心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(55:血液検査、CK:クレアチンキナーゼ)

今回は、クレアチンキナーゼのお話です。

クレアチンキナーゼは、Creatine kinase (CK)といわれることがいいですが、 creatine phosphokinase (CPK) 、 phosphocreatine kinaseといわれることもあります。
 
心不全と、CKは直接的な関係はありません。どちらかというと、心不全の原因である、心筋梗塞や心筋炎の時に上昇するので、これら疾患の診断や重症度評価に有用です。
 
CKについて、あれこれ述べるま前に、ひとつだけ注意があります。心筋梗塞と心筋炎の時のCK値のとらえ方は違うということです。
 
急性心筋梗塞の時の、もっとも高いCKが1000程度なら、軽症の部類に入る急性心筋梗塞と考えていいですが、心筋炎で、CK1000は非常に重症です。急性心筋炎でCK1000程度であれば、基本的にECMOなどの体外循環が必要かもしれないと構えたほうがいいです。
 
おそらく、急性心筋梗塞の時の最高CKが1000程度なら、それほど大きくない血管の閉塞であったり、主要な血管でも比較的末梢のほうが閉塞して、発症後トロポニンも上がるかどうかのタイミングで、緊急での冠動脈のカテーテルなどによる治療が行われ、うまくいったような状態だと思います。そのような時のCK 1000であれば、末梢の枝の閉塞(大きくはない対角枝など)で、そこが心室瘤になって、破裂でもしない限り死亡することは考える必要はないような状態だと思われます。
 
しかし、心筋炎でCKが1000程度は、危険です。心筋炎の時のCKはしばらく持続します。
血管が詰まって限られた領域の心筋から一時的にでる最高CK1000と、心筋炎のように持続的に心筋障害によって漏れ続けるCK1000とでは、重症度はかなり違います。急性心筋炎の場合には、この疾患名だけでも十分な注意が必要ですが、CKが500程度、1000程度だから大丈夫というのは、危険です。急性心筋梗塞の時のCKとは、まったく違うことを意識する必要があります。
 
 
さて、CKは何かというと酵素です、キナーゼなので、リン酸化酵素です。キナーゼは、何かがリン酸化するのを触媒する酵素ということです。例えば、タンパク(大体はたんぱくですが)をリン酸化するものは、プロテインキナーゼとか、受容体のチロシンをリン酸化するものはチロシンキナーゼといいます。チロシンキナーゼは、受容体のチロシン残基をリン酸化することで、活性状態やリガンドに対しての反応性を落としたりといった働きをします(インスリン受容体のリン酸化による耐糖能障害が有名です)
逆に脱リン酸化を行うのは、ホスファターゼという酵素になります。平滑筋などは、リン酸化と、脱リン酸化によって筋肉の緊張状態を調整しています。
 
さて、CKはクレアチンキナーゼなので、クレアチンをリン酸化する反応に対する酵素ということになります。クレアチンは、腎臓の糸球体ろ過量を簡易的に観察できるクレアチニンの代謝前の物質です。
 
クレアチンは、何をしているかというと、エネルギーの貯蔵と移動を担っています。
 
細胞内のエネルギーは、主にミトコンドリアで作られ、最終的にADP(アデノシン2リン酸)をATP(アデノシン3リン酸)にすることによって使用できるエネルギーとなります。
つまり、ミトコンドリアでできたさまざまなエネルギーによって、ADPにリン酸をもう一つくっつけて、ATPにすることにより、エネルギーごとATPとなります。また、ATPは、エネルギーを使い時には、ATPaseという酵素によって、ADPとなり、その時に、貯めていたエネルギーを放出、使用します。細胞内のエネルギー貯蔵量はATP量ともいえます。
 
クレアチンは、ミトコンドリアの膜の間にあって、ミトコンドリアでできたエネルギー(ATP)によって、ホスホクレアチンになり、エネルギーの譲渡を受けます。この状態で、エネルギーを貯蓄したり、細胞内の必要な場所にすぐに輸送します。この輸送は、ATP単独では移動するよりも効率よくエネルギーを運べ、これをクレアチンシャトルといいます。
このエネルギーの貯蔵やシャトルの状態を、MR(magnetic resonance)でみることができ、一部心筋細胞の機能評価を試みる報告もあります。
 
 
 
クレアチンキナーゼは、2つの構成要素からなっています。Mという要素とBという要素です。その要素によって、MM、MB、BBという種類があります。それぞれ、CK-MM、CK-MB、CK-BBといいます。
 
心筋障害かどうかを見るときには、CKの値とともに、CK-MBの値をみます。心筋細胞のCKの中の10%がCK-MBといわれています。
ちなみに、心筋梗塞の診断を日本ではCKの増加量でみます。冠動脈閉塞による心筋障害があり、最高のCKが正常上限の2倍以上となったら心筋梗塞となります。(海外ではトロポニンの陽性化で心筋梗塞としていることがあります)
 
患者さんの診療の中で、血液検査で、CKが上昇したときに、その10%程度がCK-MBであると心筋梗塞や心筋炎が強く疑われます。
つまり、救急外来の患者さんで、CK 1000、CK-MB 100程度なら、心筋梗塞などの心筋障害の疾患が強く疑われます。
 
また、全身のショックで、多臓器の障害が強い時には、CK 5000、CK-MB 80程度などというときがあります。全身の横紋筋にもCK-MBがあるので、横紋筋だけの障害かもしれませんし、CK-MBの10倍 800程度は、全身のショックに伴う心筋障害かもしれません。両方の状態の間かもしれません。このような時には、併せて、トロポニンT or Iの定量をするのが有用です。
 
時折、CKの30%程度をCKMBが占めるときがあります。このような時には、検査過程自体の異常や、横紋筋の治癒過程で、CKMBが優先して作られ、血中に漏れていくという現象が認められますので、一応、心電図などのチェックも必要かもしれませんが、あきらかに10%を超えているときには、逆に心筋細胞由来でないと考えてもいいです。