心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(54:血液検査、トロポニン)

心臓特有のバイオマーカーとしては、トロポニンが有用です。

ANPやBNPは心臓にかかる負担によって変化し、トロポニンは心筋細胞に障害が起きた時に増加します。
 
 
トロポニンは、以前心臓の弛緩・収縮機構でも述べましたが、心臓の動き・ポンプ機能の制御に重要なたんぱくです。

まず、トロポニンには、TとIとCと3種類あって、それが複合体を形成して、それぞれの働きによって心臓の弛緩・収縮が起こります。

トロポニンTは、作用するべき場所に固定するための指示装置で、トロポニンIはアクチンとミオシンが結合しないように邪魔をしています。トロポニンCは、カルシウム濃度に応じて、カルシウムと結合したり、離れたりします。
心筋細胞内のカルシウム濃度が上昇して、トロポニンCとカルシウムが結合すると、トロポニンIが外れて、アクチンとミオシンがATPのエネルギーを使ってスライディングといわれる収縮を起こします。
 
臨床で測定されるのは、この中で、トロポニンTとIのどちらかです。なぜかというとトロポニンCに関しては、他の横紋筋のトロポニンCと同じ構造のため、測定しても、心筋由来か横紋筋由来かわからないためです。
 
 
では、実際にどのような時にトロポニンを測定するかというと、まずは、狭心症や心筋梗塞を疑ったときが最も測定される時だと思います。
また、心筋炎の時にも非常に有用ですし、今回のテーマである心不全、または何らかの心筋症や弁膜症の初回受診時にも測定されます。
 
今回は心不全ということでまとめていますが、狭心症や心筋梗塞とは何かというと、心臓の動脈(冠動脈)に何らかの異常があって、心筋に酸素不足・酸素欠乏が起こっている状態です。これらを、冠症候群といいます。
一般的には、心臓の動脈が短時間に不安定化している状態のことをいい、この状態を急性冠症候群といいます。
慢性的な冠症候群もあっていいと思いますが、慢性冠症候群とは言わず、その時には一般的に虚血性心疾患といいます。
 
少し、心不全を離れて、急性冠症候群の時の話しですが、
急性冠症候群の時には、どの程度トロポニンが上がっていれば、異常ととらえるかというと、個人的には、少しでも上がっていれば異常だと思います。
一般的な正常値が、トロポニンIなりTに設定されています。
あるメーカのトロポニンIの上限値は26.2pg/mlとなっています。つまり、30pg/mlは、異常です。
基本的に、正常な人はトロポニンIが20pg/mlはないと思いますので、少しでも上がっていれば心筋に障害があることを示唆すると考えてよいです。
ただ、腎不全があると、心筋に障害がなくても少しトロポニンが高くなるといわれていますので、腎不全のある方に関しては、少し注意が必要ですが、基本的には、何らかの狭心症や心筋梗塞などの急性冠症候群を疑う症状があって、トロポニンが異常であれば心臓の動脈に何らかの異常がある可能性は否定できません。
このような時には、心電図や心エコーの所見と合わせてということにはなりますが、トロポニンの陽性所見は心筋虚血の重要な所見です。
 
また、これもよく知られたことですが、何かが起こってから血液検査に変化が出るのには、一定の時間が必要です。
このトロポニンは心筋に障害が出てから、2時間-3時間程度で血液検査に変化が出るとされています。
つまり、症状出てから2時間で、血液検査をして、トロポニンが陽性であればいいのですが、陰性であっても、否定はできません。
逆に、症状が出てから5時間ンも6時間も経過している状態で、トロポニンが陰性であれば、心筋梗塞はほぼ否定できます。ただ、他の致死的な疾患がないというわけではないので、他の検査は必要です。
他の疾患も、心エコーと胸部CTとD-dimerで診断できます。
 
 
慢性心不全の時や、なんらかの心筋症と診断したときには、トロポニンも併せて是非測定してください。
トロポニンが高いからといって、何か治療が変わるわけではありませんが、やはり、リスク予想というか、予後予測は重要だと思います。
トロポニンが陽性の心不全は、もちろん虚血性心疾患がないということが前提ですが、やはり、なんからの心筋の障害が潜在的に存在することを示唆しますので、進行の速度などを含めて、注意深く治療を行っていくことが重要になります。