心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心エコー:2.傍胸骨左室長軸像(1.左心室の観察)

心窩部からの観察が終わったら、患者さんを完全に左側を下にした横臥位にします。
その状態で、胸骨の左縁をできるだけ上から観察していきます。
心臓がみえず、上行大動脈しかみえない高さから観察を開始します。

まず、上行大動脈の血管径を測定します。30mm以下なら正常だと思います。35mmを超えていると要注意。
45㎜を超えていると大動脈瘤の診断になりますので、迷わずに全身のCTでほかの部位に治療が必要な動脈瘤がないかチェックしましょう。
臨床でいつも迷うのは、はっきりとした正常と異常の間、いわゆる境界領域です。
35-45mmの場合には、今の日本の医療(訴訟閾値の低さ)では、CTの検査を勧めたほうがいいと思います。


そのまま、肋間ごとに観察をしていきます。コツは、肋間ごとに、プローブを上下に大きくゆっくり動かすことです。
上縁ぎりぎりから見下ろしたり、肋骨下縁ギリギリから見上げたりしたときにだけ、きれいに心臓が描出されることがあります。
肋間ごとにプローブを大きく上下に動かして、きっちりすべてを描出するように気を使ってみてください。


さて、このようにしてまずみるのが、傍胸骨左室長軸像です。
この描出では、左室と左房、大動脈基部を主にみることができます。
さらに、左室と左房の間の僧帽弁、左室と大動脈の間の大動脈弁の観察も重要です。

描出において重要なことは、できるだけ頭側から観察するということです。
見えない患者さんの場合には仕方ないですが、足側からの描出では、左室の心尖部が画面の向かって左上方向にそるような描出になります。これは、左室長軸としては適切ではありません。見える人に関しては、できる限り頭側(上のほう)から描出して、左室の心尖部が画面の左側やや上くらいになるようにします。(こうすると画面に入りきりませんが、それで大丈夫です)


①左室
左室のおおよその動きと大きさの指標となる左室拡張末期径、左室収縮末期径、左室駆出率を測定します。
まず、測定する際の描出のコツは、左室の基部近くがきれいに描出できていることと、乳頭筋および腱索がみえていないことです。
乳頭筋や腱索がみえていたら、中隔側か、側壁側のどちらかによっているということです。2腔像ではありませんが、この像も基本的に乳頭筋は見えないように描出します。そして、もっとも左室の拡張末期径が大きくなる像を、これも上下にプローブを動かして、しっかりつ出してください。

拡張末期径などの測定に関しては、基部の近くで測定します。また、S状中隔や下壁基部瘤などで測定の対象となる部位に異常がある場合には、その部位から心尖部にずらして測定します。
左室に局所的な壁運動の異常があるときには、この像で測定する駆出率は参考程度の値になりますが、それは織り込み済みですので、あくまで、この像でみえる範囲で測定してください。
ちなみに、左室の拡張末期径と収縮末期径を測定すれば、あとは、teichholz法というのがあって、これから左室の駆出率は、自動的に計算されます。この値は、左室の局所的な壁運動異常がなければ、信用性の高い数値となります。

腱索が太くてどうしても画像内に入ってしまう場合や、収縮末期の後壁の内側が同定しにくい時が結構あります。何回も静止させた画像を動かしながら、収縮末期の後壁をしっかりと同定して径から測定しましょう。まず、収縮末期を同定し測定してから、拡張末期を測定するというほうが確かな時もあります。あくまでCase by caseです。

左室の壁運動異常に関しては、この段階でも評価はできますが、心尖部から行うほうが系統的にみれます。
この段階で、特に注意してみるべきは、左室の中隔と基部後壁の異常です。

中隔が薄い場合:
サルコイドーシスのことが多いですが、心筋梗塞もないわけではありません(中隔枝限定の心筋梗塞)。とくには、肥大型心筋症のカテーテル治療(アルコール焼灼術)の跡ということもあります。
また、心室中隔欠損に大動脈弁がはまり込んでいることもあり、このような場合にも、この中隔基部のポウチ(袋)状の異常から疑うことになります。
他には、肥大型心筋症で肥大していた部分が薄くなっていくような拡張層肥大型心筋症という場合もあります。


中隔が厚い場合(全体は普通程度の厚み):
S状中隔や肥大型心筋症が疑われます。この部分がぶ厚いときには、ここで加速血流がないかどうかを評価することが必要です。ひどい場合には、僧帽弁が中隔の肥大と収縮による加速血流によって、中隔側に引き寄せられる現象が起きます(収縮期前方運動、SAM, systolic anterior motion)。pseudoSAMというのもあって、僧帽弁と腱索が中隔側に動くものの、僧帽弁逆流が起きていないものをいいます。基本的には、程度と僧帽弁の弁尖の長さなどの問題であり、起きている現象の原因としては同じです。
この現象が、バルサルバ負荷(いきみ)の時にだけ見られることもありますので、思いっきり息を吸っておなかに力を入れてもらいましょう。急に、加速血流がでることがあります。

また、中隔ではないですが、サルコイドーシスの場合には、下後壁基部などの、心筋梗塞では説明できない心室瘤がみられます。特に後壁の基部の瘤はこの像が最もみやすいと思います。

心尖部の異常は、基本的に左室と左房のみがみられる2腔像でみるのが基本になりますが、この像でもみれることはできますので、みえる範囲で観察してみて下さい。
特に、瘤と緻密化障害をみましょう。
緻密化障害は、左室の心尖部を中心に、柱のような構造物がみえます。本来であれば、左室内腔はつるっとした感じにみえますが、ぼこぼこと柱のような構造物が見える時があり、これを緻密化障害といいます。
緻密化障害は、左室の収縮機能低下の原因の一つですが、特に収縮機能低下のない、ただ、緻密化障害があるだけの人も、特に無症状の成人で結構います。
しっかり収縮していればいいですが、心尖部の動きが多少でも悪いと、血栓症の原因になります。
かならず、カラードプラーをゲインを落として、低流速のカラーまでみえるようにして観察しましょう。