60mEq/L程度だとすると、ラシックス投与し反応尿があるときには、2-4時間後の尿中ナトリウムは120とか160mEq/Lまで上昇します。しかし、サムスカの場合には、尿中のナトリウムは、ほぼ60mEq/L程度と変わりません。尿量が増えるので、1日のナトリウム排泄量は増えますが、濃度としては変わらないため、やはり自由水に近い利尿ということになると思います。
そのため、各種報告でも血行動態にも影響は与えにくく、あきらかに同じ尿量であれば、ナトリウム利尿薬を使ったときよりも、血行動態は安定し、体の余分な水を中心に抜くため、循環にかかわる水分量には変化を及ぼしにくいのだろうと考えられます。

これは、サムスカが間質を中心とした部分から水を引くため、血管内の水分量に影響を与えにくいということにあると思います。自由水を点滴似た時には、ほとんどが間質にたまるとお話をしましたが、サムスカはまさにこの逆を行っているのだと思います。

 

間質から水を抜くということの説明として考えられる機序の仮説をお話しします。

サムスカはほかの利尿薬よりも水を多く排出します。そのため、腎静脈の塩分濃度は、投与前の腎静脈の塩分濃度よりも高くなります。腎循環は、約20%あります。今までよりも多少でも塩分濃度の高い20%の静脈が他の静脈血と混ざって心臓の中で混合静脈となり、さらに動脈血となります。すると、この新たな動脈血は組織の間質よりも少しナトリウム濃度の高い血液ということになります。


毛細血管内と外である間質の間で、ナトリウムは自由に行き来できますが、濃いナトリウムの血液が流れると、ナトリウムが間質へ流れると同時に間質から血液内に水分が移動してきて、新たな平衡状態となります。また、ナトリウムにはDonan効果といって、少し血管内に水を引き込む力もあります。
つまり、ナトリウム濃度の濃い毛細血管内の血液と間質の間で、塩と水のやり取りにより血管内の水分量が維持されながら、間質の水が減っていくので、血管内水分量が需要な規定因子である血行動態は安定したままということになります。
ちなみに、これは高張食塩の原理と同じです。

そのため、重症な心不全であっても、血行動態は安定して利尿を得ることができます。


ただ、注意しなければいけないこともあって、ループ利尿薬とサムスカは、相乗効果がある可能性があるので、重症心不全に対して投与する時にはループ利尿薬を減量してから投与して、そのうえで、4時間程度の時間をおいて、再度治療を追加するようにするなど、重症心不全に対して初回投与する時には安全マージンを取って投与することが重要だと思います。